うだるような暑さが続いている。こうした中で注目が集まりつつあるのが、バッテリーで動く小型ファンで外気を服の中に取り込むことによって涼をとることができる「ファン付きウエア」だ。元々は建設現場などで働く人たちの暑さ対策として愛用されてきたものだが、最近はアウトドアや街中での着用など、ニーズが広がりつつあるようだ。
「涼しい…」
7月28日まで東京ビッグサイトで開催された、暑さを解決するための企業の商品や技術を紹介する「猛暑対策展」。会場を訪れると、複数の企業のブースで展示されているファン付きウエアが目に入った。
ファン付きウエアを着たことがない記者も、どれだけ涼しいかを試してみたいと思い、試着させてもらった。
ファン付きウエアは通常、Tシャツなどの上から羽織る。試着したのは、ユニホームなどを手がけるチクマ（大阪市）が、大手繊維メーカーの帝人、電動工具大手のマキタとともに共同開発したブランド「チクマノスマファ」の販売検討中の商品だ。下部に二つのファンが付いた2枚の布でできたパーツを背部に背負うようにし、前面にはチェストバッグかエプロンを選んで装着できるものだ。
前面のチェストバッグに入っているバッテリーのスイッチを入れると、ファンから取り込んだ空気が背中の2枚の布地の中を巡り、首の付け根や脇の下などに配置されたメッシュ構造の通気口から風が吹き出した。
「す、涼しい……」。思わず、声が出た。
冷たい空気を取り込んでいるわけではないのに涼しく感じる理屈はこうだ。
液体は蒸発する時に周囲から熱（気化熱）を吸収する。ファン付きウエアはこの仕組みを応用している。①ファンで取り込んだ空気による風が汗にあたる②汗が蒸発する際に熱を吸収して涼しく感じる③風の心地よさも合わさり、体感温度は低くなる――というわけだ。
取り込んだ空気の温度が下がるわけではないが、35度程度までの外気温であればかなり涼しく感じ、それ以上の暑さであっても「気化熱現象もあるので、熱中症対策としてもかなり有効」（チクマ担当者）という。
ファンの動力は、缶ビール1本分（350グラム）程度の重さのバッテリー。バッテリーを前面に装着したチェストバッグに入れてしまえば、重さは気にならなかった。フル充電すると最大風力で6・5時間程度稼働するという。
チクマは2022年に開設したインターネット通販サイトで、釣りやキャンプなどのアウトドアやゴルフなどのスポーツ、街中での着用など、「日常使い」をしたい個人向けにもファン付きウエアを販売している。売れ筋は黒色のシンプルなベストタイプだが、女性をターゲットにした花柄やドット柄の商品や、ビジネスシーンを意識したスーツのようなジャケット型の商品も扱う。
「日常使い」商品が続々
チクマの担当者によると、ファン付きウエアの着用は建設などの作業現場で徐々に広がり、20年ごろには定着。こうした中でメーカー各社は、個人が日常使いできるような商品の開発を進め、昨年ごろからそうしたラインアップが増えていったという。チクマの担当者は「近年の猛暑に加え、従来品よりも膨らみにくい仕様になっており、取り入れやすくなったことも普及を後押しした」と分析する。
高い機能性、デザイン追求
作業服大手のワークマンは、キャンプでの着用を想定したファン付きベストを5月に発売した。火の粉が飛ぶなどしても穴が開きにくい素材を使用しており、高い機能性をうたう。抗菌・消臭機能やはっ水加工があるファン付きベストは、7月24日時点で売り上げが前年比で3割増になっているという。
よりデザイン性を追求した商品も発売されている。ファン付きウエアの発明企業「空調服」（東京都）は、アパレルメーカーなどとコラボレーションする形で商品開発を進めている。6月からは三陽商会などとコラボした、女性に人気の袖が膨らんだパフスリーブの7分袖丈で、大きめの襟がある上着などを発売した。
「日常使い」を定着させるべく、各社ともファンの静音性やバッテリーの軽量化にも力を入れている。記者が試着した商品も、ファンの音は思ったよりも静かで、屋外ならほぼ気にならないレベルに思えた。
厳しい暑さが続く中、ハンディー扇風機を持って歩く人の姿はよく見られるようになった。着るだけでより広範囲に風を送ることのできるファン付きウエアの需要も、今後ますます高まりそうだ。【町野幸】
