今回はトモさんのブログ『東京でとって食べる生活』からご寄稿いただきました。


マムシグサを毒抜きしてスイートマムシグサを作った話(東京でとって食べる生活)



マムシグサが家にやってきました。



マムシグサとはテンナンショウ属の毒草で、飢饉のとき非常用の食料とされてきた。毒抜きをすれば食べることができる。


そう知ったのは先日参加した櫛田川野食会。



主催自らの手ずからバーベキュー台の中で焼かれて食用に供されていました。


 

でもって、生マムシグサ(言いづらい)が家にやってきたののも同じく先日。


終わり際の余り物配布回で主催の


「ヘイ!マムシグサ!」


の声がいい声すぎて、つい手をあげ貰ってしまったわけですね。



もらったのは会場で展示用として飾られていた特大のマムシグサ。


 

で、どないしよう…この毒物?


マムシグサとは


テンナンショウ属の一種。


もしくはテンナンショウ属の総称としても使われます。


テンナンショウは偽茎と呼ばれる基部の先端に食中植物のような花を咲かせるのが特徴的な植物。日本の野山にごくごく一般的に分布します。



春に東京の山地で撮影したテンナンショウの一種。どこを見ても視界に入ってくるほどたくさん生えていました。


 

テンナンショウ属は仲間が多く、日本だけでも100を超える種類がいるのだそう。


冒頭で頂いた個体も正確には別種のテンナンショウの一種と考えられます。ただ今回はあくまでテンナンショウ属の総称である”マムシグサ”として呼ばせてください。


※数があまりに多く、テンナンショウに特化した図鑑があるほどなのです。


さて、そんなテンナンショウ属に共通すること。


有毒成分のシュウ酸カルシウム・ムスカリン・コニインを含むこと。


それでいて球根が大きく肥大化しでんぷん質に富むこと。



そんな毒物と食物の中間くらいいる植物なのですが、昔から食べられていたというのです。


積極的に食べてきたわけではなく救荒食料として食べるのが一般的とのこと。救荒植物というのは、wikipediaからの引用になりますが「飢饉、戦争その他で食料が不足した時に、それをしのぐために間に合わせに食料として利用される植物である。」とされております。


普段は食べないワケアリの非常食なわけですね。



会場で頂いたマムシグサの球根。ずっしり500はあるでしょう。


 

また、アイヌでも食用にしたとの文献があり”球根を焚き火で焼いて、中央の黄色い箇所は毒矢の材料に、外側は食料にした。”とかなんとか。


「なんでそんな生きる死ぬかみたいな二極端なもの食べてたの!?」


「その境目どこなの?」


中間を食べたらどうなるの?」


などなど、突っ込みたいたいところは山ほどありますが、昔から少なからず食べられてたのは事実のようです。


ちなみにこの毒成分がどれほどかと言いますと、wikipediaの引用になりますが、



・特に球根の毒性が強く、その汁に触れると炎症を起こす。

・誤って食すと口中からのどまでに激痛がはしり、唾を飲み下すことすらできないほどとなる。

・激しい下痢や嘔吐、心臓麻痺といった症状が現れ、重篤な場合死亡する。


決して食べてはいけないものなのでは…?


ちなみに、この症状は主にシュウ酸カルシウムの針状結晶の刺激によるもの。



いただいたときに茎から根茎を切り離したのですが、その際に汁が触れた箇所はチクチクと痒みがありました。味見はしてません。死にたくないので。


 

シュウ酸カルシウムという成分は結晶(塩が宝石みたいになるアレですね)が鋭い針のような形状をしていて、それが皮膚に突き刺さるため炎症を起こしたりチクチクと痒みがでたりするのだそうです。


この針状結晶は身近なものではサトイモなどにも含まれています。たしかにアレも素手で触るとかぶれたりチクチクしたりしますよね。


ちなみにマムシグサも同じくサトイモ科だったりします。



こちらは富士山で見かけたマムシグサの仲間一種。この緑色のトウモロコシのような実も有毒。誤って口にした子供が病院に運ばれたなんて事例もあるんだとか。


 

また、尿路結石などの原因部物質でもあり、どうにかして飲み込んだとしても更に体内で二次被害の可能性があるそう。


ついでに細胞膜を破壊する性質があるとされるサポニンと、


中枢神経を麻痺させるコニインも含まれています。


本当にこんなもの食べられるんですか!?


