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「余分な次元があるという意味では、完全なフィクションとは言いきれない」「物理が相当好きな人が携わっているはず」『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』について野村泰紀教授(マルチバース研究)に聞いてみた!


全世界待望のトム・ホランド主演『スパイダーマン』シリーズ最新作、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が全国の映画館にて大ヒット公開中!

前作で世界中にスパイダーマンであることを明かされたピーター・パーカー。共に『アベンジャーズ/エンドゲーム』でサノスと闘った魔術を操るスーパーヒーローのドクター・ストレンジはピーターから頼まれ、人々の記憶からピーターがスパイダーマンだという記憶を消す呪文を唱えるが、やがて時空が歪み、マルチバースが出現。それぞれのユニバースから強力なヴィランたちを呼び寄せてしまう…。という本作のあらすじ。そう、MCUのマルチバース化が本格的に始まってくのです!

とはいえ、「マルチバースって何?」「なんとなくは分かるけど言葉では説明出来ない」という人が多いはず(筆者もそう)。今回は、マルチバースについて研究している米カリフォルニア大学バークレー校の野村泰紀教授にお話を伺いました!

――今日は色々とお話を伺わせていただきます。まずは本作をご覧になった本作の感想を教えてください。

『スパイダーマン』シリーズはしっかり全部を観たことがなくて、何か一つ観たかな?くらいでした。アメリカと日本を行き来する時に、飛行機の中で『アベンジャーズ』シリーズは鑑賞していたのですが。でも、本作がマルチバースをテーマにしているということで試写にお招きいただき、拝見して、途中からマルチバース関係なくなるほど、ストーリーに入り込んで泣いてしまいました。マルチバースや並行世界をツールにしながら、ピーター・パーカーの成長を描いている所が素晴らしいなと思いました。

私は『アベンジャーズ』シリーズの様なアクション大作というよりも、主人公の成長物語として『千と千尋の神隠し』(2001)に近いなと思いました。

――野村先生から見た本作でのマルチバースの描き方はいかがですか?

あまりにも現実的に描いてしまうとエンターテイメントとして面白く無いなと思いますので、この描き方は良いなと思いました。例えば、実際のマルチバースの世界では自由に「行ったり来たり」は出来ないとされています。『スタートレック』等に登場する「ワームホール」というのもの実際にはあると思っているのですが、入っても出れないんですよ。タイムマシンも一緒で、未来には行けるけれど過去には行けない。行けたとしても、過去から始まった世界は元の世界とは別の方向に進んでいくので。別の世界なんですよね。

マルチバースにしても勝手に法則にしたがって分かれていくので、人間がコントロールすることは出来ない。完全にサイエンスの観点で「『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の様なことが起こると思いますか?」と聞かれたら、ノーとなってしまのですが、映画はこれで良いと思っています。

――本作はドクター・ストレンジのパワーが使われることもあって、ミラー次元など視覚的にも凝った作品となっていますが、ミラー次元などは完全にフィクションの世界だと考えていた方が良いですか?

余分な次元があるという意味では、完全なフィクションとは言いきれないかもしれません。物理学でも実は次元ってもっとたくさんあると思っているんです。たとえば平面のように縦と横を指定して一点が決まるものを二次元の空間というのですが、実際はたとえば、紙であっても厚さがあるので本当は三次元です。同じように、僕らが生きている世界は縦、横、高さの三次元の空間ですが、実際にはさらに6つくらいの方向の「厚み」があると考えられているのです。ちょっと想像しづらいですが。

これは超弦理論とかひも理論というもので予言されるもので、余分な六次元はすごく小さいので僕らは感じることができないと考えられているのです。なので、ドクター・ストレンジのパワーの様な街が逆さまになったりひっくり返る様なことは無いかもしれませんが、余分な次元があったりというのは全くあり得ないことではないです。

ドクター・ストレンジがやっていることの描き方を見ると、物理が相当好きな人が携わっているのでは無いかと感じました。超弦理論とか余剰次元とかマルチバース以外にも、色々な場面に物理のエッセンスが感じられたので。マルチバースの世界は無限にあるというような表現もありましたけど、実際にサイエンスの世界でも「宇宙は無限にあるのか」という研究がホットなトピックスとしてありますので、そういう記事を読んだか、知っていて、セリフに入れているのかなとも感じました。

――エンターテイメントでありながら、そうやって深い分野のエッセンスが取り入れられているのがすごいですね。

純粋に嬉しいですね。こうやってテーマ、ツールとしてマルチバースが使われるということが。マルチバース という言葉を使わずに「別の世界から来た」と言えばストーリー的には問題ないわけですから。なのにちゃんとマルチバースという描かれ方をしている。こういった作品を観て「子供騙しだ」と言う人もいらっしゃると思うのですが、僕は全然そんなこと思わないです。こういう人気の作品でマルチバースを取り上げてもらって、興味を持つ方が増えるということも嬉しいです。

――『スパイダーマン』シリーズのヴィランズは研究者、博士ばかりですよね。同じ研究者からご覧になっていかがですか?

「力があること」の象徴として描きやすいのかなとは思います。皆さん実験や研究でものすごい事をしているわけですしね。スマートフォンだって、こんなもの作ってしまうなんて凄すぎると思います。たった60年前には部屋サイズのスーパーコンピューターだったものが、今のスマートフォンってその当時のスーパーコンピューターの何億倍とか何京倍の性能だと思うので。スマートフォンなんかは工学の研究者の皆さんによって役立つものとして作られていますが、「サイエンスの世界の研究者や博士が一歩間違うと……」というのは皆の頭の中でイメージしやすいのだと思います。

ピーターたちもとても賢くて、こうやってサイエンスの世界の研究者がフィーチャーされるのは嬉しいですね。そしてMJもすごく賢いじゃないですか。子供達や若い方がこの映画を観て、サイエンスの世界に興味を持ってくれたら本当に嬉しいなと思います。

【※ネタバレ注意※ 以下の写真の下より、作品の内容に触れています。まだ映画をご覧になっていない方はお気をつけください。】

――先生は本作のストーリーを大変楽しんだということですが、お好きなシーン、キャラクターはいますか?

本作を観た時に、最初はドクター・ストレンジの方に共感したんです。「死んでしまうことが分かっていたとしても、それがあるべき姿なのだから変えてはいけない」という。ピーターの「今助けることが出来るのなら助けたい」という考えは、ちょっと自分とは違うなという。「悲しいけれど、本来の場所に戻すべきだ」と思いました。でも、観ているうちにピーターの方にも「そうだよね、そうだよね」ってなって泣いてしまいました(笑)。

スパイダーマンはもちろん魅力的だったのですが、ドクター・ストレンジはとてもカッコ良いキャラクターでしたね。自分の信念はありつつも、奮闘しているスパイダーマンの姿を見て「これは良いことなのかもしれない」と手助けするフレキシビリティがあるのも良いなと思いました。

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『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』公開中
・原題:Spider-Man: No Way Home
・監督:ジョン・ワッツ
・出演:トム・ホランド、ゼンデイヤ、ベネディクト・カンバーバッチ、ジョン・ファヴロー、ジェイコブ・バタロン、マリサ・トメイ、アルフレッド・モリーナ
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