グローバル販売台数の実に98%をAWD(四輪駆動)が占めるというスバル。


スバルといえばAWDというイメージは定着しているものの、


極限の環境下でその雪上性能を見極める機会はなかなかない。


折しも関東地方が数十年ぶりという寒波に襲われ、


あらためてスバルやAWDへの関心が高まるなか、


インプレッサとXVで厳寒の八甲田山を走破する機会を得た。




TEXT&PHOTO:小泉建治(KOIZUMI Kenji)

本州屈指の豪雪地帯を往く

前半の相棒はインプレッサG4 2.0i-S EyeSight。品川ナンバーのクルマが極寒の八甲田山をえっさこら登っている図はある種のシュールさを感じさせる。(PHOTO:SUBARU)

 スバルが自社のAWD(オールホイールドライブ───四輪駆動)技術に自信を持っているのは知っていたが、それにしても……である。このほど開催されたメディア向けスバル雪上試乗会は、なんと青森県の八甲田山を越えるというもの。210名中199名が犠牲になり、映画にもなった116年前の雪中行軍の悲劇で知られる、あの八甲田山である。開催時期も、まさしく遭難事故と同じ1月下旬だ。難易度はマックス、近寄らないに越したことはない。




 それに、いくら参加者がすべて自動車メディアの人間だとはいえ、どうしたって運転スキルには個人差があり、かくいう筆者も雪道ドライブには自信がない。ただでさえリスクの大きい雪道ドライブだが、今回はメーカーとしてもかなりの覚悟をもって臨んだに違いない。




 試乗車として用意されたのはXVとインプレッサSPORT、そしてインプレッサG4だ。抽選で2台が与えられ、全行程の中間地点で乗り換える。筆者は前半がインプレッサG4、後半がXVという組み合わせになった。

酸ヶ湯温泉で「VIVA! 千人風呂」

東北地方屈指の名湯として知られる酸ヶ湯温泉に到着。このあたりは豪雪地帯としても有名で、我々が訪れた一週間後には3.5mもの降雪に見舞われたそうだ。

 まずはインプレッサG4で青森市内をスタートし、国道103号線を南下する。市内にも路肩に雪が積もっていたが、さすがは青森、ちょっと郊外に出ただけでみるみる雪が深くなっていき、あっという間に完全なスノーコンディションとなってしまった。江戸育ちなので雪路面に突入した瞬間こそ緊張感を覚えたが、試乗車が履いていたブリヂストン・ブリザックVRX2のおかげもあって、すぐにグリップ力を感じられるようになり、安心して歩を進めることができるようになった。




 最初のチェックポイントである酸ヶ湯温泉に着く頃には見事な雪景色となっていて、あたりは一面真っ白だ。ここは「ビバ! 千人風呂」という大きな混浴温泉が有名で、その名称から、江戸時代あたりには千人の───つまり大勢の男と女が入り乱れて入浴を楽しんでいた、そんな浮世絵みたいな光景を頭に思い浮かべた。まぁ、こんな昔ながらの風情には似合わない「ビバ!」なんて名前には少々引っかかりを覚えてはいたが。




 そんなこんなでゆったりと温まり、まさしくVIVAな気分で温泉を後にする。玄関付近にスバル広報のK氏が待っていて「温泉、いかがでした?」と聞いてくる。「そりゃあもう最高でしたよ、ビバ! 千人風呂」と筆者。




 するとK氏、呆れ顔で「だからビバじゃないから、『ヒバ』だから」




 あ、本当だ。よく見るとヒバ千人風呂って書いてある。それにヒバの後にビックリマークもついていない。ヒバとは檜の別名だそうで、ようは檜風呂ってこと。でも、カタカナで書かれたらビバだと思うじゃない? しかも千人風呂なんて、なんかVIVAな感じがするじゃないの。




 まぁしかし、湯気の立ちこめた巨大な総檜風呂は、それはそれは雰囲気最高で、それはそれはVIVAな温泉でありました。 

いよいよ厳寒の八甲田山へ

左右の雪壁の高さに注目。優に2.5mはありそうだ。こうした状況でもドライバーは過度な緊張を強いられない。(PHOTO:SUBARU)