マムシグサを焼いてみる


さて自宅にやってきたマムシグサ。


ものはなるべく有効活用する主義です。



頂いた以上は捨てるのは勿体ない。


せっかくなのでいつか来るかもしれない食糧危機に備えて、食べられるかどうかのテストやってみようではないですか。


受け取った際に伺った話によると長時間加熱すると食べることができるそうです。


例として、提供された会場では炭火の中に投入され3~4時間焼かれていました。



こちらが会場で頂いたマムシグサ、ほんのカケラですが。


 

その場でひとかけら口にしたのですが、シュウ酸カルシウムの刺激はなく、イモのような感覚で食べることができました。


というわけで、私も同じやりかたでチャレンジしてみることにします。



ずっしりとしたマムシグサの球根。これの洗浄時にスタッフは手を痒くさせながらやったのだそうです。それを聞いてしまうとやはり無駄にはできません。


 

うちに焚き火はないのでオーブンを使うことにしましょう。


なるべく高温がいいはず。オーブンの全力である250度で3時間加熱してみることに。


正確には90分までしか設定できないため、90分焼いて→オーブンを休ませて→また90分焼くという流れ。4時間はかかりました。


 

これほどの長時間オーブンを動かした事がなく、壊れないかどうか心配…信じてジッと待つことしばし…


チーン♪とできあがったのがこちら、



見た目は変わりませんが、水分がとんで一回り小さくなっています。オーブンからは嫌な香りはしません。



銀紙を剥がしたところ。炭化はしていませんでした。タマネギの皮のような茶色になっているのが印象的、成分が蒸気と一緒に移動したりしたのかな…?



取り出してカットしてみました。断面はほんのり黄色でホクホクとしたイモの質感。普通にうまそうなのでは?ただよく見ると茎のあたりだけ色が違う、アイヌが食べないあのぶぶん…でしょうか?



イイ香り…香りだけならフツーの焼き芋。


 

試しに少量食べてみましょう、怖いのでまずは舐めてみるところから。


ペロッ、


うーん…無味


でも少なくともシュウ酸カルシウムの刺激はありません。


いけそうなので、ひとかけら…


ぱくっ。


フムフム…


あああ~~これはイモだ。


甘くもなく、ましてや辛くもなく、イモです。

ほのかなイモの香りと炭水化物の旨味、違和感なく食べられます。



知らずに「ジャガイモだよ。」と言われたら気づかずに食べるでしょう。バターでもかけたらモリモリ食べられそうな味です。


 

刺激を感じる事無く食べられる事はわかりましたが、ここで疑問がひとつ。


毒成分はどうなったのか?


気になって調べてみると、シュウ酸カルシウムは「熱分解され炭酸カルシウムになる」とされているのですが、具体的に何度かが明確に書いていないのです。


科学分野の資料はあるものの専門用語が多くワカラン。やむなく科学に詳しい友人にヘルプ!


ぶじ教えて貰えました。


「答えだけいうなら500度。」


とのこと。


500度というととうていイモの内部で達成できる温度ではありません。

分解される前にイモが消し炭になるでしょう。


ではどうして刺激なく食べることができるのか?


恐らくなのですが、シュウ酸カルシウムの針状結晶が長時間の加熱で変形、針状の突起が失われ、結果として刺激がなくなったのではないか?と考えられます。


つまりシュウ酸カルシウム自体は残っており。尿路結石などの原因にはなりえるということ。


ついでに言いますと先述のコニインサポニンは熱分解しません。まだ残っているでしょう。


毒、あるじゃん!!



このまま残りを食べきってしまうと、最悪病院送りになってしまう可能性もじゅうぶんにありえます。


 

私「お医者さん。マムシグサにやられたんです…助けてください…。」


医者「マムシか!?どこ噛まれたんか!」


私「違うんです…マムシグサが…。」


みたいな不毛な会話はしたくない、残りを処理するために対策を考えなければ。


 

マムシグサを徹底的に毒抜きして食べてみる


さて、焼くことで針状結晶の刺激はなんとかなりましたが、毒成分そのものはきっと残っています。そのまま食べるわけにはいかない。


毒抜きといえば…洗浄!


