スバルもそうすれば、もっと簡単にハイブリッド化できるんじゃないですか? トルコン、取っちゃえばいいんじゃないですか? 」
とトランスミッション担当のエンジニア氏に伺ってみた。
「トルコンはなくしたくないんです!」
と即答。
「X-MODEもそうですが、フォレスターは登坂性能を重視しています。トルコンを使うのは、トルク増幅が使えることと、その扱いやすさからです。トルコンの代わりにモーターを入れてクラッチを使うというのが、他社の常套手段ではあるのです。が、そうすると過酷な走行条件ではクラッチを滑らせ続けることになるので、クラッチが熱でだめになってしまうことがあるんです。流体(トルクコンバーター)を使えば、トルク増幅もできるし、熱ダレもしにくいんです」
とのことだった。
なるほど。確かにSUVとしての走行走行を考えればトルコンを残す理由はよくわかる。でも、インプレッサとかだったら、トルコンを外してモーターを組み込めばいいんじゃないですか?
「いえ、インプレッサも、限界登坂や標高の高いところで使っていただくお客様が多いんです。ちょっとした段差の乗り越えなどでトルクコンバーターのトルク増幅が使えるのは大きい。そこはこだわって残しています。日本や北米では、スタート時の“質感”が問われます。トルクコンバーターの流体による滑らかな発進は、クラッチではなかなか再現できません」
スバル社内でも議論はあるようだが、他社では燃費のために割り切るということもあるなか、スバルではフォレスターだけでなく走行条件の悪いところでも使えることを考えてトルコンを使いたいのだという。それも「多少重くなっても、世界のどこでも使える」というところにプライオリティを置いているのだ。
将来的には、モーター(現在は10kW)の出力をもっと大きくしたいという意図はあるようだが、「AWDの性能はなにも落としていません。その上でアドオンでモーターの良さを生かす、それがe-BOXERです」と語る。
リニアトロニックCVTは、縦置きのチェーン式のCVTというスバル独自のトランスミッションだ。縦置きBOXERエンジン+AWDという、ユニークなレイアウトゆえ、トランスミッションメーカーから、トランスミッションをポンと買ってくるわけにはいかない。スバルの技術陣は、今回も細やかな性能アップを図っている。
レシオカバレッジ(最ハイギヤ比を最ローギヤ比で割ったもの)は、ついに7.02まで広くなった。
「リニアトロニックがデビューした際は5.8程度でしたからかなり広がりました。現状では、これがベストだと思っています。さらにレシオカバレッジを広げたら、たとえば高速走行でエンジン回転数をさらに下げることができますが、今度はエンジンの"美味しいゾーン”から外れてしまいます。もちろん、将来はレシオカバレッジはもっと広くしたいんですが。カバレッジを広くとれれば、ファイナルギヤで、高速側低速側のどっちに振るか、チューニングができますから」
スバルのリニアトロニックCVTは、WRX S4などが積む高容量タイプとフォレスター、インプレッサなどが積むトルク容量250Nmの中容量タイプの2種類がある。前述のとおり、スバルは自社で2ペダル・トランスミッションを開発し、製造しなくてはいけない事情がある。しかし、100万台メーカーになったいま、リニアトロニックCVTは、スバルしか使わない縦置きCVTではあるが、けっして生産量が少ないトランスミッションではない。
「そうなんです。縦置きでAWDで、トランスファーもフロントデフも一体化しているユニークなトランスミッションで、これを造れるのは、じつは世界でただひとつ、スバルだけなんです!」
とエンジニア氏は胸を張った。
デビュー当時のリニアトロニックCVTに見られたネガ(チェーン式の宿命であるノイズ、CVTならではのフィール……ラバーバンドフィールとまでは言わないけれど)は、新型フォレスターの試乗ではきれいに消えていた。ノイズ対策もさらに入念に、オイルの攪拌抵抗を下げるなどの細かい改良を施している。
「リニアトロニックCVTは、まだまだ進化します」とエンジニア氏は語った。