 酸ヶ湯温泉を後にして国道103号線を北へ少し戻り、県道40号線を東へ右折し、いよいよ八甲田山を目指す。路面状況は写真の通りで、左右に2〜3mほどの雪壁が立ちはだかる。まさに豪雪地帯である。


 


 ほどなくして左手に雪中行軍遭難者の銅像がある……はずの場所に着いたものの、銅像までの道は冬季閉鎖中とのこと。だんだんと「とんでもないところにやってきてしまったんだ」という思いが強まってくる。




 インプレッサG4、インプレッサSPORT、XVはいずれもアクティブトルクスプリットAWDを採用していて、フロント60:リヤ40のトルク配分を基本としてロックまで可変する電子制御式だ。




 だが、それ以前にSGP(スバルグローバルプラットフォーム)のデキがすばらしく、とくに外乱に対して強さを発揮し、その結果としてメカニカルグリップがとにかく高い。誤解を恐れずに言えば、仮にインプレッサG4が二輪駆動だったとしても、かなりの安定した雪道走破性を発揮するのではないか。

AWDのほうが制動距離が短い?

なんですかこの氷柱は! おそらく4mはありそうだ。筆者が人生で見たなかで一番でかい氷柱だ。

 とはいえやはりこういう極限状態におけるAWDの威力は絶大だ。発進時の優位性はいうまでもなく、登り坂でのゼロスタートでも気を遣うことはほとんどない。そしてアクセルオフ時には4輪すべてにエンジンブレーキが掛かるのことも安定性に寄与する。これは下り坂を滑走する自転車と、エンジンブレーキが掛かっているモーターサイクルの安定感が比べものにならないことからもわかる。1輪が駆動しているかいないかだけでもあれだけの違いがあるのだから、いわんや4輪をや。




 そして恥ずかしながら筆者は知らなかったのだが、ブレーキング時にもAWDには優位点があるのをご存知だろうか? 一般論として、制動距離を決めるのは「タイヤのグリップ」と「車両の質量」と「ブレーキそのものの性能」であって、AWDだからといって短く止まれるわけではない……はず。だが、実はABS作動時にはそうとも言い切れないのだ。




 たいていのABS装着車は、ロックを防ぐためにブレーキをリリースした瞬間、すぐにまたディスクを掴めるようにホイールを増速させているのだという。つまり増速することでブレーキを効かせられる時間の割合が高まるわけで、これは2WD車でも行われていることなのだが、AWDであればそれを4輪で行うことができる。結果的に、僅かではあるもののAWD車のほうがABS作動時の制動距離が短くなるのだ。




 


 

後半はXVに乗り換え。いつものクセが出て、ついついコースを外れて酷道険道に足を踏み入れてしまった。

意外と「アクセルで曲がる」も許容する

途中からペースを上げ、なんとか十和田湖に到着。その美しさと静けさが、逆にある種の不気味さを醸し出している。

 県道40号線から国道394号線へ入ると、いよいよ八甲田山に最接近するセクションとなる。右手に八甲田山が拝めると思っていたが、雪の壁でなんにも見えない。




 ふと時計を見ると、第二のチェックポイントである十和田湖畔の昼食会場への集合時刻に間に合いそうもないことに気がついた。酸ヶ湯温泉でのんびりしすぎたのか。そこからは一転、ペースを上げて先を急ぐ。




 それまで慎重に、雪の感触を確かめながら一歩一歩踏みしめるように走っていたのはなんだったのか? もう、ブリザックVRX2が雪を掴むこと掴むこと! そして安定志向だと思っていたインプレッサG4の前後トルク配分とESCの設定が、アクセル開度によっては意外と僅かなオーバーステアも許容することを知ってつい口元が緩む。




 そんなこんなで、なんだかよくわからないうちに八甲田山越えを果たし、とわだこ賑山亭に到着する。史上最悪の山岳遭難事故から一世紀とちょっと。お気に入りの音楽をBluetoothで飛ばし、鼻歌交じりに越えられるようになるとは……なんだか申し訳ないような気持ちになってくる。先人の労苦に思いを馳せ、技術の進歩に感謝である。

真に使える悪路走破性とは?

