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内燃機関超基礎講座 | ライトサイジングとは何か? ダウンサイジングの次にやってくる新潮流


ダウンサイジング過給が当たり前となった昨今、新たなムーブメントが沸き起ころうとしている。口火を切ったのはアウディだ。「正しい排気量」───その真意や如何に?



TEXT:世良耕太(Kota SERA)


*本記事は2015年11月に執筆したものです

「ライトサイジング(Rightsizing)」というカテゴリーが出てきた。完成車メーカーの言い出しっぺはアウディで、技術コンサルティングのAVLとリカルドも2015年5月にコンセプトを発表している。アウディはやはり5月に、ライトサイジングの第1号として2.0ℓ直4直噴ターボエンジンを発表。9月のフランクフルトショーで新型A4に積んで披露し、10月の東京モーターショーにも出展した。アウディのほぼ全車に順次展開していく予定だ。




ライトサイジングのネーミングはダウンサイジング(Downsizing)との対比から生まれている。ライト(Right)は「右」ではなく「正しい」の意味だ。ダウンサイジングと同様に過給することに変わりはないが、排気量を過度に小さくするのが正しいのではなく、少し大きめに設定するのが正しいとする考え方だ。行き過ぎたダウンサイジングを是正する動きである。




ダウンサイジングエンジンは自然吸気エンジンに比べて排気量を小さくする(だからダウンサイジング)。単純に排気量を小さくしただけではトルクは出ないし、出力は得にくいので過給によって補うわけだ。排気量を小さくすると機械抵抗損失とポンプ損失が減る(排気量と同時に気筒数を減らす「レスシリンダー」にすると、損失低減の効果はもっと大きくなる)。ターボ過給によって低回転でも十分なトルクを発生できるようになるので、負荷の低い領域ではNAよりも低いエンジン回転数で走ることができる。低回転から発生する太いトルクを生かし、常用回転数を低く抑える「ダウンスピーディング」はダウンサイジングと一体不可分で、燃費を向上させる大きな要素だ。




低速域から力が沸き上がり、気持ちいい走りと良好な燃費を実現する過給ダウンサイジングにも苦手な領域がある。高負荷領域だ。NAエンジンの一般的な燃料消費特性を燃費率マップ(横軸:エンジン回転/縦軸:BMEP=平均有効圧)で見ると、比較的負荷の高い最大トルク発生回転数付近に燃費率の低い領域、いわゆる燃費の目玉がある。そこから負荷の低い領域に向けて燃費率は悪化していく。




一方、過給ダウンサイジングエンジンの場合は、燃費の目玉が大きいのが特徴だ。とくに低負荷側ではNAより良好な燃費率を示す傾向にあり、これがダウンスピーディングによる燃費の向上につながる原理となっている。反対に、負荷の高い領域では燃費率が悪化するため、ダウンサイジングの恩恵を得にくい。実際の走行にあてはめてみると、過給ダウンサイジングエンジンは市街地走行や法定速度の低い環境での高速定常走行は得意とするが、欧州のような法定速度の高い高速道路での定常走行や、登坂、加減速の激しい運転領域は不得意とする。

NEDCモード燃費で比較。Gen.3の2.0ℓと比較すると出力が低下しているが、燃費は10%以上も低減している。直接の比較対象であるGen.3の1.8ℓと出力は同等で、燃費は6~8%低減されている。

この不得意領域を克服するのがライトサイジングなのだが、ライトサイジングが生まれた背景には新しい走行モード、すなわちWLTCの導入が絡んでくる。WLTCが導入されると日本と欧州ではモード計測時における平均車速は高くなり、エンジンの運転負荷は高くなる。つまり、過給ダウンサイジングエンジンが不得意としていた領域での計測となるため、メリットを出しにくい。WLTCにマッチしたエンジンに仕立てるためには別の方策が必要で、それがライトサイジングというわけだ。

