マツダ車ラインナップのど真ん中に位置するCセグメント5ドアハッチバック「マツダ3ファストバック」には4種類ものエンジンが設定されている。その中で最も小排気量かつロースペックなP5-VPS型1.5L直4ガソリンエンジンを搭載する「15Sツーリング」の6速AT・FF車に、ワインディングと市街地を中心として総計約300km試乗した。



REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu) PHOTO●遠藤正賢、マツダ

マツダCX-30

 新開発のプラットフォームを採用したマツダ新世代商品の第一弾として、日本では2019年5月に発売されたアクセラ改め新型四代目マツダ3。だが、同年9月に発売されたCX-30の存在が、マツダ3発売の時点ですでに明らかにされていたこともあり、その存在意義は誕生当初から非常に危ういものになっている。



 前述の通りパワートレインは4種類だが、そのうち2.0LガソリンNA、1.8Lディーゼル、そして2.0LスカイアクティブXはCX-30にも設定されている。しかも居住性と使い勝手では完敗、車重と全高の差が少なく運動性能でも肉薄されているとあっては、デザインと価格以外の点でマツダ3を敢えて選ぶ理由を見出しにくいのが実情だろう。

マツダ3ファストバック15Sツーリングのエンジンルーム

 だが、CX-30にはない1.5Lガソリン車は、話が別だ。小排気量モデルということで、最もベーシックな「15S」はFF車が221万1389円、AWD車が245万7889円、装備が充実した「15Sツーリング」でもFF車が231万5989円、AWD車が255万2489円と、価格が比較的低く抑えられているうえ、他のエンジンを搭載する上級グレードと比べても装備差が少ない。そして、1.5Lエンジンならではの走り味というのも期待できる。



 今回テストした「15Sツーリング」は1.5L車の装備充実モデルだが、その一つ上のグレードにあたる「20Sプロアクティブ」(FF車:251万5741円、AWD車:275万2241円)と比較して、後者にあり前者にないものは以下の通り。

クルージング&トラフィックサポート(=渋滞時加減速操舵アシスト)*

前側方接近車両検知(FCTA)

アダプティブ・LED・ヘッドライト

前後シグネチャーLEDランプ

デイタイム・ランニング・ライト(DRL)

自動防眩ルームミラー

リバース連動ドアミラー機能*

ドアミラー自動防眩機能(運転席側)

ステアリングヒーター*

ステアリングシフトスイッチ

フロントカップホルダーリッド

運転席10Wayパワーシート&ドライビングポジションメモリー機能*

運転席&助手席シートヒーター*

車載通信機



*は「20Sプロアクティブ」にオプション設定

 なお、「15Sツーリング」と「15S」の違いは以下の通りとなっている。

・スーパーUVカットガラス(フロントドア)+IRカットガラス(フロントガラス/フロントドア)がオプション

・加飾パネルがプラチナサテン→シルバーに

・エアコンがフルオート式→マニュアル式に

・CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー(フルセグ)がオプションに

・タイヤサイズが215/45R18 89W→205/60R16 92Vに

・キーレスエントリーシステムがアドバンスト(=スマートキー)→電波式に
【マツダ3ファストバック15Sツーリング】全長×全幅×全高:4460×1795×1440mm ホイールベース:2725mm トレッド前/後:1570/1580mm

 こうした価格や仕様の違いを知ってもなお、このマツダ3ファストバック15Sツーリングの内外装は、マツダがターゲットとするフォルクスワーゲンはもちろん、それ以上のプレミアムブランドと比較しても遜色ないかそれ以上に質感が高く、そして美しい。仕事柄見慣れている筆者でも、特にソウルレッドのマツダ3ファストバックを町中で見かけると、絶世の美女とすれ違った時によく似た感覚にとらわれるのだ。

美しくも各部の操作系が機能的に配置された運転席まわり

メーターはオーソドックスなデザインだが視認性にやや難あり

 そして運転席に座ってみると、すべてが非常に「しっくり来る」。シートのフィット感に加え、ステアリングやシフト、スイッチ類などの配置と操作感も、無理な姿勢、力、操作をドライバーに強いることがなく、至って自然だ。特にステアリングのリムが細い真円で、本革もしっとりしていて滑りにくいことは、諸手を挙げて絶賛したい。ただしメーターは、視力が1.0以上あり老眼や乱視もない筆者でも時折見づらい時があるため、もう少し太く大きく見やすいフォント・級数にしてほしいと思うのだが。

