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景色なんて眺めている場合じゃない! ドゥカティXディアベルSはとんでもない喧嘩屋だ


クルーザーの姿をしたストリートファイター、


それがDucati Xdiavel Sである。


エンジンがやたらと回りたがり、バンク角もけっこうある。


アメリカンスタイルなのに、二気筒なのに、


ドコドコのんびり走ってなんていられない。


こんなバイク、ほかにない。




TEXT●小泉建治(KOIZUMI Kenji)


PHOTO●山田俊輔(YAMADA “Anita”shunsuke)/小泉建治(KOIZUMI Kenji)

ドラッグレーサーのパイオニアは日本?

 クルーザー、もしくはアメリカンと呼ばれるモデルをベースに、近未来的なスタイルと強烈な動力(主に加速)性能を与えられたドラッグレーサーなるカテゴリーがある。市販車においてはヤマハVMAX、カワサキ・エリミネーター、ホンダX4といった日本勢が先鞭をつけ、21世紀に入るとクルーザーの本家ハーレーダビッドソンがV-RODを投入した。けっして主流になることはなく、今となっては上記モデルはすべて姿を消してしまったが、そんななかでも独自のスタイルを確立することで生き残り、進化を続けているモデルがある。




 ドゥカティ・ディアベルと、そのエボリューションモデルとも言えるXディアベルだ。クルーザーらしくマッシブなのに、どことなく体脂肪が少ないイメージで、ひと目でドゥカティとわかるスタイルを持ち、おなじみの90度V型2気筒エンジン、いわゆるL型ツインを搭載するなど、ライバルとは明確に異なるキャラクターによって存在感を放ち続けている。




 筆者はあまりクルーザーというカテゴリーに縁がなかったが、子供の頃からVMAXには畏敬の念を抱いており、エリミネーターも乗ってみたい一台だった。だからクルーザーの一種といえどもドラッグレーサーには少なからず心惹かれるものがあり、スーパースポーツを本業とするドゥカティがつくるクルーザーに興味が湧くのも至極当然なのであった。

ハンドル左側には液晶メーターの表示を切り替えやパワーモードなどの切り替えスイッチや、クルーズコントロールの操作スイッチが鎮座する。
スーパースポーツのようなコンパクトな液晶メーターを採用する。1万rpmまでしか表示されないタコメーターは、確かにドゥカティとしては異例に低い。


クルーザーとは思えぬ40度もの深いバンク角を実現!

 今回、試乗することができたのは、ディアベルシリーズのトップモデルであるXディアベルSである。まず最初に、筆者は四輪メディアの人間であり、ディアベルシリーズに乗るのはこれが初めてであったことをおことわりしておく。




 まずパッと見て目につくのは、ドゥカティならではのトラスフレームと、それに抱かれるL型ツインエンジンだ。そして240mm幅の極太リヤタイヤはドラッグレーサーらしくド迫力である。一方で50mm径の倒立フォーク、ラジアルマウントのブレンボ製ブレーキキャリパーなど、足まわりはまるでスーパースポーツだ。確かにマッチョで強そうだが、研ぎ澄まされていて無駄がない。例えるならパンプアップしたプロレスラーではなく、しっかり体重を絞り込んだ総合格闘家といったところか。




 跨がってみると、さすがにクルーザーらしくシートが低い。シート高は755mmで、身長174cmの筆者だと両足がベッタリ着いて膝も曲がる。そこから足を前方に投げ出すのもクルーザーならではだが、ステップ位置が異様に高いのがXディアベルの特徴だ。その結果、Xディアベルは40度というクルーザーとしてはかなり深いバンク角を得ているのである。




 走り出すと、もうのっけから笑ってしまった。こういう姿勢で乗るバイクって、クラッチをつないだ瞬間からドコドコドコッと、まるで巨人の手に後ろから押されるように力強く加速するものだと頭に刷り込まれていたが、Xディアベルはズババババッと軽く吹け上がってしまうから、弾けるようなスタートダッシュを決めてしまう。




