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『SUNNY 強い気持ち・強い愛』と『サニー 永遠の仲間たち』、少し『タクシー運転手 約束は海を越えて』(映画のブログ)



今回はナドレックさんのブログ『映画のブログ』からご寄稿いただきました。


『SUNNY 強い気持ち・強い愛』と『サニー 永遠の仲間たち』、少し『タクシー運転手 約束は海を越えて』(映画のブログ)


 2018年公開の日本映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛*1 』は、韓国映画の傑作『サニー 永遠の仲間たち*2 』を、『モテキ*3 』『バクマン。*4 』の大根仁監督がリメイクしたのだから鉄板だ。歌あり、ダンスあり、恋と喧嘩と友情あり。懐かしい1990年代のヒット曲に乗せて、ついホロリとさせられる、とても素敵な作品だ。


*1:『映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』公式サイト』

http://sunny-movie.jp/


*2:「『サニー 永遠の仲間たち』 彼女が変わらない秘密」2012年07月19日 『映画のブログ』

http://movieandtv.blog85.fc2.com/blog-entry-347.html


*3:「モテキ』 ガッポリ儲ける方法」2011年09月27日 『映画のブログ』

http://movieandtv.blog85.fc2.com/blog-entry-267.html


*4:「『バクマン。』実写映画の3つの魅力」2015年10月06日 『映画のブログ』

http://movieandtv.blog85.fc2.com/blog-entry-558.html


 


 かつて、軍事独裁政権に支配され、民主制からほど遠かった韓国では、民主化運動が盛んだった。

 特に全斗煥(チョン・ドゥファン)将軍がクーデターで実権を握った後に起きた1980年の光州事件は、諸外国にも衝撃を与えた。韓国南部の光州市で、民主化を要求する市民たちと軍・警察が衝突、激しい抗争に発展し、多くの民間人が殺されたのだ。

 韓国は戒厳令下にあったため、何が起きているのかはっきりしたことが判らない中、危険を冒して光州市に潜入し、軍に武力鎮圧される市民の姿を映像に収めて日本国に脱出したのが、ドイツ公共放送連盟東京支局の特派員ユルゲン・ヒンツペーター*5 だった。彼の活躍により、光州市の惨状を世界が知ることになる。


*5:「위르겐 힌츠페터」『ko.wikipedia.org』

https://ko.wikipedia.org/wiki/%EC%9C%84%EB%A5%B4%EA%B2%90_%ED%9E%8C%EC%B8%A0%ED%8E%98%ED%84%B0


 ”青い目の目撃者”と呼ばれるヒンツペーター記者と、彼を乗せたタクシーの運転手キム・サボクの決死行をモデルに映画にしたのが『タクシー運転手 約束は海を越えて*6 』(2017年)である。

 外信記者を乗せて民主化のために走り回っていたというキム・サボク*7 が、映画では金に困った冴えない親父キム・マンソプとして描かれたり等の違いはあるが、独裁者朴正煕(パク・チョンヒ)が倒された後の民主化ムードを一瞬で吹き飛ばし、新たな軍事独裁政権の幕開けを告げた光州事件の衝撃を、この作品はよく表している。

 (相対的に)自由と民主主義に溢れる隣国日本を対置させることで、独裁政権下の韓国の危険と不自由さを感じさせたのも印象深い。


*6:「タクシー運転手 約束は海を越えて [Blu-ray]」『amazon.co.jp』

https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B07GKBGGYF/nadreckthepal-22/ref=nosim/


*7:「『タクシー運転手』キム・サボク氏の長男「本当の父の姿を知らせたい」」2018年05月15日 『hankyoreh japan』

http://japan.hani.co.kr/arti/politics/30571.html


 光州市民を弾圧した後、オリンピックの誘致等で国民の目をくらましていた全斗煥政権であったが、激しい反政府運動に押され、遂に1987年6月に与党側から民主化宣言を出すことになる。

 『サニー 永遠の仲間たち』の舞台である1986年は、民主化宣言が出る直前だ。この映画では、民主化運動の闘志たる兄が登場したり、少女たちの喧嘩が政府と民衆の抗争に重ね合わされたりして、少女たちの生き様と、自由と民主主義を渇望する国民の戦いが重なる構図になっている。