ご覧のようにクルマ一台分しかないような狭隘路でも、四輪の位置が掴みやすいから不安は最小限だ。

 昼食を終え、XV2.0i-L EyeSightに乗り換える。パワートレインもAWD機構も前半のインプレッサG4と同様だ。




 前半は途中から時間が足りないことに気づいてやむを得ず爆走したが、後半は余裕ができたこともあり、いつものクセでメインルートから外れ、酷道険道へと足を踏み入れてみた。写真のようにすれ違いもままならないような細い道で、しかも交通量が少ないために路面はフカフカしている。




 こういう環境で重要なのは、悪路走破性ももちろんだが、ドライバーが状況をしっかりと把握できて正確な操作ができるかどうかである。インプレッサG4やXVは、その点において極めて都合がいい。ボディサイズにも、ドライバーの視点にも、操作方法にも、そしてコクピット全体に漂う空気すらにも、とくに特殊な要素は見当たらない。




 悪路走破性だけであれば、レンジローバーやジープ・ラングラーやトヨタ・ランドクルーザーといった本格クロカン四駆が図抜けているだろう。だが考えてもみてほしい。オフロード愛好家でもないフツーのドライバーがいきなりディフェンダーとかを与えられて、ズンズン雪道を突き進められるだろうか? サイズから何からすべてがスペシャルすぎて、とくにこうした狭隘な酷道険道では、卓越した性能を発揮する前に精神的に参ってしまうはずだ。




 その点、XVであれば特別なスキルや知識や経験など必要がない。雪道を走る上での最低限の心がけがあればたいていは大丈夫だ。結局、しばらく進むといきなり除雪区間が終わって行き止まりとなり、Uターンを強いられたが、四つのタイヤの位置が掴みやすいから難なく向きを変えることもできた。




 高い悪路走破性も、ドライバーが自信をもって引き出せなければ意味がない。筆者も含めた多くの「フツーのドライバー」にとって、XVは真に使える悪路走破性を備えたクルマと言えるだろう。


 

難関ルートをこともなげに走破

小坂鉄道レールパークには、4両のスバル製の軌道車が展示されている。写真のラッセルカーもそのひとつだ。

 国道103号線から県道2号線「樹海ライン」に入り、ズンズンと山を下っていく。標高が下がるに伴って路面の雪も減っていき、ところどころアスファルトが顔を出すようになる。




 片輪が凍結路、片輪がドライ路といったシーンでのESCの制御も秀逸で、突如アイスパッチが現れてもうろたえる必要はない。ただしタイヤの限界を超えたらどうにもならないので、速度を控え目に抑えることは当然だ。




 小坂鉄道レールパークでスバル製の鉄道を見学し、小坂インターチェンジから東北自動車道にのる。安代インターチェンジで一般道に降り、市街地を通り抜けてゴールの安比高原に到着した。厳しいルートかと思われたが、ほかの参加者も含めて試乗会全体を通じ、とくにトラブルやアクシデントもなかったようだ。




 長い歴史の中でAWD技術を磨き続け、八甲田山をこともなげに走破する雪上性能を備えながら、市街地や高速道路では、そんな猛々しい一面をおくびにも出さない。それを欧州勢と比べて極めてリーズナブルな価格で提供する。




 本州随一の豪雪地帯を走り抜け、スバルの底力と本気度、そして「真に使える悪路走破性」を見せつけられたのだった。


 




 

(PHOTO:SUBARU)

(PHOTO:SUBARU)
(PHOTO:SUBARU)


(PHOTO:SUBARU)
(PHOTO:SUBARU)


●スバルXV2.0i-L EyeSight


全長×全幅×全高:4465×1800×1550mm ホイールベース:2670mm 車両重量:1420kg エンジン:水平対向4気筒DOHC 排気量:1995cc 最高出力:113kW(154ps)/6000rpm 最大トルク:196Nm/4000rpm トランスミッション:CVT フロントサスペンション:ストラット リヤサスペンション:ダブルウイッシュボーン タイヤサイズ:225/60R17 駆動方式:F・AWD 価格:248万4000円
情報提供元: MotorFan
記事名:「 スバル・インプレッサとXVで真冬の八甲田山を越えてみた!【雪上試乗記】