残りは水で洗浄したうえで料理して食べてみることにしましょう。


イモを洗っても美味しく食べられそうな料理…ということでスイートポテト風に、いわばスイートマムシグサを作ってみることにしました。


不安しかないのですがやるだけやってみましょう。



まずは毒成分が溜まっていそうな外皮を取り外します。



続いてアイヌが毒矢の材料にするという中央ぶぶんを除去。


この部分は他と質感が違いクリームのようなペースト状になっていました。メチャクチャ怖いので念入りに取り除いておきます。



残った可食部??をポテトマッシャーで潰します。



ぐちゃぐっちゃと形がなくなるまで潰していきます。



形を崩しやすくするため、水を投入。このあと洗うのでいっぱい入れてもオーケー。



一通り潰したら、これを食品濾し袋に入れて水洗いします。



中にマムシグサと水を流し込み、じゃぶじゃぶと洗っていきます。



デンプンが抜けるなど知ったことか!!


と、何度も水を入れては絞り出してを繰り返すことで、最初は黄色く濁っていた水がだんだん透き通ってきました。



10回くらい洗ったトコロで完了としましょう。


サポニンは水溶性なのでこの対応で間違いなく抜けたはず。コニインはやや溶けにく難溶性ですが、大量の水で処理をしたので減少してはいるでしょう。きっと。



洗い上げたものがこちら。一度蒸したおかげかデンプンはそれほど抜けていないように見えます。


ちなみに味見をしたところ無味、完全なる虚無の味です。



食感がゴワつくのが気になったので、調理に入る前に裏ごし



抜けた旨味を補うためにたっぷりのバター生クリームを足します。



レンジで軽く温めたバターをどろっと注いでいきます。


美味しそうな香りがしてきました。



飛んでしまった風味を補うためバニラエッセンスを投入。



コクがほしいのでラムエッセンス。


またバターと同量のたっぷりの砂糖も追加。



耐熱皿に敷き詰めオーブンで焼きます。


250度で20分。



焼き上がりました、スイートマムシグサ完成です。



ヤバい名前とは裏腹に、いい感じの焼き色がついて大変にうまそう。



バニラとバターの甘美な香りとほのかなイモのかおり。良いのでは?


 

では意(胃)を決して。


いただきます!!


ぱくり…


オォ、当然ですがシュウ酸カルシウムの刺激はありません。

普通に美味しい。


元々イモっぽい味わいだったおかげもあり完全にスイートポテト。洗ったせいで薄味ですが、とはいえ洗ってすぐの虚無と比べると断然うまい。


洗ったことで焼いただけよりもダンゼン安心して食べられます。


成功だと言えるでしょう。



かなり普通に美味しいのでパクパク食べられます。


 

なんだ普通に食べられるじゃん、のっぺりした味でコクもなにも無いけどさ~~


と食べ進んだものの、だいぶぶんが抜けた想定とはいえ、毒物が残ってる可能性はありえるんですよね??


続きは後日にしたほうが良いかな…。


もし元気だったら翌日に続きを食べてみることにします。


おやすみなさい。


まとめ


まずは報告から、


生きてます。


マムシグサは加熱することで刺激なく食べることができ、なおかつ洗うことでより安心して食べられるようになりました。味も悪くはありません。


ただし、食べられたとはいえ”安全”にとは言い切れない結果で、最後まで毒成分が残っている可能性は払拭されませんでした。


それと同時に、これまで先人が伝え食べてきた安全に食べられる野草や、栽培されている野菜たちのありがたみをしみじみと感じる事になりました。


”安心して食べられる食物”とはなんと素晴らしいことか…!


マムシグサのお陰でそれを再認識できたことに感謝を。

ありがとうマムシグサ。



形状でマムシグサを受け取ってほどよい質感にはしゃぐ筆者、このあと手が痒くなった。


 

今後もし”明日には飢えて死ぬ”ほどの状況に陥ったならば、そのときはマムシグサの食べ方について思い出してみようかと思います。


みなさんも決して無茶をしないよう、どうぞ宜しくお願いします。


 

マムシグサ

【採取時期】一年中

サトイモ科テンナンショウ属の多年草。球根から偽茎を伸ばし、その先に葉と花をつける。花は食虫植物のような通常の構造をしているが、虫をとらえるわけではなく、中には入った虫を出にくくし効率よく受粉するための仕組み。全草が有毒だがアイヌや伊豆諸島、また飢饉に陥った際などに食料として食べられるよう工夫がされてきた。球根は漢方の天南星としても利用する。



【おまけ料理レシピ】スイートマムシグサ


自粛します。

本文中に作り方がでてきますが、決してマネをしてはいけません。


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執筆: この記事はトモさんのブログ『東京でとって食べる生活』からご寄稿いただきました。


寄稿いただいた記事は2019年11月5日時点のものです。


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情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 マムシグサを毒抜きしてスイートマムシグサを作った話(東京でとって食べる生活)