はじめに


いつの間にか語り継がれ、その地に根付いている民話。その内容は伝説の生き物の話をはじめ、嘘のような世間話まで、その数は多岐にわたります。地方の魅力を深堀りする「旅色セレクション」編集部が伊東自然歴史案内人に聞きました。

伊東自然歴史案内人に聞く、伊東の民話


民話とはなにか。辞書で調べてみると、「民間に口承されてきた説話」や「伝説、由来、世間話」、「民衆が語り伝えた説話」などと書かれています。これら民話を知れば、もっと伊東の魅力がもっと深くわかるはず。
今回は、伊東にまつわる民話について、伊東自然歴史案内人、ジオガイドとして活動されている土屋さん(左)と遠山(右)さんに、伊東に根付いている民話ついてお話しを伺いました。

大室山の麓に大蛇!? 大室高原の大蛇穴


この大室山にまつわる民話と言えば、「大室高原の大蛇穴」です。
この大室山の麓には、度々集落に降りては悪さをする大蛇が住んでいました。村人たちは困り果て、たまたま近くまで狩りをしにきていた源頼家に懇願し、蛇の討伐を依頼。頼家は源氏随一と言われる程強い家来に大蛇退治を命じました。すみかと言われる洞窟へ着くと、そこは灯りのない真っ暗闇。奥へ、奥へと進んだ先で、カーッと口を開けた大蛇。にらみ合いの末、大蛇に一太刀浴びせ無事退治したというお話しです。

現在は柵があり、洞窟内部の様子を見ることはできませんが、「柵がない時代、あまりにも先がなくて途中で帰って来たとか、そういう話はよくあって、全長はわからないけれど、深く長い洞窟なんです」とのこと。ちなみに、晴天の大室山からは富士山が良く見えますが、褒めてはいけないんだとか。「昔から大室山と富士山は、天孫降臨神話に姉妹に例えるんです。この大室山は磐長姫命(いわながひめ)に、富士山をコノハナサクヤヒメに。」とのことで、美人の妹(富士山)を褒めると姉(大室山)が怒って災いがあるとかないとか。土屋さんは笑って教えてくださいました。

◆大室山
住所:静岡県伊東市池 672-2

悪戯好き天狗からのお詫びの印? 天狗の詫び状文


天狗といえば、赤い顔に長い鼻。神や妖怪ともいわれる伝説上の生き物です。その天狗の話がこの伊東にも民話として語り継がれていました。その伝説のキースポットが、ここ「佛現寺」。伊東市役所の隣にあるお寺です。

昔は大平山の麓あたり、伊東で獲れた海のものと中伊豆の特産物を持って柏峠を使っていました。とある時から、脅かしたり、道に迷わせたりするいたずら天狗が住んでいて、村の人々は困り果てたとか。

村人たちから話を聞いた和尚は、天狗のすみかと思われる峠の木の下でお経を読み、その後木こりたちに木を切らせました。木が倒れるまでもう少し、という時。どこからともなく長い読めない文字が約3000字書かれた白い紙がひらりと舞ってきたと言います。その文字を見ているとサーッと一陣の風。みるみるうちに木が倒れ、以後天狗を見なくなったというお話し。この文字が「詫状」と言われ、それを現在も保存しているのが「佛現寺」です。現在はコピーを「天狗詫状 練羊羹」として購入することができます。

一説には、1660年あたり、4代家綱の時代からある話なんだそう。さまざまな資料を読む土屋さん曰く、「時代背景を考えると、悪い山伏や坊主の仕業、という見方もあるかもしれませんね」とのこと。「真相はわからないですけどね」と遠山さんも笑っていました。
兎にも角にもこの不思議な文字。ひとつも同じ文字がないという「詫び状」に、知れば知るほど疑問が沸いてきますね。

◆佛現寺
住所:静岡県伊東市物見が丘2-30
電話:0557-37-2177

伊東温泉の始まりの物語 猪戸の元湯


伊東と言えば、外せないのが温泉。湯治場として愛され、かの徳川将軍も通ったとも言われるほど由緒ある温泉地です。この温泉にまつわる話が1686年ごろからある「猪戸の元湯」のお話。
まだ伊東市が見渡す限りの草原だったころ、山越えする旅人が草むらにいる一匹の猪を発見したことから始まります。手負いの猪に気づかれないように影に隠れた旅人。猪は目の前の泉に浸かり、しばらくすると元気に林の中へと消えていきました。このこんこんと湧き出る泉こそ温泉で、「猪戸の湯」と名付けられたといいます。

この「猪戸の湯」、実は伊東で湧き出る温泉の中でも一番若いとされていて、このエリアを「猪渡」と言ったそう。伊東市駅から数分のところ、猪戸温泉通りにある猪の像は、このお話しからくるものだったのですね。

一碧湖に住む神通力を持つ牛 大池の赤牛


伊東市の観光地である一碧湖。ここにも民話が1つありました。
まだ一碧湖が吉田の溜池や大池と呼ばれていたころの話。小川沢という場所に神通力を持った赤牛が住んでいました。その池は年々浅くなり住みにくくなった赤牛は、この吉田の大池へ住みかを移しました。この池を交通路としてこの池を行き来していた村人たち。そんな人々が煩わしかったのか、赤牛は舟をひっくり返すようになり、次第に村に落ちた人を食らうようになってしまいました。この話を知った光栄寺の和尚が、命をかけて赤牛の魔力を封じようと池の小島で七日七晩お経をあげ、その地に御堂を建てたというお話し。

こんなに美しい一碧湖にそんな怖い逸話があったなんて、びっくりですよね!
「赤牛は土石流や溶岩だという説もありますが、伊東駅の裏手側の小川沢から、一碧湖までとても距離があるので岩ではなさそうですね」と笑う土屋さん。「実際に小川沢には、確かに池の底にあるような地層の痕跡が見える場所もあったんです。今は山崩れで無くなってしまいましたが」と遠山さんは言います。「科学的に見た民話も面白いですよね」と笑うお二人の話に、編集部も「へえ~!」を連発。ファンタジーにしては事実とリンクする伝説や民話は、伊東の新しい観光地の楽しみ方になりそうですね。
■旅色セレクションとは
日本全国各地の魅力を深堀りし、伝える旅色別冊シリーズ。魅力的な街を求めて編集部が各地を飛び回り、その地域の観光情報はもちろん、特産品や地元のディープなスポットなどをご紹介しています。

「旅色セレクション」ラインナップ一覧へ




情報提供元: 旅色プラス