古くから人間の生活圏の近くに暮らし、いつでも見かける身近な野鳥。中でもスズメ、ハト(ドバト、キジバト)、カラスを「ビッグ3」とすれば、それにつぐ四番手としてムクドリがあげられるでしょう。実際この四種は典型的な「ものさし鳥」として、「スズメより大きい」「ハトと同じくらい」「ムクドリより小さい」など、他の野鳥のスケールを見分ける基準にも使われます。ですが、ムクドリといえば、ビル街や繁華街などの大通りの街路樹に、何千、何万羽という数で集まり、騒音と糞害をもたらすとして嫌われる「害鳥」のイメージが強いのではないでしょうか。「こんな迷惑な鳥いなくなってしまえ」と感じる人も少なくないかもしれません。
では、本当にムクドリがいなくなったらどんなことになるのでしょうか。まずはムクドリってどんな鳥なのか、知ることからはじめてみませんか?

嫌われ野鳥のムクドリ。でもよく見るとなかなかかわいいと思いませんか?

嫌われ野鳥のムクドリ。でもよく見るとなかなかかわいいと思いませんか?


都市鳥の嫌われ者?ムクドリ不人気の理由とは…

ムクドリ(椋鳥 Sturnus cineraceus)は、スズメ目ムクドリ科ムクドリ属に属する在来野鳥です。全長21~24cm、頭頂部から後背部、翼にかけては黒褐色、腹部は後背部よりは明るい灰褐色、腰周辺は白っぽく、目の周辺から頬、額、顎から胸元にかけては独特の白い斑が入り、白いお面をつけているようにも見えます。この白い斑模様には個体差があり、また雌は雄に比べて全体に黒みが薄く、明るい色をしていることで性別を見分けることができます。体の黒っぽさと対照的に、橙色のくちばしと黄色い足が鮮やかで目立ちます。
東アジアの中緯度の温帯に分布し、特に日本と朝鮮半島南部が分布域の中心で、九州以北に普通に留鳥として、東北北部と北海道には夏鳥として生息します。
食性は雑食で、植物の種子や葉、果実(ただし果実食の傾向が強いヒヨドリやメジロなどと違い、酸味のある柑橘系は嫌うようです)も食べますが、昆虫や小動物などのいわゆる「虫」の採餌が食生活の中心です。このため樹上よりも地上に降りて活動することが多く、その際にはスズメなどの樹上性の鳥が両足をそろえてぴょんぴょんとはねるように移動するのと違い、足を交互に出してのこのこと歩きます。その姿はカラーリングもあいまってペンギンのようにも見え、なかなか愛らしいものです。短い尾羽とがっしりとした足は、地上歩行に適した形状に適応したものです。
こんなムクドリ、近年では大集団を作って街路樹などを塒(とや)とする習性から騒音や街路を汚す迷惑害鳥として駆除対策に乗り出している自治体も各地にあり、イメージは最悪。もしかしたら、ハトやカラスより嫌われているかもしれません。
見た目が陽気で溌剌としたヒヨドリや優美なオナガ、かわいらしいメジロやシジュウカラなど、他のおなじみの野鳥と比べると、黒ずんでぼんやりした体色で、ギャーギャーと聞こえるやかましい鳴き声など、一般人はもちろん、野鳥好きの中でもあまり好かれているとは言いがたい存在です。ところが実はムクドリは、かつては人間社会に恩恵をもたらす大益鳥として称えられ、格別な好感をもって見られていた時代があったのです。

巣立ちしたての若鳥に餌を与える母鳥。春にかけて、ムクドリの育雛の様子が見られます

巣立ちしたての若鳥に餌を与える母鳥。春にかけて、ムクドリの育雛の様子が見られます


害虫駆除のプロフェッショナル。大集団の群飛は最先端テクノロジーの参考に

ムクドリのクチバシはほっそりとしてやや長めです。イカルやスズメのように短く太いくちばしは硬い木の実を割るのに適していますが、ムクドリのくちばしにはそれほどの強度はありません。その代わり可動域が大きく、一膳のお箸のような繊細な働きをします。樹上や草についている虫はもちろん、土中に隠れているミミズなどの環形動物やコガネムシなどの幼虫、ケラ、また密生した草株の隙間などにいるコオロギ類などを探り当て、くちばしを菜箸のように巧みに使って虫を引きずり出して食べてしまいます。
また空中戦も得意で、飛び交う蛾やハチを追いかけて捉えます。夏には、上下左右に逃げ回るセミをすばやくきびすを返しながら捕らえるムクドリの雄姿もしばしば観察できます。
このように昆虫類を大量に捉え、一羽のムクドリは一年間に一万匹の虫を食べていると推測されています。日本は温暖多湿で植物や水が多く、昆虫たちにとっては快適な環境です。もし数の多いムクドリの働きがなければ、私たちの周りに飛び交う虫ははるかに多くなり、農作物の被害は増えることでしょう。特に毛虫や芋虫類はムクドリの食圧によって相当抑制されているのです。
このため農耕中心の時代には益鳥として扱われ、農家ではムクドリたちに感謝し、彼らの好物の熟柿を梢に残してやったりもしていました。
ムクドリが大集団を作り、集団で飛翔する様子は日本だけではなく世界各地のムクドリ属に見られる習性です。こうすることによって、攻撃者であるタカなどの猛禽は目標を定められず、捕獲に失敗する確率が高くなるといわれています。
塒を求めて何万羽もが群飛する様子は壮大で、イワシなどの魚群とも共通し、意思をもった一個の巨大な生命体の動きのように見えます。最近の研究では物理学の「相転移」(水が凍りつく、金属が磁場を作るなどの、物体がその位相を変換させること)に近いとも語られます。おそらく、渡り鳥の群れが自然とかりがね型のフォーメーションを取るのと同様、大群の羽ばたきによる大気の攪拌によって、いわばコクーン(繭)状の精妙な見えない大気のヴェールを作り出し、ムクドリたちの動きを制御連動させているのでしょうが、詳しいことは未だに謎です。この運動現象は、たとえばドローンの集団飛行などでドローンが互いに衝突しないようなプログラムを構築するのにも役立っています。