ミラーサイクルの効果。Gen.3とGen.3Bを比較して、2000rpm/BMEP=6bar
の取り分を示したもの。Combustion+Expansion Stroke、つまり膨張行程での取り分が大きいことがわかる。まさにミラーサイクルによるものだ。

ライトサイジングは基準とするNAエンジンよりも排気量を小さくする点でダウンサイジングと共通しているが、従来のダウンサイジングエンジンに比べて排気量を大きくする。大きくするのはミラーサイクルを適用するためだ。ミラーサイクルは圧縮比よりも膨張比を長くするサイクルで、その狙いは、排気で捨ててしまうエネルギーを、ピストンを下降させるエネルギーとして有効に使い、熱効率を高める(燃費率は低い値になる)ことにある。実際には膨張行程を伸ばす、のではなく、圧縮行程を縮めることで実現する。ダウンサイジングエンジンの排気量のままミラーサイクルにすると、圧縮行程が短くなるため実質的な排気量は小さくなり、トルクが低下してしまう。その低下分を排気量の増量で補う考えだ。ダウンサイジングと対比させて表現すればライトサイジングになるが、ストレートに表現すればライトサイジングエンジンとはミラーサイクルエンジンのことである。

早閉じミラーサイクル。Gen.3では下死点前20°だった吸気弁閉時期(1mmリフト)だが、Gen.3Bでは下死点前70°に進角させた140°という狭い開角の吸気カムを使用。ミラーサイクルの圧縮比が容積比よりも小さくなる(図のクランクは左回転)。

圧縮比<膨張比を実現する方法には、吸気行程でピストンが下降しているとき、下死点に到達する前に吸気バルブを閉じる「早閉じ」と、下死点を過ぎて圧縮行程で閉じる「遅閉じ」の2種類がある。アウディがA4に積んで導入するライトサイジング(=ミラーサイクル)の第1号は、ダウンサイジングのコンセプトで開発した1.8ℓ直4直噴ターボ、EA888 Gen.3の進化版EA888 Gen.3Bで、排気量を200cc増量させ2.0ℓとした。容積比(上死点容積÷下死点容積)は従来の9.6から11.7に高めている。圧縮比<膨張比は吸気バルブの早閉じによって実現しており、アウディ得意のソレノイド作動によるカム2段切り替え機構によって制御する。




EA888 Gen.3Bは主にミラーサイクルを取り入れたことにより、BMEPがEA888Gen.3の22barから20barに低下しているが、230g/kWhだった最良燃費率は220g/kWhに向上し、ベンチマークに据えた235g/kWh以下のエリアが大幅に拡大。これにともなって広い運転領域で燃費が向上している。

AUDI EA888 Gen.3B。先代Gen.3の1.8ℓ仕様から排気量を200cc増大され、容積比は9.6から11.7に高められている。最高出力は140kW/4200-6000rpm、最大トルクは320Nm/1450-4200rpmで、Gen.3の1.8ℓは125〜147kWだったから、動力性能はほぼ変わらない。

ライトサイジングは来たるべき高負荷モード時代を見据えた新しいエンジンの姿を提示しているが、ソリューションはひとつではない。マツダが提示する「アップサイジング」がその対抗馬だろう。アップサイジングはNAエンジンのまま、排気量を引き上げる。例えば、2.0ℓを2.5ℓにするという具合。トルクは排気量を使って出すが、このままでは低負荷領域での燃費が悪くなるので、気筒休止して実質的に排気量を半分にし、負荷の高い(燃費率の良好な)領域を使う。ミラーサイクルやクールドEGRの活用、はたまたリーンバーンの適用も見据え、全領域での燃費向上を目指している。




今後は過給のライトサイジング、無過給のアップサイジングの主導権争いになるだろうが、いずれにしても排気量は大きくなる方向だ。

同じ2.0ℓ同士で比較すると、BMEPと最高出力は約10%低下しているが、中負荷燃費を大幅に向上させている。グラフを見れば、BSFCが235g/kWh以下の領域が大きく広がっているのがわかるだろう。

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