 もちろん低速トルクがないわけではないし、二輪業界の諸先輩方に言わせればドゥカティとしては十分に低回転高トルク型らしいが、いやいやいや、フツーの感覚で言えばこれは十分にスーパースポーツですよ。スーパースポーツが言いすぎでも、ストリートファイターやスポーツネイキッドと言えば多くの人が賛同してくれるはずだ。

フローティングタイプのダブルディスクにブレンボ製ブレーキキャリパーがラジアルマウントで組み合わされる。フロントフォークは倒立タイプだ。この写真だけを見たら、多くの人がスーパースポーツかと思ってしまうだろう。
ドゥカティの誇る最高峰スーパースポーツのパニガーレと同様のアッパーリンク式を採用するリヤサスペンション。ショックアブソーバーはザックス製で、プリロードと伸び側の減衰力を調整できる。


片持ちスイングアームを採用しているため、リヤタイヤを右側から見るとまるでクルマのようだ。上に向かって突き出た二本出しマフラーもド迫力で、なおかつリヤホイールをしっかり見せる取り回しになっている。

回りたがるエンジンをなだめるので精一杯

 海岸沿いの自動車専用道路に入っても印象は変わらない。とにかくエンジンの元気が良いから、スロットルを一定に保ってトルクの波に身を委ねるのは難しい。前走車をどこで抜くか、パトカーや白バイはいないか、そんなことばかり気になってしまうのはまるでスーパースポーツと同じではないか。車線変更時のヒラリとした身のこなしが気持ちいいのもクルーザーらしからぬ。




 この自動車専用道路の出口ランプには少々タイトなコーナーがあって、クルーザーやヘリテイジ系モデルでは油断をするとすぐにステップを擦ってしまうのだが、Xディアベルにはそんな気配は微塵もない。試乗時間が限られていたために叶わなかったが、これならワインディングでもかなり楽しめそうだ。




 一方で直線の続く自動車専用道路では、回りたがるエンジンをなだめるので精一杯である。これでアメリカ横断なんてしようものなら、精神的に落ち着かなくてくたびれ果ててしまいそうだ。景色を楽しみながらクルージングを楽しむのなら、やっぱりハーレーダビッドソンとか、ホンダ・ゴールドウイングとか、ヤマハ・スターベンチャーとかのほうが向いているんだろう。


 


 ただし都会をヒラヒラと駆けぬけ、気持ちが乗ったら郊外のワインディングまで、といった使い方なら、Xディアベルほど適した相棒もいないかもしれない。刺激に溢れていながら、ポジションはきつくないし、低速トルクもあるから発進に気を遣う必要もない。




 そう考えると、これは新種のストリートファイターなのではないか。ストリートファイターとは、スーパースポーツのカウルを取っ払ってアップハンドル化させるカスタムスタイルのことで、後に市販モデルのカテゴリーとして定着している。歴史が浅い分、定義も曖昧だ。だからXディアベルをクルーザーではなく、ストリートファイターの新しい形と表現してもあながち間違いではないだろうし、このバイクのキャラクターが伝わりやすいかもしれない。




 ストリートファイターとは直訳すれば喧嘩屋だが、見た目も乗り味も、ここまでその言葉にピッタリのバイクもないと思ったのである。

前方に足を投げ出すクルーザースタイルながら、ステップがかなり高い位置にあるためバンク角は40度と、このカテゴリーとしてはかなり深い。またこのステップは前後のポジションを3段階に変更することが可能だ。
シート高は755mmとさすがに低い。深くえぐられたサドルのような形状はいかにもクルーザーだが、リヤシートのデザインとコンパクトさはまるでスーパースポーツだ。随所にバックスキンがあしらわれ、質感はかなり高い。


ドゥカティ Xディアベル S


ホイールベース:1615mm  車両重量:247kg エンジン形式:L型2気筒DOHCターボ 総排気量:1262cc ボア×ストローク:106.0×71.5mm 圧縮比:13.0 最高出力:112kW(152ps)/9500rpm 最大トルク:126Nm/5000rpm トランスミッション:6速MT タイヤサイズ:Ⓕ120/70ZR17 Ⓡ240/45ZR19 車両価格:274万円
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