季節は初夏から仲夏へ。いよいよ雨の季節が近づきます。「芒種」とは禾(のぎ)の種、穂先に飛び出すツンツンとした硬い突起を持つ穀類、米や麦の種こと。先の候で「麦秋至(むぎのときいたる)」に入り麦は収穫の時を迎えましたが、米は種を蒔く時季です。現実にはすでに田植えが始まっています。整然と並んだ早苗田に揺れるのはまだ頼りなげな苗ですが、たっぷりの水と豊かな陽の光を浴びて成長が期待されるホープです。毎日あたりまえにいただく米の始まりを、心あらたに歳時記の「芒種」から感じていきましょう。


「芒種」の初候は「蟷螂生(かまきりしょうず)」続々とカマキリの子が生まれます

カマキリは獲物を狙う姿が拝んでいるように見えることから、拝み虫ともいわれています。鎌のような前足は「蟷螂の斧」ともいわれるように斧にもたとえられ、逞しさと素早さで獲物を狙っていきます。

今この時期に生まれたカマキリたちが活躍するのは、田圃の稲が害虫に狙われるようになる夏から秋にかけてでしょう。カマキリは動くものなら何でも捕らえて食べてしまうという肉食性の強い虫です。緑の身体を青田に溶けこませて静かに獲物を待つ姿はまさしく忍びの者。近づく獲物との距離を測りその時をじっと待ちます。しかし捕獲の瞬間は目にもとまらぬ速さで、しっかりと斧のごとき前足で自分の身体に絡め取っています。映像でもその瞬間を目で捉えるのは難しいものでした。

カマキリの才能を生かした害虫駆除をカマキリ農法というそうです。農薬を使わないで害虫駆除を実現するこの農法ですが、害虫だけでなく益虫も食べてしまうカマキリをどのくらい使うかが大切なポイントになるということです。

カマキリの他にも田圃にはメダカやアメンボなどの多くの生き物が生息します。低農薬を実現して、夏になれば蛍が飛び、光を発するような里の風景を甦らせている地域もあると聞きます。自然との共存はみんなの知恵と工夫を生かしてこそと感じます。


雨にも太陽の光にも鮮やかな色を発する紫陽花が見ごろを迎えます

雨がにあう花といえばこの時期、くす玉のようにふんわりと開く紫陽花があげられましょう。花のように見えるのは実は萼片、ということはすっかり知られるようになりました。みんなが知るところとなったのは他にも紫陽花の色の秘密でしょうか。土壌が酸性なら青、アルカリ性なら赤になるといわれていますが、実際はもっと複雑な要素が絡み合っているようです。だからこそどんな色の花をつけるのか、白から薄い青、淡い紅、濃い紅そして紫と私たちの楽しみも七変化なのです。このカラフルな花が次第に強くなっていく陽差しを浴びると、またいちだんと輝きを増していきます。住宅街を歩いていて思わぬところでたわわに開く紫陽花に出会ったら、しばし立ち止まりゆっくりと眺めさせていただきましょう。もしかしたら奇蹟の色合いかもしれません。

一方で花の色が変わることから紫陽花の花言葉が「心変わり」や「移り気」となってしまっているのはちょっと寂しい気がしませんか。自然の変化にそって変わっていく大地の成分を、敏感に反映して花の色にしている紫陽花の個性は素晴らしいと思います。

欧米にとってはもっとも良い季節といわれる6月の花嫁、ジューンブライドは日本でも定着していますが、紫陽花をウェディングブーケにといってお叱りを受けることはまだあるのでしょうか。先日テレビをみていたらパリの花屋で真っ白な紫陽花のウェディングブーケを持った花嫁さんが映っていました。可憐でいきいきとした若い女性の手元で美しさを放っている紫陽花はとってもポジティブに見えました。視点を少し変えていくと見えてくるものは多彩になるって嬉しいことですね。


「芒種」の末候は「梅子黄(うめのみきばむ)」青梅が熟し始めます

真っ青な青梅はまだ熟す前。硬くてほんの微量ですが有毒な成分を含むそうです。その有毒成分を消すためにお酒に漬けたり塩漬けに加工して利用してきました。梅干しや梅酒を毎年作っておられる方も多いことでしょう。

家庭で梅の加工をすることを「梅仕事」といったりします。山盛りの梅を前に自分に気合いを入れて取り組むのは、ひとつひとつの梅をていねいに処理してきれいな梅干しや梅酒を作りたいからです。

「梅漬ける甲斐あることをするやうに」細見綾子

「青梅の地鳴りのごとく洗はるる」濱田萬里子

「梅漬けて玲瓏たりしきのふけふ」大石悦子

どの句にも「梅仕事」の大変さを誇りとしているおおらかな女性らしさに溢れています。梅干しでしたら2~3週間で上がってきた梅酢から取り出し、梅雨の晴れ間を利用して梅を干さなければなりません。また赤紫蘇を用意しておかなければ紫蘇の香りを楽しむ梅干しとなりません。できあがりまでにはまだまだたくさんの手間暇がかかります。その第一歩がこの「梅仕事」。おにぎりにお弁当に、ごはんの仕上げにと梅干しは食卓の必需品です。家庭の手づくりがあればこんなに嬉しいことはありませんね。

梅雨に入り雨が降り始めるとアッという間に梅は黄色く熟していきます。熟した梅はそのまま食べても美味しいのですが、これはもうジャムにしてしまいましょうか。

さあ、うかうかしていると6月もどんどん過ぎていってしまいます。季節と一緒に心と身体を進めてまいりましょう。夏も間近です。

情報提供元: tenki.jpサプリ
記事名:「 6月「水無月」となりました。実りに向けて歳時記は「芒種」と記しています