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「二度と来るな……。それだけ」 山口刑務所・作業専門官の願い


 「僕と関わることで、またここに入る人が一人でも減ればいいですね」。高校卒業後に刑務官の世界へ飛び込み、この道40年以上。罪を犯した人々の更生を支えてきた。

 山口県宇部市出身で、山口刑務所の作業専門官の中村信治さん(62)。宇部工高の卒業を控え進路に迷っていたとき、剣道の大会で中村さんの腕に目を付けた刑務所関係者が自宅を訪れ、入職をスカウトされた。

 駆け出しから約7年表門警備を務めた後、受刑者が訓練や作業をする工場に勤務となった。ここでは工場ごとに担当の刑務官が配置され、受刑者の生活上の指導をしたり悩み事の相談を受けたりする。中村さんが担当したのは、理容の職業訓練を受ける受刑者たち。中には殺人や強盗を犯した人もおり、全員が年上だった。伝えたいことがうまく伝わらずに悩み、眠れない日々が続いた。

 3年ほどたつと次第に仕事のコツをつかんだ。何より大切な心がけは受刑者との対話を欠かさないこと。受刑者が誤った行動をしたときは、しかるのではなく、何がいけないのか説明を尽くした。「『怒られるから仕方ない』と思ってやるのではなく、納得して行動してほしい」との願いからで、「彼らは刑務所を出たら自分で考えて生きないといけない。だんだん僕が言わなくても行動するように変わっていくんです」

 ある日、家族に宛てた受刑者の手紙を検閲した同僚が教えてくれた。「『もし若いときに中村先生に出会っていたら、自分は刑務所に入っていなかっただろう』と書いてあったよ」。受刑者の成長を願う自分の思いが届いているのだと、うれしく思った。「もう二度と来るなよ」。担当した受刑者が出所する日には、自ら部屋を訪れて言葉を贈った。現在は、作業専門官として萩焼制作などの刑務作業の指導にあたる。

 犯罪白書によると、刑務所を出所した人のうち15%が、2年以内に再び罪を犯して入所する。門出の言葉もむなしくまた戻ってくる人は後を絶たない。それでも塀の外へと出て行く背中を見送りながら願い続ける。「もう二度と来るな、二度と来るな、二度と来るな……。それだけです」【森紗和子】

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