ヴィッツ改め、インターナショナル・ネームに統一されたヤリスだが、ここで第3のバリエーション“ヤリスクロス”が登場。この似ていないようで、似ている兄弟ヤリスクロスのクラスレスの魅力をデザインの特徴から見ていこう。
かつては選べる楽しさで多くの車型、今は売れない車型は整理
ヤリス3兄弟について、似ていないようで、似ている。そんな風に感じた方も少なくないのではないかと思うが、そもそも同じ名前ならば似てなければいけないの? という疑問もあるはず。セダンとワゴンや、5ドアハッチバックと3ドアハッチバックなど、同じ名前だから同じデザインで当然と思ってしまいがちだ。
しかし、それは逆で多くの部品を共用できるから、同じデザインのままなのだ。その方が、作り手にとってメリットが大きい。メーカーにとっても新たなプロダクトをゼロから起こすよりは、ベースとなるモデルを選んでそのモディファイで作った方がお金はかからない。
現代はカタチ、機能がシビアに問われる時代に
ヤリスは大胆にも3車種がそれぞれ専用デザインで登場
そうして見たときに、今回のヤリスのラインナップは非常に興味深い。
ベースとなる5ドアハッチバックに対して、GRヤリス はフルタイム4WDによるラリースペックに耐えうるハイパフォーマンス・モデル。このハイパフォーマンスのメッセージが、パッケージとデザインに込められる。不必要なリヤドアを排し2ドア化するが、そのデザインは5ドアとは大きく異なる。単に高性能バージョンを作りたいのならば、5ドアにこのユニットを搭載すればいいはず。しかし、そこにはちょっと違う事情があったのだろう。
ヤリスクロスは欧州のニーズを徹底研究
そして、新たに登場したのがヤリスクロス。
デザインはヨーロッパのデザイン拠点EDD(EDスクウェア)と日本の拠点が総力を尽くしたという。EDDスタジオのゼネラルマネージャーであるランス・スコット氏によれば、デザイン開発に当たってヨーロッパのBセグメントSUVの顧客のニーズを調査。
その結果、スタイルのよさとともに高いレベルの実用性が必要だということがわかったという。また、ユーザー層の徹底的な取材によって“Robust”(逞しさ)と“Minimalistic”(最小限)というキーワードが生まれた。ここから、ヤリスクロスには、SUVの逞しさと強さに併せて、コンパクトさと俊敏さを表現することが必要と感じたという。
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参考までにC-HRでは、フロントビューで大切なのは薄く速そうに見えるスタイル。顔のボリウムについては、基本は薄いヘッドライト周りがフロントフェイスで、その下に強い下半身を表現。それが全体としては凝縮された“顔力”を導き出している。下に広がるイメージが、高い安定感を表現した。またC-HRはマイナーチェンジを受け、さらに安定感あるフロント周りの造形を実現した。また追加されたGRスポーツでも同様の工夫がこらされる。こちらはインテークを印象的にし、よりパワフルなイメージも出している。
この辺りのフロント周りのボリウム感の考え方は、ヤリスクロスとは大きく異なるものだ。
スポーツカーなのに便利、それがクロスオーバーの魅力
サイドに回ると、特徴的なのは下部分のクラッディングと呼ばれるガーニッシュの存在だ。C-HRにも似た形状のものがつけられているが、ともにボディに厚みを感じさせない効果をもつ。後方に厚くしているのはルノーでも見られる手法だが、途中をさらに細めて見せるコークボトルラインを狙ったもので、サイドビュー全体に動きを感じさせる。前傾するホイールアーチやリヤピラーの前傾したブラックアウトのカラーリングも含めて、水平基調の安定感の中で、適度な動感も表現。安定した造形ながら、退屈さを感じさせない。
またドアハンドル上の折れ線=キャラクターラインはリヤドア部分で跳ね上がる形となっているが、このラインも動きを与える要素となっている。しかし、ここにはさらに重要な狙いがある。それは、全体のフォルムを眺めたときにリヤドアの存在感を薄らげることで、ある意味クーペ的なプロポーションをイメージさせる。
ならば、C-HRのようにリヤドアに見えないようにしてもいいはず、と思われるかもしれないが、それは前述のランス・スコット氏のコメントに関連する重要な部分。
でも3車は似ているように感じるのは、なぜ?
さて、こうしてデザインを見てくると、ヤリスクロスは5ドアやGRとは異なる構成要素によって出来上がっていることがわかる。つまり部分的にでも似ているものを継承する意図が感じられない。しかし何となくヤリスファミリーに見えてしまう。これはどういうことなのか。
人間の場合、家族でも兄弟でも何となく似ていると感じるはず。むしろ双子でない限り瓜二つは稀。でもどこか似ている。それはご存じの通りDNAのなす技だ。“似せている”のではなく、“似てしまう”のだ。
ヤリスについても、そこにあるDNA、プラットフォームや骨格、そして基本的なレイアウト。こうしたものが、3車にそこはかとなく共通点を生み出している。
もっとも特徴が現れるのはリヤ周りで、リヤピラーが後輪よりも前にあるように見える点だ。この造形は、単にリヤまわりを前傾させるだけでなく、フロントに重心をかけるフォルムを作った。いわゆるFFレイアウトがデザインに現れた造形として、これまであまりトライされてこなかった稀有な造形だと思う。
しかし各車継承しつつも、それだけでは都合が悪いのが4WDのクロスやGR。なにしろ FF的なカタチでは全体のイメージと実際の製品の特徴と合わない。
そこでGRはより強烈なリヤフェンダーを採用。もちろん前述の通り、その必要が技術的にもあったのだが、後輪の蹴り出す逞しさも表現した。ガジェット感も、ある種のエボリューション的存在を強調。
そしてクロスの方は、前後で同等に大きく張り出して見えるフェンダーと、ラギッド感のあるフレアを付与した。パワフルさを前後のフェンダー周りで強調しつつも、前進したリヤピラーによる前傾姿勢は、これまでのSUVではまず見たことのないものだ。
それだけに、通常だと重く感じられるリヤ周りに、軽快さを見せることになった。ある種バギー的でもあり、ヤリスクロスのデザイン上の最大の見せ場ではないだろうか。
限られた資料からの考察ながら、その造形は見れば見るほどにエキサイティングなものだ。Bセグメントという小ささを軽快さとして表現しながらも、クラスレスの価値を手に入れたものと思われる。