*8:「民主化宣言」『ウィキペディア』

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%91%E4%B8%BB%E5%8C%96%E5%AE%A3%E8%A8%80


 すなわち、『サニー 永遠の仲間たち』は、主人公の女性たちが高校時代を懐かしむだけの映画ではないのだ。彼女たちの回想を通じて、韓国の市民一人ひとりが軍事独裁政権下の生活と圧制に抗した日々を想い起し、あるいは当時生まれていなかった若者は政府と戦う勇気と先人の苦労を知り、いま手にしている平和と民主主義の大切さを噛みしめる作品なのだ。

 だからこそ、40代女性の回顧映画に留まらず、国民みんなの共感を得て、韓国で740万人を動員する大ヒットになったのだろう。


 


 日本版リメイクの『SUNNY 強い気持ち・強い愛』と同じく2018年に公開されたベトナム版リメイク映画『Thang Nam Ruc Ro*9 』(眩しい五月)も、韓国版の構図に似ている。

 ベトナム版は、時代を2000年と1975年に設定している。25年を隔てた二つの時代を描くのは韓国版と同じだが、ベトナムで1975年といえばベトナム戦争最後の年だ。こちらの映画は、1975年4月30日にサイゴン政権が崩壊する前の南ベトナムを舞台に据えて、ゴ・ディン・ジエム大統領の圧制に対抗するべく結成された南ベトナム解放民族戦線とサイゴン政権が戦った動乱の時代を振り返る。南北ベトナムの統一後、経済発展を続ける平和な現在と対比しながらだ。


*9:「Tháng Năm Rực Rỡ」『123Phim』

https://www.123phim.vn/phim/1607-lich-chieu-thang-nam-ruc-ro


 このように両国版とも国民すべてに関係する社会の変化を踏まえた作りになっているが、日本版はそのような歴史的・社会的な視点を持ちえない。日本国には、よりよい社会にしようと皆が立ち上がり、自由と平和を獲得した国民共通の思い出がないからだ。

 代わりに『SUNNY 強い気持ち・強い愛』が描くのは、1990年代の風俗ファッションだ。本作は、”コギャル”と呼ばれた当時の女子高生の生態図鑑になっている。


 とはいえ、それこそが大根仁監督の狙いであろう。

 本作をつくるに当たり、大根仁*10 監督は「90年代後半、20世紀最後のどんちゃん騒ぎを象徴する存在である“コギャル”のことはいつか物語にしたいと思っていました。彼女たちがアラフォーになる今、機は熟したのかなと。」と述べている。


*10:「広瀬すずが篠原涼子のコギャル時代演じる、大根仁監督「SUNNY」製作決定」2017年10月2日『ナタリー』

https://natalie.mu/eiga/news/251052


 原田眞人監督のテレビ映画『盗写 1/250秒 OUT OF FOCUS』(1985年)を愛し、映画『SCOOP!』(2016年)としてリメイクしたほどの大根監督にとって、いつか物語にしたいと思っていたコギャルのこととは、原田監督がコギャルを描いた1997年の『バウンス ko GALS』に返歌を送ることだったのかもしれない。

 いくらコギャルの映画を撮りたくても、1990年代ならともかく21世紀にそんな機会がそうそうあるはずがない。しかし、40代の女性が高校時代を振り返る『サニー 永遠の仲間たち』の手法を使えば、そしてコギャル世代が40歳前後になる”今”ならば、コギャル映画を世に送り出すことが可能だろう。大根監督はそう考えたのではあるまいか。


 


 本作が描くのも「革命」なのだと大根仁*11 監督は云う。

 「日本版で描かれるのは、女子の革命。決して周りに合わせることなく、ギャル自らが自分たちのルールと価値観を作った“ガールズ・ブラボー”な時代です。オヤジたちにNOを突き付けて波風を立て、男社会の中でアイデンティティを確立しようとした彼女たちが、女子の在り方を変えたとも言えます。」


