starthome-logo 無料ゲーム
starthome-logo

「棚に並べてもらえない」危機感 老舗酒蔵、CO2排出実質ゼロ達成


 山形県米沢市にある創業426年の酒蔵、小嶋総本店が今月、日本酒の製造における二酸化炭素(CO2)の排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラル(CN)を達成した。酒蔵では全国2例目で東日本初の試みという。今年2月から酒造りに使う全電力を、自社で出た酒粕を活用した再生可能エネルギーで賄うなど、企業経営での重要性が高まるサステナビリティー(持続可能性)を徹底的に追求している。

 同社は約20カ国に日本酒を輸出している。小嶋健市郎社長(43)は2016年ごろから、海外へ出張するたびサステナビリティーに対する現地メーカーの取り組みや意識の高さを肌で感じるようになった。容器一つとっても、伝統的な瓶にこだわらず、材質を生分解性プラスチックや紙に変えて軽くしたり、運びやすい平らな形状にしたりしていた。

 小嶋社長は「味や値段だけでなく、業者の姿勢が問われるようになってきた。何もしない業者の製品は商品棚に並べてもらえず、テイスティングすらしてもらえなくなる」と危機感を抱いたという。

 小嶋総本店はそれまでも米ぬかや酒粕を肥料などに有効活用し、原料由来の廃棄物を出さない工夫はしていた。ただ製造量は720ミリリットル瓶換算で年間約50万本に上る。発酵温度の管理や冷蔵などで消費する電力と重油によるCO2排出量は従業員1人当たり一般家庭の約12倍にもなり、その削減が課題だった。

 そこで、再エネ事業を手がける「東北おひさま発電」(長井市)と協力。同社は、米沢牛のふんと食品残さを混ぜて発酵させ、取り出したメタンガスで発電する「ながめやまバイオガス発電所」を米沢市と隣接する飯豊町で運営している。小嶋社長は、自社で出た酒粕を同発電所へ原料として提供することにしたのだ。

 さらに、こうした再エネの地産地消により脱炭素社会の実現を目指す「おきたま新電力」(米沢市)から電気を購入し、酒造りに必要な全電力を賄うことで、CO2排出量をそれまでの約3分の1まで削減した。

 残るネックは重油ボイラーからの排出量だが、これには国の「J―クレジット制度」を活用。青森県の食品メーカーが重油ボイラーを木質バイオマスボイラーに切り替えて創出したクレジット(排出枠)を購入することで自社の排出量を相殺し、製造における排出量を実質ゼロにした。12月にはCN達成を記念し、新製品「東光 with green」を発売する。

 このほか、20年には全量純米酒に転換。国外で製造された醸造アルコールを添加せず、地元産の原料を使った酒造りで輸送時のCO2排出量を削減した。夏場の気温が高温になることで酒米の品質が下がるなど気候変動の影響に直面する中で、農薬を使わず生物多様性を守る酒米の有機栽培にも取り組む。容器も小型の瓶はアルミ缶に変更するなど、挑戦はまだまだ続く。

 「いろいろな方面から知恵をいただき、一つの節目を迎えることができた」。そう話す小嶋社長は、直ちに販売増加には結び付かなくても、消費者の環境意識は急速に高まっていると感じているという。製造段階のCNを達成した今、次なる目標は物流における排出量の削減だ。「難しいが、できることからやっていきたい」と小嶋社長。アルコールを飲まない人の増加にも「発酵産業として、健康志向の新たな価値を提供したい」と意欲は衰えない。【横田信行】

J-クレジット制度

 再生可能エネルギーや省エネ設備の導入による温室効果ガスの排出削減量と、適切な森林管理によるCO2吸収量をクレジット(排出枠)として国が認証し運営する制度。クレジットを創出した側は売却益で設備投資を回収でき、購入した側は削減できなかったCO2の相殺に利用できる。

    Loading...
    アクセスランキング
    game_banner
    Starthome

    StartHomeカテゴリー

    Copyright 2024
    ©KINGSOFT JAPAN INC. ALL RIGHTS RESERVED.