ムクドリの大集団の群飛。ムクドリがいなくなったら虫が大発生するかも?

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知ればこんなにかわいい。家族愛と茶目っけにあふれるおしゃべりムクドリ

秋から冬にかけて大集団を形成していたムクドリは、三月の春の訪れとともに繁殖期に入ります。雄雌がつがいとなって、集団から離脱しペア行動に移るのです。
ムクドリはもともと木の洞(うろ)に巣がけをする洞巣性です。人家の戸袋や建物の配管の穴などに巣がけをするのは、樹木が減少し、人里の似たような環境をさがしてのものです。枯れ草や落ち葉や羽毛を運び込み、温かいゆりかごを作ります。
ムクドリの卵はほれぼれするようなきれいなスカイブルーで、まるで春の空のよう。宝石のような卵を5~6個前後産み落とし、12日間ほど抱卵すると雛が孵ります。その後一ヶ月弱の期間、両親で餌を運んで雛を育てます。
巣立った若鳥は、体色がかなり親鳥より薄く、黒っぽい部分が明るい茶褐色なのですぐに見分けがつきます。親について採餌の訓練をしますが、若鳥同士で遊んだり、うまくできずに親鳥に餌をねだったりと、人間の幼児と変わらない子供らしいふるまいを見せます。親鳥としては早くスキルを身につけてほしいので、しきりと真似をするようにうながすのですが思うように行かず、さわがしく餌をねだられて口に運んでやったりと、仲むつまじいムクドリ家族の行動は、ほのぼのしていて愛らしいもので、豊かな情緒を垣間見ることができます。
こうして春から夏の間に普通は2サイクルほどの繁殖をして、繁殖期の終わる秋ごろには親子共々近隣のムクドリたちと次第に集団を形成します。
東南アジアに分布するキュウカンチョウ(九官鳥 Gracula religiosa)は、ムクドリ科に属し、日本のムクドリの近縁種。オウムやインコと並び、人語をたくみに真似して発声する=喋る鳥として有名です。実は飼育されたムクドリも、キュウカンチョウと同じように人の言葉をたくみに真似て、喋ったり歌ったり声帯模写をしたりするのです。ここからも好奇心旺盛で茶目っけのある性格と高い知能を有することがわかるかと思います。

ムクドリは家族主義。色の薄い子供たちと、親との色の違いもわかります

ムクドリは家族主義。色の薄い子供たちと、親との色の違いもわかります

増えているように感じるムクドリですが、全国的な調査では、住宅地率が高い地域では増えていても、本来住んでいたはずの森や畑の多い農地では減少しているという結果が出ています。理由はいくつか推測できますが、農地や田舎がムクドリたちにとって、かつてより住みやすい場所ではなくなったこと、逆に都市部では、その環境に適応した特定の昆虫類が増加しているという二極化が見られ、これがムクドリが都市に集中する原因になっているかもしれません。
ムクドリを駆逐してしまえ!ではなく、たとえば駅前ロータリーのシンボルツリーに大集合するムクドリたちをいかにして分散させるか、我が家に巣がけされるのをどう防ぐか、といった、ほどほどの対策こそがのぞましいのではないでしょうか。そのためには、ムクドリたちが営巣しやすい樹木を増やすことがまず肝要です。
近年では治安維持の名目で街路樹をまるで棒きれのように強剪定してしまうことが各地で行われていますが、そのようなことをすればするほど、わずかに残った大きな木にムクドリたちは集合してしまいます。
住宅の巣がけには、彼らが嫌う木酢液(炭焼きの際に生じる樹液)をポイントに設置するなどの対策も提案されています。決して強くはなく、懸命に生きている弱い小鳥と共存する道を考えるのも、人の使命ではないでしょうか。

(参考・参照)
熊本の野鳥百科 大田眞也 マインド
江戸川区 西葛西駅のムクドリ対策について
減少しているムクドリやスズメ 全国鳥類繁殖分布調査の結果から
話すムクドリ

日本人は古来ムクドリに感謝し、大切にしてきました

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