EY調査、生活費高騰にうまく対応できないことが通信事業者が直面するリスクのトップに
・「通信事業者が直面するリスクトップ10」に初登場で1位となったのが生活費高騰への対応
・過小評価されているセキュリティ脅威:76%の通信事業者がサイバー攻撃の年間件数増加を報告
・通信事業者の気候変動関連情報開示の品質は前年より低下
EYは最新のレポート『2023年版 通信事業者が直面するリスクトップ10』(以下、「本調査」)を発表したことをお知らせします。本調査によると、通信事業者がこうした消費者心理の変化に上手く対応できないことが、電気通信業界が現在直面する最大のリスクであることが判明しました。消費者は生活費の高騰により、支出の優先順位の変更を加速させています。生活費の高騰で消費者の支出がますます増えている中、あるEY調査*¹によると、60%の家庭がブロードバンド回線の定額使用料の値上がりを不安視しており、約半数(45%)がコンテンツ関連サービスに必要以上に料金を支払っていると考えています。
通信事業者にとって、ネットワークの信頼性向上は依然として、顧客のために解決しなくてはならない問題です。こうした状況の中、「インフラの到達範囲とレジリエンスを確保できない」リスクは、新型コロナの世界的流行が始まって以来初めてランキング1位から下降し、今年は6位となりました。これは他のリスクがより増大しているためです。
EYグローバル・テレコミュニケーション・リーダーのTom Loozenのコメント:
「新型コロナの世界的感染流行のピーク時には、多くの人にとって命綱と考えられていたのがインターネット接続(コネクティビティ)でしたが、その状況は変わりました。現在、顧客は、厳しい経済状況の中、通信事業者が提供する価値にもっぱら注目しています。こうした変化に目を向けない通信事業者は、問題に直面するでしょう。経済状況による脅威に対して、ますます高まっている規制当局からの圧力が追い打ちをかけています。一部の国では、通信事業者は、低所得者向けの格安料金パッケージ(いわゆる「社会的関税」)を提供するため一層の努力をするように求められています。その結果、通信事業者は、顧客を安心させ、顧客にとって魅力的かつ、明確でわかりやすく、しっかりとしたバリュープロポジションを作り出す必要があります」
進化するサイバーリスクへの対応に苦慮する通信事業者:
2023年のリスクトップ10では、「プライバシー、セキュリティ、信頼面における喫緊の課題の変化を軽視している」リスクが3位から2位へランクアップしています。別のEY調査*²によると、76%の通信事業者が、サイバー攻撃が前年度より増加していると回答しています。
セキュリティ上の脆弱性が高まる一方で、それに見合った検討が取締役会で行われているか否か、その間に「乖離」が生まれています。あるEY調査*³によると、通信事業者の最高情報セキュリティ責任者(CISO)の39%が、セキュリティは自社の戦略的投資の一部だという的確な捉え方がなされていないと考えています。さらに、コロナ禍において、より広範なビジネスとの関係性が不十分だというリスクが顕著になっていた(通信事業者のCISOの58%がそう回答)にもかかわらず、セキュリティ機能がこのリスクのため脅かされています。また、通信事業者のCISOの中で、プロダクト開発チームと中~高レベルの信頼関係を構築できていると考えているのは、3分の1にも達していませんでした(31%)。
セキュリティのリスクをさらに複雑にしているのが、顧客の不安の増大です。顧客はもともとデータの開示に対して不安を抱いていましたが、コロナ禍でこの不安がさらに悪化したのです。実際、あるEY調査*⁴によると、46%の消費者が、インターネットを使用する際に、個人情報を確実に保護することは不可能だと考えています。
サステナビリティ情報開示の活動停滞:
本調査ではまた、「サステナビリティへの取り組みの管理がずさんである」というリスクが、前年の5位から2023年は4位へと上昇し、電気通信業界にとってますます差し迫った脅威となっていることも判明しました。通信事業者の気候変動関連情報開示の品質は、前年と比較して低下しています。あるEY調査*⁵によると、あらゆるステークホルダーが通信事業者の具体的なアクションを求めているにもかかわらず、調査回答者の39%が、ネットゼロ戦略、エネルギー移行計画、脱炭素化戦略についての情報公開を行っていませんでした。
サステナビリティ分野に対する顧客の期待は大きくなっているため、通信事業者はその期待に応え続けるプレッシャーを受けています。別のEY調査*⁶によると、消費者の39%がインターネット接続プロバイダーは、サステナビリティ問題に今以上に取り組む必要があると考えており、大手プロバイダーの68%はこれまで以上に、サステナビリティ関連の目標実現の助けとなる5Gのユースケースに関心を示しています。
EYグローバルTMTリードアナリストのAdrian Baschnongaのコメント:
「サステナビリティは、単なる高級プロダクトへの付加価値以上のものです。つまり、サステナビリティは、通信事業者が顧客に対して果たすべき約束の不可欠な要素であるべきです。消費者は、通信事業者がアクションを起こしているより明確な証拠を見たいと願ってます。そして通信事業者は、自社のサステナビリティ施策をサポートできるサプライヤーを優先させることになるでしょう。この先、通信事業者は、よりサステナブルな社会を実現する仲介役として中心的な役割を果たしていくでしょう」
従業員の離職が引き続き主要リスク:
2023年のリスクトップ10で、昨年に続き2年連続で3位となったのが「従業員の構成とスキルセットの強化に難航している」というリスクでした。本リスクが台頭している理由としては、雇用主と従業員の見解の相違が広がり続けていることが挙げられます。あるEY調査*⁷によると、テクノロジー、メディア、エンターテイメント、テレコム(TMT)企業では、91%の従業員が週2日以上リモート勤務をしたいと考えていますが、TMT企業の経営層の25%は、従業員は週5日オフィス勤務をすべきだと考えています。従って、TMT企業の離職者数が他のセクターより高くなることには警戒が必要です。同調査によると、TMT企業従業員の53%が今後1年の間に現職を離れる予定だと回答しています。これは、全セクター平均の43%と比較して高い数値となっています。