ブラウンの差し色が入ったシックな装いのブラックファブリックシート。サイズは大きくフィット感も申し分なし

 なお、15Sツーリングのシートは黒のファブリック生地が唯一の選択肢で、またこれがマツダ3で唯一のファブリックシートとなっているため、試乗前にカタログを確認した際は「相変わらずファブリックシートは黒だけなのか」とガッカリしていた。だが、実車を見るとブラウンの差し色がステッチや中心部の生地に入っており、写真で見るよりも数倍シックな装いだ。

後席もサイズは充分だがヘッドクリアランスが狭く、足先を前席の下に入れにくいため体育座りになりがち

 また、Cピラーが太くルーフ後半の傾斜が強い外観から想像するよりも、後席は狭くなく、また斜め後方の死角も大きくない。後席は身長176cm・座高90cmの筆者が座っても頭上には辛うじて3cmほど、膝の前には約15cmの空間が残るのだが、前席のヒップポイントが低い状態ではその下へ足先を入れにくいため脚全体を充分に伸ばせず膝裏が浮きがちになるのは玉に瑕。現実的には小柄な人向けの席ということになりそうだ。

広くはないが使い勝手に優れるラゲッジルーム。荷室長×幅×高=85~160×101.5×71cm(いずれも筆者実測)

 ラゲッジルームは、絶対的には広くも狭くもなく、後席背もたれを倒した際の傾斜はやや強い。だが、だが前後左右上下方向とも凹凸が少ないため、大きな荷物を載せる際の使い勝手は良さそうだ。

マツダ3ファストバック15Sツーリング

 実際にマツダR&Dセンターのある横浜市内を走り始めると、早くも「クルマとはかくあるべし」というマツダの主張が右足に伝わってくる。端的に言って、アクセルペダルもブレーキペダルも、重い。より正確には、しっかり強く奥まで踏み込まなければ、加速も減速も充分に得られないのだ。



 これは、単純にエンジンのトルクが細く、ブレーキの初期制動力が低いことも大きいのだが、ペダル自体も昔のドイツ車ほどではないにせよ、現代のクルマとしては強めの踏力を要求するセッティングになっている。



 踏力に対し加減速度はリニアなため、慣れてしまえばコントロールしやすいのだが、逆に慣れるまでは思うように加減速してくれず、特に減速側では少なからず恐怖感を覚えてしまう。それ以前に、常に強めの踏力を要求されるのは、長距離長時間乗るほど疲労感が増すので考え物だ。

先代アクセラ(左)と新型マツダ3(右)のフロントドアパネル。新型では穴そのものが少なく小さく、さらにインナーパネルとドアトリムで二重壁構造を構築している

 また、マツダ3では静粛性の向上、特に良路と荒れた路面とを行き来した際のロードノイズの変化を抑える取り組みに注力しているが、残念ながらマツダが主張するほど変化は小さくない。



 良路での静粛性は高く、特に低速域のアイドリング付近ではエンジンが停止しているかのような錯覚にとらわれるほどだが(実際に停止しアイドリングストップすると振動もノイズもゼロになるので違いは分かるが)、良路から荒れた路面へ移るとロードノイズが急激に大きくなるため、かえってその落差が耳に付いた。

マツダ3のスピーカー配置図

 しかもこの時は、フラットな音質かつ音解像度の高い標準オーディオ「マツダハーモニックアコースティックス」のサウンドがロードノイズにかき消され、低音が痩せた貧弱な音に聞こえがちなのが痛い所。オーディオ側のノイズキャンセリングに加え、車両側もさらなるロードノイズの低減が必要と言えそうだ。



 なお、オプションのBoseサウンドシステムは逆に低音が強すぎ、ロードノイズが大きい状況でも耳障りな傾向にあるため、率直に言ってオススメできない。

サスペンションは前後とも新開発。フロントはストラット式、リヤはトーションビーム式

 最大の懸念材料だった乗り心地は、テスト車両(車台番号BP5P-106716、初度登録2019年11月)が生産されるまでの間にランニングチェンジが行われているのか、それともテスト車両の走行距離が4600km超で当たりがついていたのか定かではないが、少なからず改善されていた。



 以前試乗した2.0Lガソリン車やSKYACTIV-X搭載車は、わずかな路面の凹凸にも敏感にリヤが跳ねていたが、今回テストした車両は、大きな凹凸では低速域で左右に揺すられやすく高速域で突き上げが強いものの、細かな凹凸は綺麗にいなせるようになっている。

高張力鋼板を多用し軽量化しつつ多方向の環状構造によって剛性アップと伝達遅れの低減を両立したマツダ3のボディ骨格
215/45R18 89Wのトーヨー・プロクセスR51Aを装着

 そして、箱根のワインディングへ持ち込むと、マツダ3本来のリニアなハンドリングが、1.5Lパワートレインとの相対関係で、より一層際立っているのを感じることができた。