*11:「PRODUCTION NOTES」『映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』公式サイト』

http://sunny-movie.jp/about/production_notes.html


 残念なのは、よしんば90年代がガールズ・ブラボーな時代だったとしても、女子の革命であったとしても、それが国民みんなの共通の思い出ではないことだ。


 たとえば本作は、韓国版の七人組「サニー」を六人組に減らしている。転校生のナミを奈美へ、リーダーのチュナを芹香に、保険の外交員になる太っちょのチャンミを不動産営業の梅に、金持ちと結婚するジニを裕子に、ミス・コリア志望のおしゃれ好きなポッキを美容師志望の心(しん)に、モデルの美少女スジを奈々に置き換え、原作に忠実に対応させながら、本作はメガネの文学少女クムオクだけを消してしまった。原作の個性的なメンバーを一律コギャルに置き換えた中に、コギャルらしからぬ文学少女の占める場所はなかったのだろう。

 90年代にもメガネの文学少女はいたと思うが、本作は女子高生の物語にするだけでなく、女子の範囲をも狭めてしまった。


 たしかに七人組は多すぎかもしれない。韓国版は124分の中にエピソードがぎゅう詰めで、かなり目まぐるしい展開だった。日本版同様118分のベトナム版も、六人組に改変している。余裕をもって描くなら六人がいいとこなのだろう。

 だが、一人でも多くの観客に共感してもらうには、できるだけ多くの人生模様を描きつつ、共通項を見出したほうがいいはずだ。

 コギャル文化の掘り下げに集中した本作は、韓国版のスタンスとはまるで逆だ。


 クムオクを削ったことで弱まったものは他にもある。

 貧困の描写だ。

 奈美(=ナミ)は高給取りの夫と暮らす主婦、芹香(=チュナ)はビジネスに成功した大富豪、裕子(=ジニ)は金持ちと結婚して玉の輿と、大人時代の彼女たちは裕福な暮らしぶりを見せつける。本作には生活にゆとりがない梅(=チャンミ)や、転落人生を歩む心(=ポッキ)も登場するが、心がアルコール依存症を病んでいるせいもあり、貧困問題より生活のすさみ方が気になってしまう。

 韓国版では、ここに家族の厄介者になっている無職のクムオクが加わることで、否応なしに貧富の差が浮かび上がるようになっていた。


 日本で90年代に高校生といえば、就職氷河期に直面した、いわゆるロスジェネ世代*12 だ。思うように就職できず、低収入を強いられる人が多かった世代である。

 この二十数年、日本国で起きているのは貧困層の増加と格差の拡大*13、そして階級社会化だ。

 韓国版に負けず劣らず、日本版でも貧困問題を取り上げる余地はあったと思うのだが。


*12:「一生貧困の宿命「アラフォー・クライシス」を生んだ犯人は誰だ」2018年02月27日『現代ビジネス | 講談社』

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/54609


*13:「『万引き家族』 インビジブル ピープルを巡って」2018年06月13日『映画のブログ』

http://movieandtv.blog85.fc2.com/blog-entry-631.html


 


 かように、韓国版と日本版では、ストーリーがほぼ同じでも印象が大きく違う。

 少女たちの喧嘩が政府と民衆の抗争に重ね合わされ、国民みんなが一体となって戦う様子を演出した韓国版の乱闘シーンは、日本版では遊園地のプールの出来事になった。水着姿ではしゃぐ客たちに交じって、水鉄砲を撃ったりする少女たちは、喧嘩というより楽しいじゃれ合いのようだ。とても国民みんなの戦いには感じられない。


 韓国の観客は、老若男女誰もが『サニー 永遠の仲間たち』の少女たちに、その後ろで民主化のために戦う学生・市民たちに声援を送り、拍手喝采したに違いない。

 日本映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』を観ながら、日本国には皆で社会をこんなに良くしたんだと振り返る思い出がないのかと、さみしさを噛みしめた。


「SUNNY 強い気持ち・強い愛」 [さ行]

監督・脚本/大根仁

出演/篠原涼子 広瀬すず 板谷由夏 小池栄子 ともさかりえ 渡辺直美 池田エライザ 山本舞香 野田美桜 田辺桃子 富田望生 三浦春馬 リリー・フランキー

日本公開/2018年8月31日

ジャンル/[ドラマ] [青春] [音楽]


『映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』公式サイト』

http://sunny-movie.jp/


執筆: この記事はナドレックさんのブログ『映画のブログ』からご寄稿いただきました。


寄稿いただいた記事は2018年09月11日時点のものです。


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