2016年12月に可決されたIR推進法(通称、カジノ法)、日本国内でも横浜、大阪、ハウステンボス、宮崎シーガイア、苫小牧、釧路などで誘致に向けた検討が進められている。



IR推進法は、地方自治体の申請に基いて、カジノの開設を認める区域を特区として指定する法律の準備的なものだ。統合型リゾート(IR)はカジノ施設のほか、MICEなどの国際会議場、ホテル、ショッピングモールなどの商業施設、レストラン、映画館、シアターなどが一体となった複合施設。施設へのインフラ投資や訪日観光客の増加によって地方創生にもつながり、税収の増加も期待できることから、全国の自治体が興味を示している。東京オリンピック・パラリンピック後の景気対策、インバウンドの確保策とも言われており、実際に日本の訪日観光客数は、オリンピックまでに4,000万人、その後6,000万人まで目標の試算が行われている。目標達成のためにはIR施設が不可欠であるとも言われている。



その背景について、香港、マカオを始め中華圏でのビジネス経験が長く、複数のIR事業者への情報提供や海外視察アテンドなどの経験を持つ、IR事情に詳しい紺野昌彦氏に今後の見通しを聞いた。



ー紺野さんはIRについてお詳しいとお聞きしました。
その背景についてお聞かせ下さい。



紺野昌彦氏「
元々私はIRについてはズブの素人です。
全くギャンブルはしませんし、マカオ、シンガポール等のカジノ施設には度々足を運ぶことはありますが、実は全くゲーム自体プレイしたことすらないのです。
ただ海外在住で私のビジネスも香港ベースということもあり、香港、シンガポールなどを中心とした中華圏企業や中華圏富裕層との繋がりが非常に多かったのが、カジノいわゆるIRに関係することになった背景のひとつです。

」



ーその中華圏企業にカジノ企業が含まれたという事でしょうか。

紺野昌彦氏「
直接カジノ企業と繋がりがあったというわけではありません。
昨年の10月頃から日本の国会においてIRの話題が大きくなるにつれて、海外からの質問が多くなったことが一つに挙げられます。
友人企業から、マカオのカジノ企業のCEOと会って欲しい等とのオファーがあり、急いで日本のIRの状況について勉強したほど専門でもない分野でした。

以前、沖縄県のゼネコン大手の國場組前会長の國場幸一郎氏のお近くで秘書的なお手伝いを4年ほどしていた経緯があります。ちょうどこの頃は、沖縄県はまだ仲井眞県政でIR推進の立場であり、政府からのIR調査費用が交付され実質的な調査が行われていた時期でもありました。
元々IRは沖縄ありきの事でもあったのと、沖縄でのIRの源でもあった國場幸一郎氏の薫陶を受けていたことも影響するかもしれません。」



ーIR法案は沖縄ありきとおっしゃいましたが、どのような意味ですか

。

紺野昌彦氏「
真相はわかりませんが、以前に國場幸一郎会長からよく聴かされていたのは、カジノ法は元々沖縄のための法案で、國場幸一郎会長と当時の野中広務氏元自民党幹事長と話し合ったのが発端で議員連盟を作ったと仰っていました。そんな経緯もあり前県政時にカジノ法が検討されるにつれて沖縄県内には、カジノ関連の社団法人などの団体も生まれ、議論や誘致活動の先駆けの状況が始まっていたので、その事務的手続きや政府からの交付金での調査なども実施されていたのでリアルな事であったと思います。」







ー
現在のIR法の走りが沖縄であったことがよくわかりました。
今では全国での競争ということになっていますが、これは現在の沖縄県知事が反対している背景にあると見てもよいのでしょうか?



紺野昌彦氏「
まさしくそれ以外に理由はないでしょうね。
今でも沖縄県が手を上げると一番初めにライセンス交付となる可能性は極めて濃厚と思います。

」



ー紺野さんがご存知の範囲で、カジノに興味を持っている地方自治体はどれくらいありますか?



紺野昌彦氏「他人から聞いた未確認情報や現実性が低いところも含みますが、北から順に釧路市、苫小牧市、留寿都村、江別市、秋田市、横浜市、熱海市、大阪市、和歌山市、山口市、佐世保市、宮崎市などがよく聞く地名ですね。
関わる企業や団体はここではお話できませんが。



ー
相当な数の地方自治体が動いていますが、その中でもより積極的な地域はどこでしょうか。

紺野昌彦氏「
先日、東京で開催された苫小牧市が主催するIR事業投資に関連する説明会に参加して来ましたが、実際に行政として部署配置もし、外部コンサルにも委託し市のサイトでの告知なども積極的に行われている様子が伺えました。
行政主導で本気度が一番感じられたのは苫小牧市のIR誘致でないかと感じています。

」



ー
苫小牧市は北海道でも有利とお考えですか。

紺野昌彦氏

「
そうですね。おそらく地方自治体での体制作りには、大阪市に次いで進んでいるように感じますので、大都市部以外ではかなり有利ではないでしょうか。

」



ー紺野さんは実際にどのようなカジノ企業とどのようなお付き合いをしているのでしょうか?



紺野昌彦氏「単に情報収集と情報の提供、そして地域のキーマンや政府関係者にお繋ぎしている程度です。以前に政治家関係の政策作成や、選挙プランナーとして10件程度の選挙をお手伝いした経緯があり、政治家の先生方とは交友が広かったのが、今になって偶然に役立っているところがあります。
そこからIRに関連する国会議員の先生方から情報を収集のご協力を頂き、キーマンをご紹介頂けたところが大きいです。

」



ー現在の各地で誘致活動が活発化していますが、IR魅力はなんでしょうか?


