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「店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」レポート


2018年3月29日(金)10時から、東京・霞が関のコモンゲート西館13階にある金融庁の共用第一特別会議室で、第3回目となる「店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」(座長:池尾和人慶應義塾大学経済学部教授)が開催された。この検討会は一般に公開されていて、この日、集まった傍聴人はFX業者などの関係者を含め、100人近い人数だった。

■各国のFX取引の規制について

定刻の10時に、座長の池尾和人氏の発声で検討会は幕をあけた。まず、第2回の検討会での質疑についての回答の発表があった。答弁にたったのはまず金融庁の事務局担当者。店頭取引関して、各国の規制の動向について伝えた。

■米国はレバレッジは主要通貨で50倍

それによると、米国の規制は、業者の最低資本金は2000万米ドル+顧客からの預託金の5%から1000万米ドルを控除した額で、レバレッジは主要通貨ペアが50倍、その他の通貨ペアは20倍である。ちなみに、ここで言う主要通貨とは、米ドル、スイスフラン、カナダドル、日本円、ユーロ、オーストラリアドル、ニュージーランドドル、スウェーデンクローナ、ノルウェークローナ、デンマーククローナである。さらに、ストレステストは半月に一回は実施、報告制度もあり、毎日、注文や約定に関するデータを全米先物協会(NationalFuturesAssociation=NFA)に報告することが義務付けられている。もし、提出が遅れた場合は、1日あたり1000米ドルの遅延料を支払わなければならない、という。

■EUは顧客に損をさせない仕組みが整う

次に、欧州(EU)の規制動向の説明に移った。資本要件は、自己勘定において取引を行う(自己でポジションを抱える)業者は、最低資本金73万ユーロ(約9600万円)が必要である。レバレッジは、主要通貨が30倍、その他の通貨が20倍。ちなみに、欧州での主要通貨は、米ドル、ユーロ、日本円、英ポンド、カナダドル、スイスフランである。また、ロスカット制度については、有効証拠金が当初証拠金の50%以下になった場合、建玉ごとに強制決済される仕組み(Marginclose-outrule)を義務付けている。さらに、未収金発生リスクへの対応は、口座ベースで顧客の預託した証拠金を上回る損失を顧客に生じさせない仕組み(Negativebalanceprotection)を義務付けている。ドイツとフランスではすでに類似の制度が導入済みだという。

■英国は資本金以外の規制は実施が凍結

そして、英国の規制動向の説明に移った。資本要件は、自己勘定において取引を行う業者については、最低資本金73万ユーロ(約9600万円)。そして以下の項目については「案」の状態のままで、実施はまだ見合わせている。たとえば、レバレッジは、取引経験が1年未満の者については、主要通貨は25倍、その他の通貨は20倍。取引経験が1年以上の者には、主要通貨は50倍、その他の通貨は40倍。ロスカット制度については、顧客の純担保額が当初証拠金額の50%を下回った場合は、建玉ごとに強制決済される仕組み(Marginclose-outrequirement)を義務付け。特典も禁止。顧客が口座を開設したり、取引を行うに当たり、これを促進するような特典の提供を禁止。リスク喚起も行う。顧客の口座の損益の割合についての公表を含む、リスクについての注意喚起を義務付ける。

■韓国は派手なFXトレードコンテストを制限

最後に韓国の規制動向について説明をおこなった。最低資本金は20億ウォン(2億円)で、レバレッジは一律10倍。投資家に対して、損失口座比率等についての情報を含む、取引リスクに関する告知を義務付けている。また、高価な景品が支給される大会の開催等を通じた、過度な投資家の勧誘を制限している。
ちなみに、日本の場合は最低資本金は5000万円で、ストレステストは年2回、レバレッジは個人が25倍、法人はその時の状況で決定、となっている。

■店頭FX取引の東京外為市場への影響

続いて、金融先物取引業協会の担当者が「店頭FX取引業者のストレステストの結果について」と題して、第2回での質問への回答も含め、説明をおこなった。さらに、三菱東京UFJ銀行の代表者が「店頭FX取引の東京外為市場における影響について」と題して、説明を行った。それによると、店頭FX取引のカバー取引は、東京市場では主要な流動性の供給源となっているが、各国の為替市場の取引高(1営業日平均ペース)あたり)を見てみると、東京外為市場は第5位に位置づけられている。もっとも取引高が多いのはロンドン市場で、平均すると2兆5000億円の取引高がある。続いて、ニューヨーク市場、シンガポール市場、香港市場と続いて、その後、東京外為市場がくる。さらに、店頭FX取引フローの市場全体の決済リスクに与える影響について説明を行って、発表を終えた。

■データから見たFX投資の実情

前回の検討会で出た質問等への回答を含めた説明が終わったあと、いよいよ第3回の検討会の討議に入った。真っ先に手を挙げたのが、神戸大学大学院経済学研究科教授の岩壺健太郎氏。この日、もっとも長い時間をさいて、説明を行った。まず、デリバティブの社会経済的機能や取引データを用いたFX投資家の分析、ポジションの保有期間で分類した投資家のレバレッジと収益率の関係などについて説明を行ったあと、分析結果について次のように結論づけた。

