専用面積9㎡台のミニマルなワンルーム“QUQURI”のトップショット。2畳程度のロフトが付くので、有効な居住スペースは表示面積より広い(写真提供:SPILYTUS)


 



「都心で、極小の部屋がひとり暮らしの若者にウケている。その理由をさぐれ」――編集部からの指令を受け、調査を開始した。人ひとりが暮らせる最小限の広さはどのくらいか。



 



「極小」というのは10㎡前後に満たない広さということらしい。3.3㎡=1坪=タタミ2畳大とすると、10㎡は6畳くらいだ。「6畳なら、さほど狭くない」と思うかもしれないが、玄関やバストイレ・キッチンなどの水回りも全部入って、個室の中で生活が完結できる面積だという。有効な居住スペースは3~4畳に過ぎない。



 



「三畳一間(ひとま)の小さな下宿♪」といえば、往年のフォークの名曲「神田川」の世界だ。そんな1970年代に“先祖返り”しているのか。いや、3畳の下宿は、風呂無し・トイレ共同・和室のスタイルで、水回りは部屋の中にない。今どき人気の「シェアハウス」なら個室は3畳くらいだが、これもリビングや水回りが共用なので除外される。



 



 



■「極小」の部屋は本当にウケているのか?



 



10㎡以下で水回りが個室に揃った部屋なんて本当にあるのか。ワンルーム・マンションが登場した1980年代は13~15㎡のタイプが主流だったが、その後は徐々に広くなり、最近の平均面積は20㎡前後になっている。その半分しかない部屋がウケているとは、にわかに信じがたい。そこで、大家さん業界紙のU編集長にヒアリングしてみた。



 




「建物も設備も古くて、空室期間が長引いていたワンルーム・アパートの例は聞いたことがあるよ。元々20㎡だったのを10㎡ずつ2つに割って、トイレとシャワールームを別に付けた。元が8万円だった家賃を1室6万円で募集したら、2室とも、外国人留学生の入居がすぐに決まった。彼らは、学校やアルバイト先への利便性を優先して、部屋の狭さや建物の古さは気にしないからね」




 



なるほど、築年の古い物件の空室対策として有効というわけだ。とはいえ、リフォーム費用がかさみ資金に余裕のある大家しか対応できないため、数は少ないという。それに外国人留学生向けとなると、ニッチな分野かもしれない。日本人の若者は、やっぱり新しくて広い部屋を求めるのではないか。



 



 



■稼働率99%超を誇るミニマルルーム!?



 



もっと幅広い層にウケている極小な部屋はないのか探るうちに、1室10㎡以下のコンパクトなアパートを専門に建築販売する会社があることが判明した。この4~5年で70棟を超える物件を供給しているSPILYTUSだ。東京23区内の知名度の高い駅から徒歩10分以内という立地へのこだわりと、同じエリアの20㎡前後のワンルームより2~3万円低い家賃設定が、99%を超える高い稼働率につながっている。



 



築古リフォーム物件との違いは、オートロックなどのセキュリティ設備やインターネット環境が整い、快適な暮らしができる最小限のスペースという点だ。入居者は20代から30代前半まで、年収300万前後の若者層だという。日本人だけでなく外国人の社会人もいる。



 



このプランを作ったキッカケは、20代前半に同社を創業した仲摩恵佑社長の体験にある。



 




「もともと九州の出身で、東京に出て来る前は、自分でも最低25㎡は欲しい、広いほど良いと思っていました。新宿にオフィスを構えた時、まだ収入も低かったので、広さを確保するのに最初は片道1時間かかるところに部屋を借りてました。でも、仕事が忙しくて終電で帰って早朝に出社する生活が続いて、ただ寝に帰るだけのために往復2時間かけるのは無駄だと思うようになったわけです」




 



かといって会社の近くで同じ広さの部屋を探すと家賃は倍近い。家賃を安く抑えると、風呂なしでボロボロのアパートしかない。「狭くても、便利な都心に家賃の低いアパートを作ればニーズがある」と確信したという。



 



 



■若い世代が「広さ」よりも大事にする条件



 



同じ頃、ユーザー意識の変化もキャッチした。不動産業界団体が「ひとり暮らしの部屋探しの希望条件」を調査したデータでは、2011年までは「部屋の間取り・広さ」のほうが「通勤通学の時間」より上位だったが、翌年以降にそのランクが逆転した。東日本大震災で帰宅難民が問題になったことが影響しているかもしれない。人手不足で長時間労働に追われながら、実質賃金が上がらない現状も背景にあるだろう。



             




「最近の若い世代の価値観はもっと変化していますね。モノを所有する満足感より、夢の実現に向けて、自分自身を高める経験や体験に時間を使いたいという意識が強い。それが部屋の広さより通勤時間を短くしたい、家賃を抑えたいというニーズに表れていると思います」(仲摩社長)




 



会社の近くに住み、徒歩や自転車で通勤し、空いた時間や浮いた家賃を活かして、フィットネスや各種のスクールに通い、「自分磨き」に充てるというわけだ。断捨離でモノを極力持たないミニマリストたちのライフスタイルにもつながる。



 




「都心立地で、インターネット環境とセキュリティが整ったコンパクトな個室は、ホテルやミニオフィスの機能を満たしているので、将来のニーズの変化にも対応できます」(仲摩社長)




 



シェアハウスやコワーキングが脚光を浴びる一方で、専用個室へのニーズも普遍だ。部屋自体をミニマルに抑えた“ミニマルーム”とでも呼べるジャンルが、いま新たに生まれつつあるのかもしれない。


情報提供元: citrus
記事名:「 稼働率は99%以上?都心のミニマルなワンルーム、“ミニマルーム”がウケている理由