【ナイロビAFP=時事】ケニアの首都ナイロビに住むエスター・ワンジルさん(22)がヘロインに手を出したのは16歳の時。赤ん坊を失ったつらさを紛らわすため、初めは煙を吸っていた。今は、大量に安価で出回るようになったことから、注射器で打っている。(写真はケニアの首都ナイロビのスラム街でヘロインを打つ準備をする常習者)
 「重度のジャンキー(常用者)だから、いつも2回分必要」と言いながら、ぼろぼろになった静脈に注射針を刺す。スラム街の教会裏の空き地に、60人ほどの常用者とたむろしている。
 ケニアは、かつては欧州へのヘロイン密輸ルートの中継点にすぎなかったが、東アフリカを大量のヘロインが経由するうちに今や主要な最終目的地になり、常用者が増加している。
 このごろでは、注射1回分はわずか120ケニア・シリング(約120円)ほどで手に入り、ワンジルさんのように困窮したケニア人は、薬物に依存してあっという間に身を滅ぼしてしまうことになる。ワンジルさんは、薬を手に入れるためなら何でもすると話した。たとえ犯罪や売春であってもだ。
 ヘロインは、かつてアフガニスタンのケシ畑から持ち出され、陸路で中東を通り抜け、「バルカン半島ルート」を経由して欧州各地ヘ送られていた。
 しかしシリアの内戦や、欧州への移民流入による国境管理の強化を受け、密輸業者は海路に目を向けた。船に積まれたヘロインはインド洋を渡り、警備の甘いアフリカの東海岸で陸揚げされ、そこから欧州に向け北上するようになった。

■14~18歳の約1%がヘロイン使用
 ケニア南部のモンバサは、主要な到着港となった。同国は政情が不安定な東アフリカ地域で治安の指標となっているが、腐敗がはびこり、監視が行き届いていない。
 「麻薬密売人らは、ケニアをこの地域で最も頼れる国の一つと見なしている」と語るのは、国連薬物犯罪事務所(UNODC)東アフリカ地域の元ディレクター、アマド・デ・アンドレス氏だ。
 東アフリカに陸揚げされたヘロインは、UNODC推定で年間42トン。その大部分は遠方の市場向けだったが、しばらくするうちに地元の関心も高まり、密輸業者は5トン程度を東アフリカでの販売用に確保するようになった。同地域のヘロイン需要は拡大し、市場規模は1億5000万ドル(約160億円)に達した。大半がケニアの買い手だった。
 「ケニアは、以前はヘロインの輸送ルートの一つだったが、急速に最終目的地になった」と、同国政府の薬物乱用防止全国運動局(NACADA)の代表を務めるビクター・オキオマ氏は言う。
 ケニア保健省の2018年の推計によると、吸引や注射によるヘロイン使用者は2万7000人に上るが、調査対象となったのはカウンティ(自治行政区)の3分の1だ。スイス・ジュネーブのNGO、国際組織犯罪対策会議は、注射による使用者だけで5万5000人はいるとみている。
 NACADAによると、人口約5000万人のケニアで、ヘロインは薬物としてマリフアナ(大麻)に次いでよく使用されている。
 オキオマ氏によると、14~18歳の青少年のうち約1%がヘロインの使用を認めている。小学生の使用者もいるという。

■コロナ禍で薬物使用者が増加
 ケニアは2018年に沿岸警備隊を設立し、モンバサの港でのコンテナ検査を強化した。最近では、ナイロビの国際空港で国際刑事警察機構(インターポール、ICPO)が主導する麻薬検知プログラムにも参加している。
 UNODCによると、アフリカで押収されたヘロインやモルヒネの量は2008年から2018年にかけて10倍に増加し、大多数の押収先が東アフリカだった。
 「新型コロナウイルスの現在の感染状況も、使用者が増える要因になっているのは確かだ」とケニアの薬物使用者ネットワーク「KeNPUD」のジョン・キマニ代表は指摘。失業などで気持ちが落ち込み、薬物に走るのだと話した。
 ケニアは、ヘロインの禁断症状を緩和させ、離脱を助ける代替療法として用いられるメタドンの提供機会を増やしている。
 UNODCによると、ケニアでは10か所ほどのクリニックでおよそ7000人のヘロイン常用者を治療している。だが、助けを必要とする全員には手が回らない。
 ナイロビ市内で路上生活を送っているジェームズ・クウェンガさんの場合、一番近い医療機関は市内の反対側にあり、そこまで行くには約150ケニア・シリング(約150円)の交通費がかかる。
 「毎日(通院するの)は無理だ。無職だから」とクウェンガさんは言う。「この近くに来てくれないと、この薬と手を切れない連中が大勢いる」【翻訳編集AFPBBNews】
〔AFP=時事〕(2021/05/27-12:06)

情報提供元:時事ドットコム ワールドアイ
記事名:「ケニアでヘロインまん延 かつての密輸中継地が一大市場に