現在、米国陸軍は兵士の訓練システムにARを含めたバーチャル技術を取り入れた訓練システムを開発している。


「STE」と呼ばれる訓練システムは、バーチャル技術を用いることによって従来の訓練方法に大幅なコストカットをもたらし、かつ様々な場所で手軽に使用できるなど、兵士の効率的な訓練においてメリットをもたらすものだ。


概要


バーチャル技術を取り入れた訓練


STE(Synthetic Training Enviroment)とは、米軍が現在実験を行なっている訓練方法で、これはゲーミングやAR(拡張現実)、クラウドでのデータのやりとりなどの最新技術を活用して、できるだけ実際の環境に近い状況をバーチャルに再現して、兵士の訓練に取り入れるものだ。


STEはおもに都市部での戦闘訓練に用いられ、複数の部隊による共同作戦などの複雑な状況をバーチャルでシミュレートすることができる。


実際に兵士や車両、航空機を動員する訓練は膨大なコストがかかるが、バーチャル空間で訓練を行うことによって、少ない資金で訓練を行うことが可能で、かつ実際のスケールでリアルタイムに訓練を行うことができる。


また、STEは様々な場所で取り入れることが可能で、たとえば軍の施設内や狭いビル内、もしくは遠隔地に展開している兵士など、様々な状況で使用することができるため、兵士がいる場所がどこであれ、常に一定の訓練環境を提供し続けることができる。


もちろん、実際の現場での戦闘とバーチャル空間での戦闘シミュレーションとでは、兵士にかかる負担や緊張感などにおいて大きな差が出るだろう。しかしゲームやARを用いて、実際の現場で行う情報伝達や動き方などを低コストで学ぶことができるという点において、STEにはメリットがあると言える。



ARを活用した訓練


米軍はSTEにAR技術を取り入れるテストを行なっており、米軍のResearch Laboratoryと南カリフォルニア大学との共同研究を進めている。


ARを訓練に取り入れることによって、従来よりもより実戦に近い環境で訓練を行うことができる。たとえば従来の射撃訓練時では木の標的を用いるが、これは動かず、また武器も携行していないために兵士に脅威を与えず、実戦の状況とは大きく異なるものになってしまう。


しかし、敵のテロリストや兵士のリアルなアニメーションをARによって表示すれば、より実戦に近い環境で訓練を受けることができる。


ARやバーチャル技術は軍事領域においても大きな活用方法が見出され、様々な実験が行われている。将来の戦争は、自分の位置情報や敵の位置、マップや武器の照準ポイントなどが常にARによって視界に表示されているような、まるでFPSをプレイしている時と同じ環境で行う技術が開発されている。


VR/ARを取り入れた軍事技術


AR艦砲射撃支援システム「GunnAR」



アメリカ海軍の兵器開発を担当する部署であるMR戦闘域活用ラボ( Battlespace Exploitation of Mixed Reality Lab:略してBEMR)は、ARヘルメットを活用した艦砲射撃支援システム「GunnAR」を開発し、同システムをテストした洋上軍事演習動画を公開した。


同システムの基本的な仕組みは、射撃連絡員がタブレット端末を使って入力した艦砲射撃指令の内容が、砲兵が装備しているARヘルメットに表示される、というもの。ARヘルメットには、射撃指令から算出された射撃対象に対する照準も表示される。


従来の艦砲射撃では、射撃連絡員からの指令が砲兵に無線で伝えられていた。しかしこの方法では、指令が射撃音によってかき消されることがあった。射撃指令を視覚的に伝達できる同システムは、従来の指令系統における欠点を見事に克服した。


同システムの開発には、工事現場で実用化されているARヘルメットを開発するメーカーDAQRIの商品を流用した。こうした民生品の流用によって、同システムの開発コストは大幅に削減することができたのだ。


AR機能を搭載したヘルメット



ウクライナ軍が導入を検討しているARヘルメットは、従来のヘルメットにマイクロソフトのARデバイス「HoloLens」を装着する設計となっている。


ARヘルメットを装備した兵士はHoloLensを通して戦車や車両から周囲360度の光学/サーマル情報を取得することができる。また、カメラは戦車に取り付けることで、車両内にいながら周囲の状況を把握できるようになる。


ノルウェー軍のVR活用法



ARのみならず、VRもまた軍事領域において活躍する技術だ。


ノルウェー軍は戦車兵がOculusRiftを装着することによって、車内から周囲の視界を360度把握する技術を開発した。


戦車や装甲車などの軍事車両は、装甲性を高めるために車内を鋼鉄で覆う必要があり、外界を視認できる窓は極めて小さくせざるを得ない。


現代の戦車は様々なセンサーやネットワークによって周囲の環境情報を獲得しているが、やはり視界の狭さという問題を克服することはできず、そのため幅広い視界を確保するには戦車兵がハッチを開けて頭や身を乗り出す必要があり、リスクを伴う行動だった。


しかし車両に取り付けられたカメラとヘッドセットをリンクすることで、戦車兵は車両の中にとどまったまま360度の視界を獲得することができる。


参照元:VRFocus


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情報提供元: VR Inside
記事名:「 米陸軍、ARを活用した訓練方法を開発中