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「本当の事はみんな物語の中に存在しているんだ」 紫式部がストーリーに込めたメッセージとは? 物語に学ぶ理想の女の子の育て方 ~ツッコみたくなる源氏物語の残念な男女~



雨の日はエンタメに限る!平安時代の梅雨の過ごし方


端午の節句のあとは長梅雨。ちっとも晴れ間がないので、六条院の女性方は皆、暇つぶしに絵を描いたり、物語を読んだり、書き写したりして過ごしています。明石の上はセンスを活かし、素敵な物語を仕立ててちい姫にプレゼント。本当なら一緒に読んだりしたいでしょうね。


玉鬘も物語に夢中になっていました。今のように全国の書店で発売ということがない時代、九州で入手できた物語には限りがあったのです。幸い、六条院には豊富な蔵書があったので、それを字や絵が上手な女房に手伝ってもらいつつ、夢中になって読んだり写したりしていました。今の私達がDVDや漫画や本にお世話になるのと同様、天気の悪い日の娯楽として、こんなことしていたんですね。


「物語にこそ真実がある」作者が込めた真のメッセージ


物語にはいろいろなお姫様が出てきます。『住吉物語』のヒロインが、野卑な男に迫られるシーンでは大夫の監を思い出し、思わず共感。それにしても自分のような境遇のヒロインはいないみたい……。と思っていると、源氏がやってきました。


「やれやれ、ここもか。女というのはわざわざ騙されるために生まれてきたらしい。嘘八百の話にうつつを抜かして、この蒸し暑いのに部屋中を本だらけにして、髪の乱れも構わず、必死に書き写しているんだからね」と、笑います。


「でもこういうエンタメがなければ、退屈で仕方がないのも事実だ。フィクションだとは知りつつも、可憐なヒロインが物思いに沈んでいる様子を見ると、やっぱりキュンとするよ。


この頃、ちい姫に女房が読み聞かせをしているが、聞いていると世の中にはなんと作り話の上手い人がいるのかと感心するね。きっと作者は普段からウソを言い慣れているんだろう。そう思わないか?」


「ウソが上手な方はそう思われるのでしょうが、私はただただ本当のことにしか思えません」と、玉鬘は硯を脇へのけます。


「せっかく夢中になっているのにディスって悪かったね。『日本書紀』は我が国の正史で、神代からの出来事をまとめたものだそうだが、そこに書いてあることは、真実のほんの一面にしか過ぎない。本当の事はみんな、物語の中に存在しているんだ。


この世に生きる人の喜びや悲しみ、いいことも悪いことも含めた普遍的な想い……それを誰かに伝えたいと思った人が、きっと物語を作ったんだろうな。


中国の物語は作風が異なるし、国内の物語も今と昔ではかなり違う。何にしても、“フィクションだから、全部作り話だから”と、乱暴に片付けることはできない。


仏教でも”ウソも方便”と言う。仏教を学んでもその矛盾を指摘するような者は、真の悟りを理解できないだろう。突き詰めればウソもホントも、物語の善人と悪人の違いみたいなもの。どこに光を当てて物事を観るか、それだけなのだ。つまり全てにおいて無駄というのは存在しないんだね」。


源氏の台詞は全体にメタ的で、アイロニーに満ちています。表向きの歴史には決して書かれることがないけれど、自分が見て感じた、いろんな事を誰かに伝えたい……。その思いで書かれたこの『源氏物語』が、非常にリアルで心を打つからこそ、千年以上もあとの私達にも届くのですね。


源氏先生のご高説に、玉鬘も(なんだかスゴイ)と思ったのもつかの間、「ところで、お話には私のような、尽くしてバカを見るマヌケ男は出てきましたか? あなたみたいなすっとぼけな姫君もいないでしょう。さ、私達のお話を世にも珍しい物語として語り継いでもらおう」。セクハラタイムが始まった!


玉鬘は顔を引っ込めながら「物語じゃなくたって、こんなおかしなことは世間のウワサになってしまいます」。源氏はますますふざけて「そうだね。どんなお話にも書いていない、世にも珍しい2人の関係だよ」。彼女のきれいな髪をなでながら(遠慮なくおさわり)、迫る源氏。玉鬘は情けなさそうに「本当にこんなお父様はどこにも登場しませんでしたわ」


そう言われるとやっぱり源氏は踏み込めません。今日も一線は超えていない、アブナイ2人の関係。一体どうなっていくのやら、ギリギリのキワドイ仲が続きます。


「美人でもドSはちょっと」物語に学ぶ理想の女の子の育て方


紫の上も、ちい姫のためにさまざまな物語を集めていました。『狛野(こまの)物語』というお話の挿絵を見て「本当によく描けているわ」。肝心のちい姫はお昼寝中で、紫の上は自分の子供時代を思い出します。


源氏は物語を見ながら「こんな子供同士でもしっかりやることをやってるよ。あなたが15になるまで待っていた私の気の長さといったら!まったく特筆すべきじゃないか」。作者はナレーションで“なるほど確かに、世にも変わった恋愛経験を散々されてきたことよ”とツッコミ。まったく、どの口で言ってんだアンタは。


残念ながら、『狛野(こまの)物語』は現存しておらず、どんなストーリーだったのかはわかりません。源氏物語や枕草子などで断片的にその名前と、一部のシーンを知ることができるのみです。


源氏は「ちい姫にはあまり恋愛モノを見せないように。“みんなこういうことしてる”と勘違いするとよくない」。親としてペアレンタルコントロールをするのは当然、でもそういう自分が一番不健全なことをしています。