 装着されているタイヤは決してドライグリップ一辺倒のものではないが、絶対的な限界は高く、また大きなギャップを乗り越えてもそう簡単には破綻しない、懐の深さも兼ね備えている。つまりはそれだけボディ・シャシーとも剛性が高くバランスも取れていて、タイヤのグリップを有効に使えるものになっているのだろう。

「G-ベクタリングコントロールプラス」の制御概念図

 また、マツダ3では全車に、旋回時のエンジントルクとブレーキを自動的に制御して操舵レスポンスと安定性を高める「G-ベクタリングコントロールプラス(GVC+)」が採用されているが、これが全く違和感をドライバーに感じさせない。エンジントルクのみを制御する前身の「GVC」は緩いコーナーで舵角一定でも不意にオーバーシュートしがちだったが、GVC+はカタログに記載がなければ恐らく多くの人がその存在に気付けないはずだ。

P5-VPS型1.5L直4ガソリンNAエンジン
P5-VPS型エンジンの性能曲線図
15Sツーリングの6速ATにはシフトレバーでのMTモードは用意されるがパドルシフトは備わらない

 このワインディングで最も真価を発揮する車重1340kgのボディ・シャシーに、111ps&146Nmを発するP5-VPS型1.5L直4ガソリンNAエンジン+最終減速比が4.605(2.0Lガソリン車は4.095。各ギヤの変速比もわずかに異なる)と低い6速ATとの組み合わせは、完全にボディ・シャシーの方が勝っているため、コーナーの立ち上がりでは思い切りアクセルペダルを踏んでいくことができる。しかも3000rpm付近から吹け上がりが鋭くなり、室内に甲高い快音を響かせてくれるものだから、特に上りのワインディングでは「もっと踏め、もっと回せ!」とクルマに煽られているような気分になった。



 だから、絶大な安心感と信頼感を持って、気持ち良くドライビングに専念することができる。この走りは、マツダが初代ロードスター以来掲げている「人馬一体」そのものであり、「FFのロードスター」とさえ言っていい仕上がりだ。



 ただし、不満が全くないわけではない。3000rpm以下のトルクが非常に細く、その領域にエンジン回転を落としてしまうと、傾斜の強い上り坂では速度を維持するのさえ困難になる。通常のATモードの制御もそれを踏まえたセッティングとなっており、傾斜の強い上り坂では3000rpm以上を保てるギヤを選択するため、燃費が急激に悪化する傾向が見られた。



 そのため、高速道路では16.4km/Lと良好な燃費を記録する一方、箱根のワインディングでは10.1km/L、そしてストップ&ゴーが多く坂も急な横浜の市街地では7.8km/Lと、落差の激しい結果となった。なおトータルでは11.8km/Lとやはり振るわず、WLTCモード燃費(総合16.6km/L、市街地13.7km/L、郊外16.5km/L、高速道路18.4km/L)との差も大きい。ツボにはまれば最新の小排気量車相応の低燃費になるものの、少しでも外せば一昔前のNAスポーツカーなみに落ち込むのは、大いに留意する必要があるだろう。



 しかし、車両価格231万5989円で、このクオリティ、この仕上がりである。そして、オプションや諸費用を含めても300万円を下回る可能性が高い。つまり、Bセグメントのハイブリッドカーと同等のコストで、Cセグメントトップクラスの内外装と走りの楽しさが手に入るのである。

マツダ3ファストバック15S
マツダ3の6速MT

 だが筆者なら、今回のテスト車両そのままの仕様は選ばない。タイヤが205/60R16 92Vとなり乗り心地の改善とイニシャル・ランニングコストの低減が期待できる「15S」の6速MT車こそ、最高のコストパフォーマンスで美しい内外装と「人馬一体」を堪能できるはずなのだから。

■マツダ3ファストバック15Sツーリング(FF)

全長×全幅×全高:4460×1795×1440mm

ホイールベース:2725mm

車両重量:1340kg

エンジン形式:直列4気筒DOHC

総排気量:1496cc

最高出力:82kW(111ps)/6000rpm

最大トルク:146Nm/3500rpm

トランスミッション:6速AT

サスペンション形式 前/後:ストラット/トーションビーム

ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク

タイヤサイズ:215/45R18 89W

乗車定員:5名

WLTCモード燃費:16.6km/L

市街地モード燃費:13.7km/L

郊外モード燃費:16.5km/L

高速道路モード燃費:18.4km/L

車両価格:231万5989円
マツダ3ファストバック15Sツーリング

情報提供元:MotorFan
記事名:「 CX-30にはない1.5LガソリンNAエンジンは官能的なサウンドも魅力的。ただし燃費は…?