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闇金融にやってくるありえない債務者たち!



どうもどうも、特殊犯罪アナリスト&裏社会ライターの丸野裕行です。

今回は、十数年も追い続けている闇金融のお話をしようと思います。


実際に、闇金融の現場で取材をしていると、まぁなんと言いますか、僕の想像を超えるような考えられない債務者が砂糖にたかるアリのようにやってきます。


泣く子も黙る非登録金融業者


闇金融は手を変え品を変え、未だに存在している。風前の灯かと思えた彼らの中でも、あの手この手で暗躍する闇金融長者がいました。

この道15年のT氏(50歳・仮名)。彼は、無軌道な債務者に対してこう言います。


「基本的なことやけど、人から借りたものを返すのは当然のこととちゃうか? それに客は常識の通じない悪質な連中ばっかりや。免責下りたあとでも、平気な顔して笑いながら、金借りに来るねんで。そんな連中ばっかりや」



平成10年2月、T氏は羽振りの良い生活を夢見て、某広域暴力団の企業舎弟が経営する金融会社『F興業』へ就職しました。ここから彼はその筋に関わりを持つことになります。本格的に盃をもらう根性なんてないし、“会社へ就職”世間的には格好がつく。同時にハクもつくのだ。申し分ない条件に好奇心が動かされたそうです。


事務所は、JR堺駅前の如何わしい雑居ビル『振興第一ビル(仮)』の一室。30畳ほどのテナントの奥に業務責任者のデスク。中央に3つの事務机を固めて配し、安っぽい鉄製のトビラの近くに接客用の仕切りのあるカウンターテーブルが、3脚のスツールと一緒に置かれています。顧客情報と『ゼンリン住宅地図』が収納されている鍵付きのスチール書棚。ムダなものは一切なし。


午前11時に事務所を開き、午後7時には閉店。従業員は責任者の伊藤さんほかの従業員は二名。冷静沈着で固いスタイルが売りの椎名さん。見た目はいかついが、実のところ小心者の熊谷さん。この4人で、事務所を切り盛りします。ここからは彼の経験談です。


追い込みで目玉が…!


印象に残っているといる債務者のひとり目は、平成20年春偽装離婚した自己破産者の菊田という男。

奴を追って、離婚した元妻が住む市営住宅に張り込んだ。


原則、ウチの借金は会社からの融資ではなく、困っている客を見かねた社員が個人的に金を貸す、というスタイルをとっている。

個人間の借金に自己破産もクソもない。必ず返済してもらう。


3日目。社用車・カローラの車内で、マクドのハンバーガーを齧りながら様子を窺っていると、菊田らしき男が元妻と子供が住む部屋へと階段を駆け上がっていった。

オレは確信し、菊田を追うために走った。階段を跳躍する。



「菊田! 待てコラ、ワレ!」


オレの声に驚いた菊田が、必死で閉めようとしたドアに片足を突っこんだ。何、逃げとんのじゃ!


「俺はもう免責おりたんや。お前なんかに払う金なんかあるかい!事故やと思えや!」


計画的に破産して、借りるときだけヘコヘコしやがって! オレは怒り心頭で、菊田が押さえるドアに躰を捻じ込んだ。諦めた菊田が手を放し、その場で土下座する。

奴の背後では、うら若き元妻と髪を二括りにした少女がこちらを見ている。


「勘弁してください!」

「勘弁してやないやろ! お前が逃げとる間に、借金二十倍に膨れ上がっとるど! どないして払うんじゃ、コラ!」

「金なんかない…。そ、そうや、ウチの嫁さん、好きにしてください。それでなんとか!」


29歳の菊田の元妻は5つ下の24歳。

まだまだ商品価値はある。でも、それを簡単に担保にしようとする根性が気に喰わない。


「何言うてんのや! お前が作ったもんやろう! お前が、一生かかっても払わんかい!」


オレを見上げた菊田は、それでも懲りずに続けた。


「それやったら、中二の娘持って帰ってください! それで堪忍して!」


何を言うとんのじゃ! 怒りが頂点に達したオレは頭を上げた菊田の右頬をめいっぱい引っ叩いた。バチィィッ! ポロッ…アレ? 何か落ちた…

菊田の顔から零れ落ちたものが、玄関の床でギョロリとこちらを見ていた。うわー! 目ん玉が飛び出たぁー!


絶句したオレは、その場にへたりこんだ。菊田は何事もなかかったかのようにその目を拾い上げ、器用に嵌めこむ。

そう、奴は義眼だったのだ。


腰が抜けたのは言うまでもない。しかしその事実を知っても、オレの抜けた腰はしばらくの間、言うことをきかなかった。


アンタのせいで金借りられへん!


