『一流の人はなぜそこまで、靴にこだわるのか? (Business Life)』
(クロスメディア・パブリッシング)
「一流の人はなぜそこまで、靴にこだわるのか?」(著:渡辺鮮彦)より
どんなに丁寧に扱っていても、紳士靴はあるタイミングになると何らかの修理を要してしまうのは、一種の宿命です。むしろ、そうすることを前提に、長期間履くことを想定の上で設計している点では、「リペアが可能な靴こそ、品質に優れている」ともいえます。
紳士靴は使い込んでこそ、真の実力が発揮されるもの。時に傷つきながらも、持ち主の体や心と一体化していく過程で、別の靴には代えられない価値が生じるのです。そんなお気に入りの一足に育てていくために、リペアは重要な通過点でしょう。
では、具体的には、靴がどのような状態になったら修理に持ち込むべきなのでしょうか。
良い靴を履いていても、適切なリペアのタイミングをご存知の方は案外多くありません。そこで、代表的なリペアのポイントである「底周り」に関して、3つのチェックポイントを挙げておきます。
①ヒールのリペア
多くの方が最初に修理を依頼されるのが恐らくここでしょう。高級な紳士靴に多く見られる、「地面に着く層にのみゴムが備わり、それより上は革を何層も積み上げたタイプ」は、地面に着く層が削り切れる直前に修理を頼みましょう。その上の層まで削れてしまうと、そこも交換する必要に迫られ、当然修理代も余計に掛かるからです。
一方、「一つの大きなゴムのかたまりでつくられたタイプ」については、かかとの辺りで妙な滑りを感じるようになったら交換時です。大分すり減ってしまった証拠で、見栄えも明らかに悪くなっているはずですので。
②つま先のリペア(レザーソールの場合)
歩き方によっては、①よりもここが最初の修理になる方もいらっしゃるかもしれません。グッドイヤーウェルト製法の靴であれば、磨耗がウェルト(靴の外周を囲み、アウトソールと縫いが施されている細い革)にかかってしまう前に修理に出しましょう。
マッケイ製法のものでは、つま先の断面が半分程度削れてしまったらが一応の目安です。実はここはリペアの際、補修素材が革・ゴムそれにスチールと選べるので、靴の構造や歩き癖に応じて選択するのがよろしいかと思います。スチールを用いても滑らない歩き方が可能な方の中には、新品の段階でそれで予め補強される人も多いようです。
③オールソール交換
末永く履ける靴かどうか、の最大の分水嶺がここ、つまり「アウトソールの全取替えが何回可能か」でしょう。不可能、あるいはできてもせいぜい1回限りのものが大半の中、底付けがグッドイヤーウェルト製法のものは構造上それが複数回可能。私がこの種の靴をお勧めする理由の一つでもあります。
レザーソールの場合は、履いている最中に石などの突起物をダイレクトに感じるようになり、大した力でなくても底面を下から手でペコっと押せる状態になったら、そろそろこのリペアを考えましょう。仮にアウトソールの中心部に穴が開き、内部にあるコルクなどが少し見えた状態であっても大丈夫。交換修理で回復可能です。ラバーソールの場合も、中心部が明らかに磨り減り、ひび割れを起こしそうになっていたらオールソール交換のタイミングです。
主な修理の目安をご紹介しました。紳士靴を取り扱う立場として非常にありがたいのは、ここ十数年の間に、日本の靴修理店の認知度と実力の双方が、めまぐるしく上昇していることです。靴、特にインポートの紳士靴の修理を安心して出せる店舗が、東京だけでなく全国にいくつも出てきています。
それ以前も、どちらかと言えばスピードを重視する修理店チェーンや、靴を作れる職人を抱えた古い靴店のように、靴のリペアを受け付けてくれるところが日本に無かったわけではありません。
しかし、ほとんどのところは「オリジナルに極力近く直す」観点が欠けていた気がします。例えば、用いる部材や縫われた糸のピッチなどが、元の靴とは大幅に異なっているなどの点です。「修理の丁寧さ」とはまったく別の話であるものの、それらで靴の表情が微妙に変化してしまうのも事実。だからリペアした靴を受け取った後、直していただいた職人さんには申し訳ないのですが、なんとなく「リペアの前のほうが良かったかも……」というような後ろめたい感覚を覚えがちでした。
弊社が長年扱う「チーニー」などイギリスの各靴メーカーにも、国内の有名なメーカーと同様に、社内に修理部門が存在します。そこにリペアを依頼すれば済むといえば済むのですが、輸送費も多く掛かり、関税などの手続きも面倒です。そして何といっても、修理内容を英語でやり取りするのは、一般の方には非常に面倒でしょう。
ですから、「海外の靴メーカーが製造時に用いるのと同じ材料でリペア可能な店舗」が国内に出現したのは、そのような「リペアで“元通り”にはならないから……」という理由でインポートものの購入をためらっていた人にとっては、正に天の恵みだったはずです。
もともと日本の修理職人は、世界的に見ても技術力そのものは抜群に高かったところに、このような「再現性」も高まったのですから、鬼に金棒です。
弊社も「ユニオンワークス」をはじめ、複数の信頼できる修理業者にリペアを委託していますが、その完成度の高さには驚かされます。
最近では、「元通りに直す」からさらに一歩進んで、ユーザーの嗜好や用途に合わせた、言わば「カスタマイズ」の領域に、多くのリペアショップが熱心に取り組まれているようです。
元々はレザーソールだったものを、オールソール交換を機にダイナイトソールに変えたり、鳩目の金属を表出しにして靴の表情を変化させたり……。リペアを通じて靴との距離をいっそう近くする意識が、ユーザー・修理業者双方に浸透しつつあります。
原点忠実主義もよし、目的に合ったカスタマイズも、またよしです。どちらも、より長く愛せる耐久性の高い靴だからこそ可能なことだと思います。
靴のリペアのタイミング、そしてリペアショップの活用。せひ覚えて、ご自身の靴を大切に履き続けてください。
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