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高齢化率40%超の村で考える「生と死」 映画「明日香に生きる」


 命の終わり方を見つめてきた溝渕雅幸監督によるドキュメンタリー映画「明日香に生きる」の上映が26日、広島市西区の横川シネマで始まる。高齢化率40%超、人口5200人程度の奈良県明日香村の人々と、在宅医療の充実を目指す村の医師との関わりを通じ、「生と死」を支える地域医療を描く。少子高齢化が進む地方での医療のあり方という全国的な課題に向き合う。9月8日まで。

 明日香村は奈良盆地の南東部に位置する。飛鳥時代には歴代天皇の中心拠点であったことから、日本のふるさとのような地でもある。過疎化が進む村には国民健康保険診療所があり、村に2人しかいない医師の一人、武田以知郎さんはかかりつけ医として欠かせない存在だ。映画は、在宅医療の充実を目指す武田医師と村民の日常に400日かけて密着する。慣れ親しんだ故郷で楽しく暮らし、そして人生をしまうお年寄り。私たちが求める医療とは何か、武田医師の下で学ぶ研修医の成長とともに考えさせられる。

 上映初日の26日は溝渕監督と公認心理師で僧侶の佐々木慈瞳さん、27日は溝渕監督と武田医師による舞台あいさつがある。上映は連日午前10時から。一般1700円、シニア1100円、高校生以下1000円。問い合わせは横川シネマ(082・231・1001)。【矢追健介】

「普通の死」に向き合う

 映画「明日香に生きる」を撮った溝渕雅幸監督(61)に話を聞いた。

――今作を含め、4本の医療系ドキュメンタリーを撮ったきっかけは?

 ふと思ったんです。1年間で何人、亡くなるんやろうか。2000年代のころで、国の白書では90万人近かった。若い頃に大阪の夕刊紙やテレビ局の仕事をしていて、事件や事故、災害による死は特殊で、「普通の死」がほとんどなんやと気づいた。そこで「普通の死」とは何かを調べようと思いました。

――病気や寿命で亡くなるということですか?

 そう。当時はホスピスや在宅ケアはまだまだで、病院で亡くなるケースが多かった。痛みがひどいのに、体に悪いからと痛み止めの医療麻薬を打ってくれない。呼吸停止して家族が手を合わせても、医師が患者に馬乗りになって心臓マッサージをする。肋骨が折れる音がする。入院する時は人として入るのに、亡くなると裏口から出される。「どうなんだろう」と考えさせられたんです。

――映画を撮ろうと思ったのはどうしてですか。

 滋賀県のボーリズ記念病院のホスピスで医師にインタビューした時、亡くなった方がいて、「きれいな顔をしているから」とご家族が撮影を許してくれた。遺体をストレッチャーに乗せ、牧師や家族、医療関係者が思い出を分かち合い、お別れ会をして玄関から送り出したんです。かつて病院で見た光景と全然違って、放映したいと思いましたが、当時仕事をしていたNHKでは無理だった。そこで映画にしようと、13年に公開したのが日本で初めてホスピスの日常を紹介した「いのちがいちばん輝く日 あるホスピス病棟の40日」です。

――今も病院で亡くなる人が多いのでしょうか。

 敗戦後は病院死よりも在宅死が多い。そこから病院死が増え、同数になるのが昭和50年くらい。僕が中学生のころです。家で亡くなり、家族が枕元で手を合わせるといったことが減り、死に対する実感がなくなっていったわけです。

死を知ることは、生きることにつながる

――18年に高知県四万十市の診療所が舞台の「四万十 いのちの仕舞い」、21年には山口県周防大島で「結びの島」を撮りました。社会は変わりましたか?

 「普通の死」はどんどん顕在化しています。社会が死と向き合わなきゃいけないという風潮になっている。かつてNHKで死者の顔は放映できなかったが、数年前に安楽死をテーマにした番組では映していました。病院での亡くなり方について、良かったのだろうかと考える人がホスピスなどの情報を求めるようになったことも大きいでしょう。

――4作品を撮って感じたことは?

 人は死ぬということを自覚しないといけない。ニュースで見る第三者の死は非常に遠い。二人称の死は親、兄弟、友達……。最終的には一人称の死となり、必ずそれを迎える。死を知ることは、よく生きることにつながるのではないか。一日をしっかり生きるというモチベーションにつながるんじゃないかと思います。

 映画は非日常を撮ることで楽しさや美しさを見いだしますが、それは日常的にあるのかもと感じました。病気になると抑えられていた感情が出てきて、道ばたの花を心から美しく思えるそうです。「死を知った時からが本当の人生」とはそういうことかと思うようになりました。

 ――明日香村という日本の原風景のような場所での撮影はどうでしたか?

 若い時は便利な街へ出ていっても、子どもができて村に帰る人もいる。高齢の両親がいて暮らしやすいし、自然も豊か。それに先祖が村で生業をして、菩提(ぼだい)寺の土の中に眠っていることを知っている。お盆には多くの人が村に帰ってくる。「ああ、ええ感じやなあ」って。父が転勤を繰り返していた僕にはふるさとと言える土地がなく、うらやましさを感じながらカメラを回しました。

――映画を見る人にメッセージを。

 お金を払って来てくれる人に説教くさく、「こんな医療は問題だ」というようなことは言いたくない。ただ、その土地にある豊かさやそこで感じられる幸せを撮りたいと思っています。その幸せが幸福の本体だと、自分は定義しています。

溝渕雅幸さん

 1962年福岡生まれ、大阪・奈良育ち。大学中退後、夕刊紙を経て映像制作の仕事へ。1990年からディレクターとして教育映画やCMなどに関わった。劇場用作品は4作目。

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