保有期間、レバレッジと投資収益率の関係

投資家の分類とポジション保有期間

■人気があるのはスキャルピング

まず、分析結果からわかることとして、
1.半数を超える投資家がポジションの保有期間が1時間以内のスキャルピングの投資家であること。
2.短期投資は資金をリスクに晒す時間が短く、変動率も低いので、収益を上げるために、日中のレバレッジは高く、反対にオーバーナイトのレバレッジは低い傾向がある。
3.トレンドが出やすい長期と異なり、短期投資で収益を上げるには、高度な投資スキルが必要。しかし、専業トレーダーにスキャル投資家が多いように、資金効率の良いスキャルは高い利益を挙げられる投資手法として人気がある。
4.投資スキルが未熟な投資家がスキャルに多く、あまり利益を挙げられずに市場から退出していくので、「スキャルの平均的な収益率は低い」という可能性も高い。

■レバレッジの低下で収益率の絶対値が低下

次にレバレッジ規制がマスコミ等を騒がせているが、実際に、個人のレバレッジ25倍が規制強化されると投資家への影響はどうなるだろうか。岩壺教授は調査結果から次のように結論づける。
1.金融庁が第一回の検討会で示した資料によると、最大の相場変動をカバーできるレバレッジの水準は、平均8.7倍。この試算は、店頭FX業者の自己資本からの補填がなく、投資家が自発的に損切りしないとしても未収金が発生しない事態を想定してのものだ。
2.現状、レバレッジ倍率25倍の上限のもと、12.5倍に達するとアラートメールが届く。仮に、レバレッジの上限が8.7倍になると、実質4.35倍よりも高いレバレッジをとっていた投資家に影響がでる。第2回の検討会で提出されたGMOクリック証券の資料によると、かなり多くの投資家が影響を受ける。
3.レバレッジ以外の投資手法が変わらないとすると、実質レバレッジの低下によってプラスの収益率は低下し、マイナスの収益率は改善する(つまり、いずれも収益率の絶対値が下がる)。

■取引の場を移す可能性が高い

では、投資家はレバレッジが強化されることによって、保有期間をはじめとして投資手法を変えるだろうか。
1.短期投資と長期投資では求められる投資スキルが異なるので、スキャルで収益を上げている投資家がこれを機に投資手法を変えるとは考えにくい。国内FXから海外FX、法人化、仮想通貨取引へと、取引の場を移す可能性が高い。
2.FXは株価や商品先物に比べると変動率が低いので、レバレッジをかけることで収益性を高めている。レバレッジ規制が強化されると金融商品としての価値が大きく低下する。
3.FX証拠金市場の取引高減少、東京市場の流動性の低下、税収の減少が危惧される。
4.規制の手が届かない市場にも国内投資家を向かわせることは投資家保護の観点から見ても問題。

■レバレッジの強化は投資の自由を奪う可能性が

そうなると、レバレッジ規制は果たして正当化されるかどうかだが、つまり、プルーデンス政策として正当化されるかどうかである。ちなみに、プルーデンス政策とは、金融システムの安定化、金融機関の連鎖倒産を防ぐための政策である。しかし、プルーデンス政策のほぼ全ては金融機関に対する規制で、融資先企業の行動に直接的に影響を与える規制は大口信用供与規制のみだ。つまり、大口信用供与規制は、FX証拠金取引でいうと「特定の個人に対して建玉の上限を設けること」だが、すでに店頭FX業者の多くは、顧客の保有建玉の上限を設定している。
1.小口投資家を含めて一律に投資行動を制限するレバレッジ規制は、投資の自由、ヘッジや資産形成の需要を制約することになりかねない。
2.金融システムの安定化を目的とするなら、レバレッジ規制でなくても、自己資本や保険、モニタリング(ストレステスト等など)でも対応が可能である。
そう説明して、次に「未収金リスクをゼロにする必要はあるのか」の質問に回答し、説明を終了した。
その後、あおい法律事務所の荒井哲朗弁護士から、FX取引の不透明性や不透明性から生ずる不健全性、決済リスクとレバレッジ規制から起きた訴訟ケースで、判決事案となっているもの、判決終了事案となっているもの、係争中の事案ものについての説明があった。荒井弁護士は、日本の投資家は高いレバレッジを好む傾向にあり、投機的な取引をする傾向もみられる。さらに、海外FXの規制についても広告などを規制する必要があるのではないか、という意見を述べて説明を終えた。
ここまでですでにかなりの時間が経過をしており、残りの時間で第3回検討会での討議をするということになるのだが、十分に討議する時間がないのは明白だった。何人かの委員は発言したが、私の印象に残っているのは、検討会の議論の方向性についての指摘が二人の委員からあったことだ。ここまでは決済システムのリスクを中心に話が進んできたが、今後、第4回目以降の検討会はどうなるか未定だ。しかし今後も、この検討会を見守っていく必要がある。
ただ、今回、注目したのは岩壺教授の調査結果で、レバレッジ規制ばかりに目を囚われていると、投資家保護の本質を見失ってしまう、ということを感じた。
こうして第3回の検討会は12時に終了した。


【ニュース提供・エムトレ】




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