ここでまたまたナレーションが、“実の娘にはこんなに気を使っているのに、玉鬘が聞いたらどう思うだろう。扱いが違うとヒガむのでは”。おっしゃる通りです。どうもこのシーンは地の文のツッコミが効いています。


「チャラチャラした人の話は読んでいても本当にイヤね。でも、『宇津保(うつほ)物語』の貴宮(あてみや)みたいな、ストレートすぎてキツイ性格なのもどうかしら。甘言に乗せられたりはしないでしょうが、どうにも優しさや可愛げがないんですもの」と、紫の上。


『宇津保物語』の貴宮は、平たく言えば“超美人でドS”。あらゆる男が寄ってきますが、彼女はケチョンケチョンのメッタ斬り。それでも男どもは逆に「むしろご褒美です」と、ますます翻弄されていく……。一部の人にはウケそうですが、ちい姫には目指してほしくないキャラです。


実際に女の子を育てるのは難しい。結構な親が手塩にかけて育てた娘なのに、ただおっとりしたのだけが取り柄で、あとは箸にも棒にもかからないなんていうのは“いったいどういう育て方をしたのか”と思ってしまう。


言葉の限り絶賛しておいて、いざフタを開けたら全然違った!というのは勘弁してほしいね。いい意味で“さすがはあの親御さんのお嬢さんだ”と思ってもらいたいものだ」。経験者は語るのコーナー。


物語の中には継母が意地悪をする、シンデレラ的なものも多くありました。古今東西、意地悪な継母キャラというのは物語の定番だったようですね。ちい姫が継母に悪いイメージを持ってはいけないと、源氏はこういった本も取り除きます。源氏はとにかく教育パパ。微に入り細に入り、常にチェックの目を光らせています。


妹とお人形遊び!進展しない長男の恋の行方


源氏の子育て方針についてもう一つ。最近、夕霧がちい姫の部屋に入るのを許可したのです。ふたりきりの兄妹、源氏としては「自分が死んだ後を考えて、幼い頃から仲良くさせておこう」というわけ。しかし相変わらず、紫の上側には一切の接触が禁止されています。


夕霧は真面目で落ち着いた性格なので、父親の目から見ても安心なお兄ちゃんです。ちい姫は夕霧になつき、もっぱらお人形遊びの相手をしてもらっています。もう夕霧も14歳位、今なら中学生ですね。もう大きな男の子が、8歳位の妹と遊んでるのは何とも微笑ましい限りです。


お人形遊びをしながら想うのは雲居雁のこと。(もう何年も前、こんな風に一緒に遊んだっけなあ……。)雲居雁とは時々手紙のやり取りのみで、進展なし。惟光の娘・藤典侍以降は出会いもなし。まあ、その場のノリでちょっと女の子に言い寄ったりする事はありましたが、その程度です。


夕霧もモテるので、ちょっと良さそうな女の子と付き合ってもいいかな~と思うこともあるのですが、彼の心の奥底にはいつも「浅葱色の六位の下っ端」とバカにされた悔しさがくすぶっています。


(立派になって、馬鹿にした奴らを見返してやりたい。そして伯父上=頭の中将から「どうか娘と結婚してやってください」と言われるまでは絶対に諦めないぞ!)


玉鬘の件でヤキモキしている従兄弟たちは「ねえ夕霧。頼むから玉鬘の君に僕達を紹介してよ。そしたら代わりに、雲居雁にこっそり逢わせてやるからさ」と、トレードを持ちかけるのですが、夕霧は冷たく断ります。人の恋路の世話焼いてる場合じゃないんだよ、僕は!


こんな調子なので、従兄弟からは「ホント、真面目でつまんないやつ」とブーブー言われていました。


ちょっと現金?「あの子がいてくれたら」行方不明の娘探し


その頃、頭の中将も娘のことで悩んでいました。(長女の弘徽殿女御は出世レースに負けた。次女の雲居雁はスキャンダルで宙ぶらりん。我が家には2人しか女の子がいないのに、頭の痛いことだ。


ああ、あの撫子の女と娘はどうしただろう。可愛い子だったのに、ちょっとしたことで行方がわからなくなってしまった。女の子からは片時も目が離せないものだなあ。


もして生きているなら、落ちぶれて惨めな人生を送っているのではないか。どこかで“頭の中将の娘だ”とでも名乗ってくれれば見つけようもあるのに)。


撫子の女、というのは夕顔のこと、娘はもちろん玉鬘のことです。若き日に『雨夜の品定め』で、撫子の花とともに手紙をやり取りしたエピソードからこう呼んでいます。


頭の中将は息子たちにもこの話をし、「もしそんな話を聞いたら詳しく調べてくれ。私も若いときには相当遊んだが、その女の子の母親は本気で心から愛していたのだ。今も後悔している」


実際は源氏のようにずっとずっと想い続けていたわけでもないのですが、長女と次女がパッとしないので、行方知れずになったあの子がいれば……と急に思うようになっただけ。逃した魚ではなく、見失った娘は大きい。ちょっと現金ですね。


そのうち、彼は奇妙な夢を見ました。占い師が言うには「長い間放っておいたお子さんが、よそのお家でお世話になっているようです」


(男の子が養子になるのはよく聞くが、女の子はめったにそういうことがない。やはりあの子のことだろうか?)。頭の中将は大勢いる息子たちに繰り返し、行方知れずの女の子を探すように言うのでした。


いかに平安時代の貴族たちが女の子を育てるのに躍起になっていたか、というのがよく分かるエピソードです。このあと、頭の中将の長男・柏木が娘と名乗る人物を連れてくるのですが、そのトンデモぶりはまたの機会に。


簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。


3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html

源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/


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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか


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