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「後宮なんてどこでもそんなものらしいじゃないですか」苦渋の決断に不満続出! 娘には言えない母の懸念~ツッコみたくなる源氏物語の残念な男女~



あちらを立てればこちらが立たず…苦渋の決断に不満続出


年頃の二人の娘の身の振り方に悩む母・玉鬘。結局、長女は玉鬘への“実らぬ恋”を忘れられない冷泉院の後宮へ。「親代わりとしてお世話したい」と言ってくださった、腹違いの姉妹の弘徽殿女御に頭を下げて娘を頼みます。


冷泉院は娘に付き添ってきた玉鬘がしばらくこちらにいてくれるのではと期待していましたが、そそくさと退出されてガッカリです。その代わり、やってきた長女の姫の花盛りの艶やかさに日に日に魅了されていきます。


残る次女の方にターゲットを移す人も多い中で、玉鬘は長女に熱烈な想いを寄せていた蔵人少将と次女を結婚させようかとも思いますが、あれ以来、彼はまったく顔を見せなくなりました。


こちらだけでなく、以前は親しく出入りしていた冷泉院のもとへも行かず、たまにお召しがあっても逃げ出さんばかりにして帰っていきます。あの人のいない邸に用はないし、かといって院の妻として彼女がいるところなんて、到底耐えられない!


他方、帝は帝で「なぜこちらに宮仕えさせなかった」とご機嫌斜め。息子たちはそのことで当てこすりを言われ立場がありません。


父(髭黒)の遺言とも違ってしまったし、だいたい冷泉院のもとに行ったところで、叔母にあたる女御の好意もどれほどあてにできるかわからないのに、と母に訴えます。玉鬘としても苦渋の決断ではあったのですが……。


そのうちに長女の姫はご懐妊。はじめてのつわりに悩む彼女を慰めようと、院は日夜音楽の遊びを催します。この席に薫も呼ばれ、ごひいきなのをいいことに、何かにつけて長女の姫の周りをうろついては女房づてにそれとなく自分の未練をほのめかします。一少将はお正月のイベントなどの際に遠くから(あの方が見ている)と思っただけで緊張し、意識しすぎてかえっていたたまれない状態です。


こうして「時々現れては失恋の恨みをちらつかせるようになった薫を、長女の方はどう思っただろう」と作者は書いていますが、重すぎる片思いの少将はチャンスに恵まれず、「ちょっと残念だな」くらいの薫はやすやすと彼女の身辺に近づける……という皮肉な構図になっています。


ベビー誕生も不安材料に……気をもむ母のお願い行脚


月満ちて、長女は皇女を出産。冷泉院には女御の生んだ皇女がただ一人いるだけだったので、久々の赤ちゃんに大喜び。院ももう40代、当時で言えばおじいちゃんと言っていい年齢なので、ますますこちらへのご寵愛がまさっていきます。


すると、当人同士ではなく、互いの女房間で諍いが起こるようなことも出てきました。秋好中宮や女御の好意がどれほど当てにできるか……」と言っていた息子の不安が的中したのです。これには玉鬘も、お二方のご機嫌を損ねてしまってはどうなることかと心配になります。


一方、次女の方は帝のご不満を解消するために、妃の女御ではなく女官の尚侍(ないしのかみ)として出仕させることにしました。もともと玉鬘が冷泉院から賜った官職で、これもちょっと無理やりな任命だったのですが、長年辞任したかったこの役職を娘に譲る、という形が許されました。


次女は少将との縁組を考えていたこともあり、玉鬘は夕霧・雲居雁夫妻にも事情を説明し承諾を得、更には後宮の女王として君臨する明石中宮(ちい姫)にも頭を下げて娘を頼み込みます。


あちこちにお願い行脚をする中、どうしても(夫さえいてくれたら、堂々と女御として娘を送り出せたのに。こんな苦労はせずにすんだのに……)と思わざるを得ません。


「いつも妹のことばかり」娘にも言えない母の苦悩


帝は美人で評判の長女の方でないのが少し残念でしたが、次女の姫の聡明で奥ゆかしい様子にご満足された様子。大役を終えた玉鬘は今こそ出家しようと思いますが「まだふたりの立場が安定したわけではないのだから」と息子たちはここでもまた反対。不安定な立場に置かれた娘のために母はもうひと頑張りすることに。


玉鬘は次女のフォローに宮中に行くことはありましたが、冷泉院の御所へ行くことはありませんでした。まだ院にその気があるのを察知して(誰の反対をも押し切って長女をこちらに差し上げたのに、万が一私までおかしな噂が流れたら……)と警戒しているからです。


若いころ男の恋心に翻弄されて懲り懲りな上、今でいう美魔女なのですから、たしかに院が変な気を起こすことは十分ありうる。本当にモテる美人だけに、こういった心配は取り越し苦労ではなさそうです。


しかし、そんな母の懸念を知らない長女は(お母様は昔から妹の味方ばかり……。あの桜の木のことだって、お母様は妹のだっておっしゃったのよ。私だっていろいろ辛いのに、ひどいわ)。兄弟姉妹で親の愛情が偏っていると感じるのは辛いことですが、まさかこんな心配があると打ち明けるわけにもいきませんし、すれ違いです。