Loozenのコメント:
「電気通信事業者の経営層は、従業員の離職が増えているため、コロナ禍が企業文化に与えた影響をよりネガティブに捉えています。しかし従業員は、リモート勤務を通してライフスタイルをコントロールする力が増したと感じており、コロナ禍以降、職場文化が向上したと考えています。電気通信事業者は今こそ従業員の声に耳を傾け、状況に適応していく必要があります。さもないと、優秀な人材が他へ流出してしまうリスクに直面するでしょう」
EY Japan テクノロジー・メディア &エンターテインメント・テレコムリーダー 尾山 哲夫(おやま てつお)のコメント:
「収束を見せないコロナ禍に加えて、地政学的リスクやインフレ、為替リスクなど引き続き先の見えない状況が続いています。このような状況下でコストに対する消費者の要求はシビアなものになっている一方で、コロナ禍においてリモートワーク、ネットショッピング、ストリーミングなどで醸成された『インターネットと生活の結びつき』も強化されていき、5Gなどの通信品質やセキュリティへのニーズも高まっています。通信業者はこのような消費者のニーズに応えるために、5Gやセキュリティの投資と同時にコスト面においても『割安サービス』を開発するなど競争力を発揮する必要があり、今まで以上に難易度の高いかじ取りを求められています」
2023年の通信事業者が直面するリスクトップ10は以下の通りです。
1.生活費の高騰に苦しむ顧客に対して十分な対応をしていない
2.プライバシー、セキュリティ、信頼面における喫緊の課題の変化を軽視している
3.従業員の構成とスキルセットの強化に難航している
4.サステナビリティへの取り組みの管理がずさんである
5.社内のデジタル化計画を拡大する能力が欠如している
6.インフラの到達範囲とレジリエンスを確保できない
7.新たなビジネスモデルを活用する能力が欠如している
8.インフラ資産の価値を最大化できない
9.外部エコシステムとの関わり方が効果的ではない
10.規制環境の変化に適応する能力が欠如している
*¹EY Decoding the digital home study, 2022
*²EY Global Information Security Survey, 2021
*³EY Global Information Security Survey, 2021
*⁴EY Decoding the digital home study, 2022
*⁵EY Global Climate Risk Disclosure Barometer, September 2022
*⁶EY Decoding the digital home study, 2022*⁷EY Work Reimagined Survey, 2022
※本プレスリリースは、2022年11月30日(現地時間)にEYが発表したニュースリリースを翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。
英語版ニュースリリース:Failure to respond to rise in cost-of-living tops telecoms risk radar
<EYについて>
EY | Building a better working worldEYは、「Building a better working world~より良い社会の構築を目指して」をパーパス(存在意義)としています。クライアント、人々、そして社会のために長期的価値を創出し、資本市場における信頼の構築に貢献します。150カ国以上に展開するEYのチームは、データとテクノロジーの実現により信頼を提供し、クライアントの成長、変革および事業を支援します。アシュアランス、コンサルティング、法務、ストラテジー、税務およびトランザクションの全サービスを通して、世界が直面する複雑な問題に対し優れた課題提起(better question)をすることで、新たな解決策を導きます。EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。EYによる個人情報の取得・利用の方法や、データ保護に関する法令により個人情報の主体が有する権利については、ey.com/privacy をご確認ください。EYのメンバーファームは、現地の法令により禁止されている場合、法務サービスを提供することはありません。EYについて詳しくは、ey.com をご覧ください。本ニュースリリースは、EYのグローバルネットワークのメンバーファームであるEYGM Limitedが発行したものです。同社は、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
<本調査について
「2023年版通信事業者が直面するリスクトップ10」は、定期的に発表されている調査レポートの2023年版で、電気通信セクターが直面しているリスクのうち、最も重要なものを特定することを目的としています。本調査のアナリストは、EYのセクターリサーチプログラムを利用し、EYの業界や消費者に関するサーベイ結果からの洞察を参照し、セクター専門家として進化し続ける視点をもって、これらを活用しています。こうして得た調査結果は、EYのリスクレーダーを使用して、4つの領域に分類されています。
コンプライアンス上の脅威(政治、法規制、コーポレートカバナンスに由来)オペレーション上の脅威(プロセス、システム、人材、企業のバリューチェーン全体に影響を及ぼす)戦略上の脅威(顧客、競合他社、投資家に関連)財務上の脅威(市場、エコシステム、投資の変動から発生)
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