紺野昌彦氏「一番に巨額のインフラ投資とインバウンド増が挙げられると思います。
よく聞く数字で実際のところはわかりませんが、一説によると一つの施設の平均的な投資額は3000億円とも5000億円とも言われています。
最近マカオでオープンしているカジノ施設、パリジャンの総工費は3000億円弱と言われていますので、同規模のものをイメージできるかと思います。
またマカオのギャラクシーなどは、総工費が5000億円以上と言われ、原価回収は3年だとかも聞いたことがあります。

実際にマカオのカジノ収益は日本円にして2016年には約3兆1000億円と言われています。
マカオで交付されているカジノライセンスは6社ですが、この売り上げはこの6社で分かち合っている状況でしょう。またこの売り上げは純粋にカジノでの収益であり、これら以外にホテル収益、飲食収益、エンターテインメント、ショッピング、国際会議などの収益は含まれません、これを含めると、7兆円ほどと言われています。
またシンガポールのマリーナベイサンズの年間売上も1つの施設で4000億円前後とよく聞きますので、日本の地方都市でのモデルケースではこのような規模感を考えているのではないでしょうか。」



ー現在の日本では、パチンコや競馬などの公営ギャンブルも26兆円規模のマーケット規模ですが、これはどのように見ていらっしゃいますか。

紺野昌彦氏「
最近よく海外のカジノ企業が日本で記者説明会のようなカンファレンスを開催していますが、これは積極的に外国のカジノ企業が参入したいなによりの証拠でしょう。諸外国のカジノ企業から見ると、日本は世界一のギャンブル大国でかなり欲しいマーケットに写っているのではないでしょうか。
日本にはマカオやラスベガスのような典型的なカジノは存在せず、独自の文化で花開いたパチンコや、競馬、競輪、モーターボートレースなどがありますが、基本的には日本国内の日本人をマーケットとなっているのが現状でしょう。既に競馬やボートレースは、中国語や英語のパンフレットでインバウンド対応を始めているところもありますが、訪日外国人観光客が多く訪れているという話は聞いたことがありません。
結果として内需で賄われていることになりますよね。

IR法でカジノが解禁になれば当然、アジアのインバウンド、そして富裕層観光客の増加と誘致が可能です。

中国の海南島の観光客は2016年度で約4900万人、マカオで約2800万人、香港は約3000万人、シンガポールは800万人とここ数年で飛躍的にアジア圏、中華圏の移動人口は増加しています。

日本を好マーケットと見る外国カジノ企業、そしてアジア圏の富裕層を取り込みたい日本の思惑がクロスするのが現在の日本のIRにおける実情ではないかと僕は感じています。

」



ーこれはカジノ外国企業にマーケットを取られることにもなりかねない状況でもあるのでしょうか。

紺野昌彦氏「
私はそうでないと考えています。
海外から施設の建設に巨額の投資をしてもらい、現在の国内完結の公益ギャンブルにプラスされ、インバウンドの海外資本がマーケットに含まれるわけですので、国内の資本滞留と外貨獲得には大きく有利ではないでしょうか。
もちろん一部の外国企業が施設権利を取得したとしても、IRに関連して国税、地方税共に、別途法律が公布されますので非課税で海外に利益を持ち帰られることもないでしょう。
新しい法案を要チェックですね。



ー
カジノ依存症などが取り沙汰さえています。また治安の悪化などが懸念材料として問題視もさえていますが、これはどのような状況でしょうか。

紺野昌彦
氏「現在様々な議論がおこなれていますが、私は大きな問題はないかと思います。
現在のパチンコや競馬などは、誰がいつ来て、どれくらい買ったのかが全くわかりません。
ですが、日本のカジノではマイナンバーの提示が必要であったり、多重債務者がマイナンバーにより入場が制限されることも検討されていると聞き及んでいます。
また、近親者からの申請でハードプレイヤーが、入場に制限がかけられる措置も取られる可能性も高い様子です。
これは現在の日本の法案が、シンガポールのカジノ法をベースに様々な対策を多重に考慮して法案作りをしている背景があります。
現在のパチンコや競馬のような野放しの公営ギャンブルなども、何れカジノと同じ基準が導入されるでしょうから、むしろ、今より健全化されるのではないでしょうか。」



ー紺野さんはマカオに数多くお仕事で滞在されていると伺いました。これはマカオ企業の日本への誘致が進んでいるということでしょうか。

紺野昌彦氏「
企業名や人物名などは明かせませんが、日本のIRで活動する企業をマカオのカジノ企業のCEOに引き合わせていたり、日本の議員団の視察アテンドだったりします。
中華圏、特に香港の企業や投資家関係の友人が多く、過去にマカオのカジノ企業の関係者や幹部の皆さんを紹介頂けたことが、今回までの活動につながった感じでしょうか。

元々積極的にIR絡むつもりも全くなかったのですが、様々なご縁から関わっています。そこから今の環境になったのではないでしょうか。

」



■プロフィール

紺野昌彦(こんの・まさひこ)


1971年尼崎生まれ、バンコク、香港在住。
高校時代に起業しこれまでに30以上の事業を起こし、2014年には年商11億円まで自社を成長させ日系上場企業にバイアウト。また2002年から2010年の間に複数の選挙プロモーターとして当選実績を持つ。現在は香港で投資会社の運営を行う傍ら、複数の外資系上場企業の役員、顧問などを務める。

情報提供元: Traicy
記事名:「 日本における統合型リゾートの可能性、専門家・紺野昌彦氏に聞く