毎年数多くのニューモデルを取材する自動車ジャーナリストの萩原文博さんが選んだ「最強のお買い得車」は、日産スカイライン400R、スズキ・スイフトスポーツ、プジョー SUV 2008。スイフトスポーツは、約200万円という価格が信じられないほどの性能・装備が魅力だ。
TEXT●吉田直志(YOSHIDA Naoshi)
コストパフォーマンスといっても、パフォーマンスをどう捉えるかで、そのセレクトは大きく変わってくるもの。僕の場合は、走りが愉しい(早いではない)、それなのに、安い、これに尽きる。
1台目:スバル XV(1.6Lエンジン搭載グレード)|220万円〜233万2000円
そんな観点から3位に選んだのは、スバル XVの中で、ベーシッククラスの1.6Lエンジンを搭載したモデル。そのボトムグレードならば、AWDであるのに、アイサイトコアテクノロジーを標準装備(後退時ブレーキアシストは装着不可)しているのに、なんと220万円を実現。もうちょっと装備を奢りたいと、X-MODEや後退時ブレーキアシストを加えたグレードとなれば、233万2000円。
もちろん、エンジンのクラスはボトムゆえにパンチに不足はあるし、e-BOXERのアッパークラス感に大きく届いていない面があるが、クルマとしての基本性能、質感といったクラス感はCセグそのもの。つまり、チューニングに違いはあれどフォレスターでもレヴォーグでも使われている最新スバルグローバルプラットフォームと同じであり、そこにリーズナブル感が存在するのだ。
この価格帯を訊いて、おっ、意外に安いな、あれ、でも、XVってCセグメントのモデルであって...、あれ、この価格帯、最新BセグSUVに重なっていないか? と思われた貴方は鋭い。この200万円前半という価格帯は、かつてはCセグメントSUVの価格帯だったところだが、いつしか、周囲のモデルは価格をアップし、この価格帯はBセグメントモデルのものに。XVもe-BOXERモデルで価格をアップさせていたが、Bセグメントモデルをもたないスバルなりの苦心として、1.6Lエンジン搭載モデルをこの価格帯に意図的に残したというわけだ。
もちろん、エンジンのクラスはボトムゆえにパンチに不足はあるし、e-BOXERのアッパークラス感に大きく届いていない面があるが、クルマとしての基本性能、質感といったクラス感はCセグそのもの。つまり、チューニングに違いはあれどフォレスターでも使われている最新スバルグローバルプラットフォームと同じであり、そこにリーズナブル感が存在するのだ。
2台目:ルノー・トゥインゴ S|181万5000円
2位は、ルノー・トゥインゴのMTモデルであるS。たんにRR(リヤエンジン・リヤ駆動)であるだけではなく、ルノーの快適かつスポーティという質感をとことん作り込んだシャシーが絶品のモデルだが、その中でも、異才(あえてこう表現)放っているのが、S。
3台目:ダイハツ・タフト|135万3000円〜173万2500円
1位は、「2020年『私の推しカー』ベスト3」でもトップに選んだダイハツ・タフトだ。Aセグメントモデルのロッキーにも用いられたDNGAアーキテクチャーを採用したことで、軽乗用車としてはオーバークオリティと言える質感、走行性能、そして、装備を実現。さらに、ユーザーフレンドリーを目指したスタンスも相まって、結果、コストパフォーマンスの高いモデルに仕上がっている。
走りについては、すこぶる高いボディ&シャシー剛性を特徴とするため、実は日常域で特にサスペンションのストローク不足によって、乗り心地の面で硬さを感じるところがある。しかし、高速域では、軽乗用車とは思えぬフラット感を披露し、静粛性も相まって快適性はとても高い。さらに、ワインディングでは的確なロール量&フィールを提供してくれるため、コーナーでのハンドリングに愉しさがあふれてくる。つまり、表現は大げさだが欧州車的なポテンシャルがあり、ついつい軽乗用車であることを忘れてしまうほどだ。
エンジンは、上質感まで作り上げたターボによるバランスに分があるが、軽量化やコストの観点からD-CVTが採用されなかったNAエンジンでも、中回転域からのノイジーな面が気になるが、思いのほかパワーに不足を感じないはずだ。ちなみに、フィールドやスノードライブで活躍することを想定し、2WDでもグリップサポート制御を採用していることもトピックだ。
装備面では、衝突回避支援ブレーキ機能において、夜間の自動車や歩行者まで検知できるようになった最新の先進安全技術を採用していること、さらに、メーカーオプションとしてスマホ連携ができるディスプレイオーディオと、頭上から自車を眺めているかのように表示するいわゆるパノラマビュー機能(カメラをプラス)の組み合わせをリーズナブルな価格(9インチモニタ・TVチューナー付きで12万6500円)で提供するなど、魅力は数多い。
後者については、スマホナビで十分、でも、周囲の視界をしっかりと確保したい、そんなユーザーへの新たな新提案であり、このユーザーフレンドリーなスタンスは好感が持てるし、結果、コストパフォーマンスに大きなプラスをもたらしている。もちろん、高機能ナビを求めるユーザーには、ラインナップをちゃんと用意している。ちなみに、ほかブランドでこのアイテム&機能を揃えようとしてもこの価格に迫るのは難しく、ディスプレイオーディオとカメラによる新提案は、タフトの大きな魅力となっている。
また、欧州では広く受け入れられているのに、日本ではなかなか普及しないガラスルーフを、軽乗用車としては久しぶりに採用したどころか、標準装備したこともポイント。標準化してしまうことで重量バランスを最初からしっかりと整えており、さらには大量に採用することでコストを大きく抑えているところも美点だ。
ちなみに、リアシートにリクライニング&スライド機能が付いていないが、安全性の面ではそのほうが理想であり、そこにも開発陣のこだわりを感じる。
もちろん、このタフトにも不足はたくさんある。NAエンジンはパワー不足ではないもののエンジン回転数上昇を伴うノイズによって軽乗用車に乗っていることを思い出させてしまうし、アダプティブクルーズコントロールは安全を相当に担保した設定となっているし、日常域の乗り心地に硬さが確実に存在する。
しかし、それを上回るユーザーフレンドリーな設えが多く見られ、結果として、すこぶる高いコストパフォーマンスを導き出している。個人的には、Cセグメントにおけるフォルクスワーゲン・ゴルフのように、軽自動車のひとつの指針(ベンチマーク)になる存在とまで感じさせたモデルでもある。
『プロが選ぶ最強のお買い得車』は毎日更新です!
予算に限りがある庶民にとって、車選びの際にこだわりたい要素が「コストパフォーマンス」。つまり、その車がお買い得かどうか、ということ。ただ安ければいいというわけではありません。ポイントは「値段と性能が釣り合っているか」。だから、価格が安い軽自動車だからコスパがいいとは限りませんし、1000万円以上のスーパーカーだってその価格に見合う機能や魅力があればお買い得と言えます。
というわけで、自動車評論家・業界関係者といった「クルマのプロ」たちに、コストパフォーマンスが高い「お買い得」な新車を3台ずつ、毎日選んでいただきます。明日の更新もお楽しみに。