V8ツインターボ、しかもバンク内排気レイアウトを採るダイムラーの新世代V8ターボ。Sクラスに載せられるのはM176と称する型式である。同じ機械構成でAMG63シリーズが積むM177、そしてAMG GTが載せるM178エンジンがある。これらにはどのような由来と特徴があるのだろうか。

M176:両バンクそれぞれの前方にインタークーラがコンパクトに収まる

M176型は、メルセデス・ベンツSクラスの先代に当たるW222型が2017年のマイナーチェンジ時に搭載し始めたV8エンジン。560グレードに搭載されている。型式をもう少し詳しく言えば「M176DE40AL」。Mはオットーサイクル(ガソリンエンジン)、176が型番で、DEは直噴、40が排気量で(3982cc)、Aはターボチャージャ、最後のLはインタークーラ装備を示す。




このM176、ダイムラー社のメルセデス・ベンツ車に搭載されるのは2機種目で、最初はGクラスだった。そのときは「G500」のグレードとして用いられ(現在は「G550」に改称)、310kW/610Nmの性能を与えられている。今回の「S560」は345kW/700Nmとして、過給圧を上げた制御としている。

M177:M176のパフォーマンスアップ版にあたる「ロクサン」用エンジン

M178:AMG-GT専用エンジン。右側が前方で吸気、強烈な吸気系部品の配置である。

さらにこのM176はV8エンジン3兄弟のうちのひとつで、さらにM177とM178が用意される。ファミリーを通じて機械的寸法はすべて一緒、縦積みで吸排気方向は同じとし、圧縮比は出力に応じて使い分ける。




 ■ M176:メルセデス・ベンツの「G550」と「S560」に搭載。圧縮比は10.5。


 ■ M177:メルセデスAMGの「63」の名称を持つグレード各車に搭載。圧縮比は10.5/8.6


 ■ M178:メルセデスAMGの「GT」シリーズに搭載。圧縮比は10.5/9.5。




M176はベンツブランドに用いられるエンジン、M177がAMGロクサンとマイバッハGLS、M178はGT専用の型式という位置づけで定着しているようだ。

M177のカムトレイン

M177の運動系部品。ピン配置は90度ごとのクロスプレーン式。

車両搭載性を追求するとクランクウェブを噛ませてバンク角60度とするのがいまのところ最善策なV6エンジンに対して、V8は「4気筒×2」という作り方ができるので全長を短縮できるのがメリット。当然、シリンダブロックの設計思想も共用できる。実際、M178が登場したときには、同じメルセデスAMGが仕立てる4気筒エンジンM133のブロックに由来すると発表され、ボア×ストロークはもちろんボアピッチの数字も共通としている(83.0×92.0:90mm)。




M176/177/178は排気量もM133の1991ccのちょうど2倍、3982cc。したがって、アルミブロック+ダイムラー称するところの「NANOSLIDE」ボア壁面溶射構造も共通、わずか0.1〜0.15mm厚のコーティングを施すことで軽量化と熱伝達性の向上を図っている。

NANOSLIDE:通常は鋳鉄ライナーをアルミブロックに鋳込むところ、鉄系の粉末を溶射してコーティングする技術。軽量化と伝熱性に優れる。

M133:AMGの横置き車に用いられる2.0ℓ4気筒エンジン。現在はM139にとって代わられている。ちなみにこのM133とは、元はメルセデス・ベンツ横置きシリーズに搭載されているM270のチューンアップ大改変版にあたる。M270はさらに縦置きシリーズにも改変されていて、その型番がM274。吸排気方向を逆にする大改造を施されている。

M176/177/178型は、近年のエンジンらしく気筒休止システムを装備。カムロブをスライドさせてゼロリフトとする「CAMTRONIC」によって、2番3番5番8番シリンダの吸排気バルブを停止させる。つまり、右シリンダの内側ふたつ/左シリンダの外側ふたつを止める格好。作動条件はM176が900-3250rpm、M177とM178は1000-3250rpmとしている。




同じV8の気筒休止で思い出すGM・LT4は止めるシリンダが正反対で、1番4番6番7番を休止。こちらはOHVだから、プッシュロッドの動作を止めるラッシュアジャスタのような部品を用いる。参考までに、直4では2番3番を止めるのが一般的、V6ではホンダの気筒休止システムVCMが非常にユニークな止め方をしていた。

CAMTRONIC。カムロブがふたつあり、スイッチング構造なのが見て取れる。

■ M176/177/178:共通諸元


気筒配列 V型8気筒


排気量 3982cc


内径×行程 83.0mm×92.0mm


給気方式 ターボチャージャー


カム配置 DOHC


吸気弁/排気弁数 2/2


バルブ駆動方式 ロッカーアーム


燃料噴射方式 DI


VVT/VVL In-Ex/○




■ M176


圧縮比 10.5


最高出力 310kW/5250-5500rpm


最大トルク 610Nm/2000-4750rpm


(G550)




■ M177


圧縮比 8.6


最高出力 450kW/5750-6500rpm


最大トルク 850Nm/2500-4500rpm


(E63 S 4MATIC)




■ M178


圧縮比 9.5


最高出力 430kW/6250rpm


最大トルク 700Nm/2100-5500rpm


(AMG GT R)
情報提供元: MotorFan
記事名:「 内燃機関超基礎講座 | メルセデス・ベンツ/AMGのV8エンジン三兄弟[M176/177/178]