平成23年秋。今日やってきたのは、業者間で回状(裏金融ブラック)が廻っていた52歳の主婦だった。

オレの担当で、電話口での応対から厭な匂いが漂っていた。それは、勘だけでわかった。


約束の時間よりも早く、色落ちしたワンピース姿の薄汚いオバハンが、チンチクリンの服にポシェットを下げた娘を率いて事務所にやってきた。


オレの視線に萎縮しているオバハンは、カウンター席につき、小さな声で「融資の方、お願いします」と言い、オバハンは座った。



「申し込み金額10万と言うてはるけど、何に使わはりますの?」

「旅行ですねん。財布なくしてしもうて…予定になってたから」


オバハンは、しれぇ~とした態度で涼しく答えた。こいつはアカン、借り慣れしてる。返済を迫ると逆ギレするタイプだ。


「ふ~ん、奥さんね、アンタ、よーけいツマんではるね。二十万。返済してはらへんのちゃう? むこうからデータきてるけど、またパチンコでっか」

「ちょっと、事務所空いてる時間に間に合わへんかってね…」


顔色ひとつ変えず、答えるオバハン。隣の娘を見ると、なんだか落ち着きがない。年齢が予想つかない顔つき。

電話で22歳と訊いていた。曲も流れていないのに、リズムを取っている感じ。ひょっとして、この子……。


「お願いです、お金、ちょっとでいいから貸してください! 家、むちゃくちゃなる! もう家、むちゃくちゃなりますねん!」


オバハンが号泣しながら、カウンター越しに力いっぱいオレの腕にしがみついてくる。隣で娘は知らん顔。


「お願いです!」「アカン」「お願いです!」「アカン」の繰り返し。


突然、オバハンが閃いたように言った。



「ああ、じゃあ、この子の年金でお願いしますわ! それやったらね、安心でしょ。ね、ねぇ」

 パッと笑顔が戻って、オバハンに媚びる感じがなくなる。当然のように書類を作れと言ってきた。娘はやっぱり……。まったく、どういう神経や。


「じゃあ、ウチは10日に2割。先引きもさせてもらいますし」


10日に2割の利息、先に利息の方を差し引いた金額を客に渡す。実質2割5分の金利がとれる。だいたいの客は、頭が悪いので計算ができない。銭勘定できないから、借金を作るのだが…。


「へえ。お願いしますわ」

「それやったら奥さん。娘さんの年金手帳と振り込まれる通帳、預かりまひょか…」


横柄に化粧直しをしだす、オバハンの動きが止まった。


「い、いや、お、落としてしもて」

「帰れ! どっかの店の担保に入れとんのやろ!」


オレが怒鳴ると、オバハンは鬼のような形相で、隣に座っている娘の頭をゴツリゴツリと殴りはじめた。


「アンタのせいや! アンタのせいで、ニイちゃん、貸してくれへんやないの! あんたがパン屋であんなモンしか稼げへんから!」


拳で娘を殴打する母親の姿にベテランのオレでも、正直、引いた。声すら上げない娘はフラフラになっている。その時、様子を窺っていた責任者の伊藤さんが一喝した。


「クソガキ殴るんやったら、表で思う存分やりさらせ!」


大手企業『Z』社員の犯罪


 

いちばん、脳裏にこびりついているのはこれだ。平成14年に大手企業が運営する会社が食品衛生法で禁止されている添加物を使用してた事件。

間接的にオレにも関係がある。


平成12年ウチに金を借りにきたパリッと仕立てのよいスーツを着た50代の紳士的な男・近田弘明。

大阪に本社のあるZ事業部で製造責任者をやっているという。堅実にやっていれば、ウチみたいな高利貸しを頼るようなことはないはず。家族は妻と子供二人。


「いやあ、若い女に入れあげてまいましてねぇ……」


色ボケしたってわけか、おっさんもよくやるわ……。オレはいつも通り、健康保険証、社員証のコピーをとり、携帯電話のデータをパソコンに入力した。

近田はそれからも毎月のようにウチを利用して、気軽に世間話を交すようになる。自分の会社の商品を手土産に持って。



しかし付き合いが長くなるほど、債務者である近田の首はだんだんと絞まってくる。長い付き合いができないのが、この稼業だ。


「近田さん、大丈夫でっか? しんどなってはるんちゃいますの?」

「大丈夫、それが大丈夫なんですわ。今さえ乗り切れば、なんとかなる希望の光が見えてきたというか…」


十数回の付き合いになっていた近田は笑顔で自身ありげに答えた。万馬券でも当たったか、遺産でもおりてきたのか? あまりの自信にオレはキナ臭さを感じた。もう一年が過ぎている。いつパンクして首をくくってもおかしくないはずだ。


「すんません、飯塚さん。ちょっと女にモノ買うてやりたいんで、ちょっと増額してもらえまへんか?


いつも10万ほど借りて、返済が滞ったことはない。きちんきちんと判を押したようなこの男に裏切られたことはないのだ。

オレは近田を信用し、20万を貸し付けてやった。


それから返済日まで、近田は海外出張にでかけるようだった。

笑顔の近田が事務所を訪れ、気持ちよく全額弁済した。しかもその金の上に“お礼”と書かれた封筒が載っている。



「おおきに。助かりましたわ、ホンマに。飯塚さんにはお礼させてもらいます。もう、お世話になることもないと思うし…」


お世話にならない? どういうことだ? オレは封筒を受け取り、中身を確認した。10万。なんでこんなに…。不思議と金が湧き出る近田が不審に思えて仕方なかったオレは、さり気なく訊ねてみた。


「近田さん、どうしはったん? どっか出張?」

「ええ、中国行ってました。商品開発の件で。商品の原価を抑えるための、まあ、“知恵を絞ってきた”という感じですかねえ…」

「は、はあ。行かはった途端に羽振りよくならはりましたね」

「ええ、まあ。他のトコももう終わらしてきたんですわ。業者からリベートが入ってきたんで。…会社には言えんのですけどね」


近田はこう言って、もう二度とウチの事務所へ顔を出すことはなくなった。それから、2年。

事務所に三紙とっている各新聞の一面トップに『Z』の添加物混入事件のことが載っていた。


近田は自分の欲望の後始末をするために、企業犯罪の片棒を担いだのだ。今、近田はどうなっているのだろうか



今、彼は相変わらず、事務所のデスクに座っている。債務者のツラを眺めながら過ごし、今日も強烈なダメ人間たちと向き合う。

(C)写真AC


※編注・登場人物は仮名です。


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(執筆者: 丸野裕行) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか


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