冷泉院はちっとも顔を見せない玉鬘を恨めしく思いつつ、そのぶん愛情を長女に注ぎ、ふたたび彼女は妊娠。今度は皇子でした。


姉はストレス、妹は満喫…すべてが裏目に出た嘆き


冷泉院ははじめての男子に大喜び。在位中であったらどんなに良かっただろうと思わずにいられませんが、皇女と皇子を立て続けに得た喜びには代えがたく、ずっとこちらに入り浸りです。


当初は優しく「お世話しますわ」と言ってくれていた女御もこうなっては立場がなく、不快感をあらわにし始めました。当然、長女への風当たりは強くなり、後宮に不和が生まれます。


こうした話は世間に広まり、糟糠の妻である秋好中宮や弘徽殿女御には同情的、長女に対しては何かにつけて批判的な風潮に……。結果、気苦労が重なった長女はストレスから、次第に実家に里帰りするようになりました。玉鬘の息子たちは「だから言わんこっちゃない」と、母を責めます。


ふと見れば、以前はまだ年端も行かぬ若者と、長女の相手としては物足りないと思っていた少将は順調に出世。彼は失意の中、左大臣の令嬢と結婚したのですが、愛情はまったく湧かず、心の中で今もなお長女を想い続けています。


もともと家柄もよく優秀だった少将だけに、女房の中には(こんなことになるならあの時、少将と結婚なさってたほうが……)などと言うものも出る始末。反対に次女の方はセンスの良さや聡明さで評判を集め、優雅な宮中ライフを満喫中なのだから皮肉です。


完全に読みが外れ、裏目裏目に出た辛さ。母の玉鬘は「こんなに苦しまず平穏な幸せを得ている人はいるだろうに、どうして……」と嘆かずにはいられません。


「どこでもそんなもん」!? にべもない貴公子の答え


薫も見事に昇進し、方々にお礼参りに行った後、玉鬘邸を訪れました。玉鬘は「こんなおめでたい日に愚痴なんていうべきではないけれど…」と言いつつ、長女の姫を里帰りばかりさせていると院のご機嫌が悪いので困っている、薫からも一言添えてほしいと頼みます。


「秋好中宮さまからも、弘徽殿女御さまからも好意的に見ていただけるとばかり思っていたのですが、私の考えが甘かったのね。今更ながら後悔しています」。


しかしあくまでもスカした薫は「でも、後宮というのはどこでもそんなものらしいじゃないですか。どんな些細なことでも諍いの種になるのが後宮です。それを思いつかれなかったのはご認識不足でしたね。


とにかくゆったり構えて静観するのがベストでしょう。男の僕がとやかく口出すことじゃありません」と、一蹴。若い薫に人の親の気持ちがわかるわけもないでしょうが、冷たいな~。


「あなたにあったら話を聞いてもらおうと思って待ち構えていたのに、ずいぶんそっけないお返事ね」。同情どころか突き放した態度の薫に苦笑する玉鬘の声は愛嬌があって美しく、その若々しい美貌までもが想像されるようです。


薫は(なるほど、これだから院も諦めきれないわけだ。もしかするとなにか事件が起こるかも……)。しっかりしたところもありながら、おっとりして可愛い感じも持ち合わせているこの母から生まれた長女の姫もきっとこんな感じなのだろうと思い、そしてまた別の女性を思い浮かべます。それは遥か宇治の山里に暮らす、宮家のある姫のことでした。


“死んだ左大臣”って誰? 反映されない設定の謎


真木柱と玉鬘、それぞれ髭黒つながりの2つの家族のエピソードはここでおしまい。源氏物語の中でも特に面白く、当時も評判だっただろう玉鬘十帖の後日談と言った風のお話でした。幼い頃より苦労人だった玉鬘、彼女の人生はまだまだ落ち着きそうにありません。


さて、薫が昇進したのは左大臣が亡くなったためで、これに伴い更に上の地位にあった夕霧や紅梅も繰り上がる形で昇進し、夕霧は右大臣から左大臣に、紅梅は大納言から右大臣になったとあるのですが、この後のメインストーリーに入るとこの設定が反映されておらず、夕霧も紅梅も右大臣と大納言のまま、という妙なことが起こります。


訳によってもこの設定の扱いには違いがあり、「あれ?」となることもあったりなかったり。まあ、夕霧や紅梅は時の権力者ということなので、右大臣でも左大臣でもそんなに気にするところではないのですが……。


更にいうと、源氏と頭の中将の子孫が勢力を二分しているこの世界で、少将に娘を嫁がせたらしい”死んだ左大臣”がどこの誰だったのかも不明。実質的な政権トップだったはずなのに唐突に出てきていきなり死んでいるし、いろいろと謎です。


こういった齟齬のあるところから、この道草エピソード部分自体をいつ誰が書いたのか怪しまれる事になったのでしょう。それでも仲の良い姉妹とその別れ、年頃の娘を持つ親の悩み、意外な結婚など、今後につながるキーワードがリフレインされ、都での薫や匂宮がどれほど人気を博しているかも伺い知れるパートでした。


恋愛なんて煩悩のもと、早く出世したいと思いながらも、美人への興味は捨てきれず、なかなかどうしてムッツリスケベな薫。まだ本当の恋を知らない薫の人生はここから始まります。


簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。

3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html

源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/  


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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか


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