トヨタ2T-Gと言えば、ツインカム=DOHCの一般化の先駆けとなったエンジンだ。セリカに積まれてデビューした2T-Gは、70~80年代前半まで様々なクルマに積まれただけでなく、モータースポーツ・シーンでも活躍した“記憶に残る”エンジンである。




TEXT●高橋一平(TAKAHASHI Ippei) PHOTO●桜井淳雄(SAKURAI Atsuo)

 1970年12月に初代セリカ(TA22)用として登場した2T-G型。それまでのレーシングカーやプレミアムモデルだけの特別なメカニズムだったDOHCを、大衆車に広めた。いわば“普及型DOHC” のさきがけともいえる、あまりに有名なエンジンだ。




 トヨタにおけるDOHCエンジンの歴史は、1967年5月登場の2000GTに搭載された3M型に始まる。2000GT専用として開発されたこのエンジンは、当時2代目クラウン(MS40)用として用いられていたM型(SOHC直列6気筒/ボア×ストローク:75mm×75mm/1988cc)をベースにDOHC化を図ったもので、2000GTのプランニングから開発、生産まで深く関わっていたヤマハ発動機によって開発されたものだった。




 そして同年8月には3代目コロナ(RT41)に搭載されていたOHV4気筒の4R型エンジンをベースに、DOHCとした9R型が1600GT(RT55)用として登場(1600GTは3代目コロナのボディを基にしたモデルだったが、コロナとは別物として区別されていた)。トヨタ初の4気筒DOHCとなるこのエンジンもやはりヤマハによるもので、トヨタの一般的なエンジンをベースに、ヤマハがDOHC化を担当という両社の協力関係が、以降長きに渡って続いていくことになる。




 2000GTが破格なまでのプレミアムモデルだったことはあまりに有名だが、2000GTに比べれば廉価版といえた1600GTも決して一般的な量産モデルではなく、13ヵ月間という限られた発売期間で2000台程度が生産されたに過ぎなかった。当時は一般的な量産車といえばOHVエンジンが主流であり、DOHCを採用するエンジンは極めて特殊な存在だったわけだが、そんな風潮のなか、トヨタは驚くべき戦略を打ち出す。それは日本初のスペシャリティカーとなる初代セリカの“目玉” として、誰にでも手が届く量産型のDOHCエンジンを用意するというもので、こうして登場したのが2T-G型だった。




「パッションエンジン」という愛称を持つOHV4気筒の2T型ベースに、ヤマハ発動機に開発を委託した1気筒あたり2バルブのアルミ合金製DOHCヘッドを搭載するという手法は、前述の3M型や9R型と同様のものだが、量産を意識したコストダウンのためシリンダーヘッド以外の部分はできる限り共用とされている点が特徴、同じ4気筒ということで、近い構造を持っている9R型と比べても、タイミングチェーンのアイドラースプロケットが2T-G型では樹脂製のスライダーに置き換えられるなど、コストダウンのための変更を各所に見ることができる。




 ブロック内にカムシャフトを内蔵するOHVから、シリンダーヘッド上部に2本のカムシャフトを持つDOHCへと、バルブトレーン形式を大きく変更したことにより、OHVを特徴付けるパーツのひとつであるプッシュロッドは不要となったものの、ブロックを共用としていたために、2T-G型でもヘッドを取り外すと、ブロック上面にプッシュロッドの通路を見ることができた。




 また、2T型でカムシャフトを収めていた位置には、ディストリビューターとオイルポンプ、そして機械式の燃料ポンプを駆動するためのシャフトが残され、エンジン前部のカバー内に収まるタイミングチェーンは、このシャフトを経由する2段掛けになっており、横に大きく広がるシリンダーヘッドと相まって、特徴的な外観を形成している。




 いかにもトヨタらしい合理性を感じさせる造りだが、興味深いのは前述の9R型のクランクシャフトが3ベアリング支持だったのに対し、2T-Gでは5ベアリング支持と、より高回転向きの設計へとグレードアップが図られたかたちとなっている点。これは2T-G型のベースとなった2T型がその前身となるT型(1970年に登場)の開発の段階からDOHC化を視野に入れて設計されていたためという。

DOHCヘッドを得て高性能化。しかし…

「パッションエンジン」と呼ばれたOHV方式のバルブトレーンを持つ2T型をベースにDOHC化したものが2T-G型。低コスト化のためにシリンダーヘッド以外の部分はできる限りの共通化が図られていた。2T-G型ではソレックスツインキャブレターが採用されていたが、2T型ではダウンドラフトのシングルキャブレターを採用。ちなみに写真でキャブレターに取り付けられている黒い箱はインダクションボックスで、この先に遠心式のエアクリーナーが連結されていた。なお、2T型も2T-G型も同じ1970年12月に登場している。

型式:2T-G


種類:水冷直列4気筒DOHC


総排気量(cc):1588


ボア×ストローク(mm):85.0×70.0


圧縮比:9.8


最高出力(kW/rpm):72/6400


最大トルク(Nm/rpm):121/5200


*ソレックスツインキャブレター装着


ハイオクガソリン仕様
OTHER SIDE

2T型の構造



バルブ軸間が大きく開いたカムシャフト配置と、OHVエンジンのカムシャフト位置を経由するかたちで2段掛けとなっているタイミングチェーンは2T-G型の特徴。OHVの2T型でカムシャフトが入る場所には、カムシャフトの替わりに、ディストリビューターやオイルポンプ、そして燃料ポンプを駆動するためのシャフトが入っている。クランクシャフトは5ヵ所のベアリングで支持。燃焼室形状は半球型で、バルブの挟み角は66度となっている。

シリンダーブロック

2T型と2T-G型で共通とされていたシリンダーブロック。スカート部がクランク横まで回りこむディープスカート形状を採用。ヘッド上面から見るとOHV用のプッシュロッドを通す穴が確認できる。内部にはOHV用カムシャフトのジャーナル部も用意されており、DOHCの2T-Gでは使わない部分までメタルもはめ込まれていたが、これは穴位置をずらして装着することでジャーナル部の油路にフタをするためのものだった。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 日本の名エンジン 2T-G型 :セリカ、カローラレビン、カリーナ、そしてレースでも大活躍した名機