新型コロナウイルスが世界的に拡大した昨年、各地の感染状況が伝えられるニュースから「WHO」という名称が多く聞こえてくるようになり、大変身近になりました。日本語では「世界保健機関」その名称から世界中の人のために保健室の役割を担っているのだな、と想像できますが実際にはどのような仕事をしているのかは知るチャンスもあまりありません。誰もが「健やかに暮らす」あたりまえに不自由している今、「世界保健デー」の日にWHOについて知識を深めてみませんか。


「WHO」ってどんな機関? そして「健康」って本当はどんなこと?

世界保健機関(WHO:World Health Organization)は1948年4月7日に、国際連合の専門機関として設立されました。目的は世界中の人々の健康を保護し増加推進するために、それぞれの国が互いに協力していこうということです。現在の加盟国は194カ国、日本は1951年5月に加盟しました。
本部はスイスのジュネーブにあります。世界を6つの地域に分けてそれぞれに事務局を置き、日本はマニラにある西太平洋地域事務局の管轄に入ります。国内にWHO事務所はありませんが神戸市に本部直轄の研究機関として、WHO健康開発総合研究センターがあります。ここでは「誰もが、どこでも、お金に困ることなく、必要な質の高いプライマリー・ヘルスケアを受けられる状態」の実現にむけての研究がされています。
健康がなにより大切ということは誰でもわかっていますが、それでは「健康」とはどんなことでしょうか? WHO憲章では次のように定義しています。
「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。」(公益社団法人 日本WHO協会HPより)
肉体的に病気ではない、ということ以外にも精神的、社会的にと健康であることの範囲が広くとられていることに大きな意味がありそうです。


国際的な保健機関のお仕事とは?

WHOの活動を決めるのは最高意志決定機関である世界保健総会(WHA)で毎年5月にジュネーブで開かれます。ここで2年先までの活動計画と予算を承認し方針を決定します。活動資金は加盟国に割り当てられた分担金の他に多くの寄付によって賄われています。
現在は新型コロナウイルスの克服に向けて、各国の協力のもと活動を続けているのは皆さんもよくご存じの通りです。WHOの活動の第一はなんといっても感染で広がる病気と戦うことです。そのために、各国が協力できるように公衆衛生センターのネットワークを作り、世界中から病気の流行に関する情報を集めて発生予測の資料として役立てています。
またインフルエンザのような大規模な流行を引き起こすウイルスには、特別な研究所ネットワークも作られて常に監視を怠りません。
予防接種も大切な活動のひとつです。病気の中には天然痘、ポリオ(小児麻痺)、破傷風、はしか、ジフテリア、結核のように予防接種をすることで防ぐことができるものがあります。これらの病気は私たちにとって今は遠いものと感じるかもしれませんが、近年までは不治の病として恐れられたものばかりです。しかし未だに衛生状態の整わない地域では、予防接種を行き届かせて発症を防ぐ取り組みが必要となっているのです。
WHOのニュースの中に「新しい年の健康的な食事の5つの秘訣(2020年1月7日)」がありました。私たちにも役立ちますのでここに記しましょう。
<5つの秘訣>
1.様々なものを食べる
2.塩分を減らす
3.特定の油脂の使用を減らす
4.砂糖の摂取を制限する
5.危険で有害な飲酒を避ける
「今さら…」と思うかもしれません。 どれもふだんから言われていることばかりですね。多種多様な文化の中、生活のベースが違っていても健康で長生きするための食事の秘訣は変わらないということがわかります。このような健康のための教育もまたWHOの大切な活動の一環なのです。


天然痘根絶で活躍した日本人「蟻田功(ありたいさお)さん」

WHOが設立以来多くの病と闘い人類を伝染病から守ってきたことは前述したとおりです。とくに画期的だった1980年5月8日に行われた天然痘の根絶宣言についてお話しましょう。
天然痘は何千年も前から人類にとって脅威となっていた病気で、高熱と全身にできる発疹に苦しむ命に関わる重大なものです。原因は感染力の強いウイルス、これに世界中が苦しみ長い間悩まされてきました。古代エジプトの王様のミイラから天然痘の痕跡が発見されたことからわかります。日本でも天然痘は古く聖武天皇の奈良時代に大流行しました。奈良東大寺の大仏はその苦難を乗り越えるため建立されたといわれています。また中央アメリカのアステカ文明や南アメリカのインカ文明をあっという間に滅ぼしてしまったのも、スペインから持ち込まれた天然痘が原因のひとつとされています。このようにすさまじい力を持つ天然痘は20世紀初頭まで猛威をふるい続けてきました。
WHOは世界から天然痘を根絶するために10年計画の運動を実行しました。この時のリーダーとして活躍したのが蟻田功さんです。そして武器となったのが、ジェンナーが発見した種痘というワクチンの予防接種です。WHOが品質保証したワクチンだけを使い、接種が簡単で迅速に行える二股針を採用し、患者周辺の人々を徹底的に接種するという方法をとりました。効果の高いワクチンを効率よく迅速にというわけです。これを実行するために患者が発生した国には接種に必要な自動車やワクチンなどを無償で援助したそうです。1977年ソマリアで見つかったのを最後に2年間患者が見つからない状態が続き、ついに根絶宣言となりました。
人類の健康を天然痘から守るためにこの時動員されたのは50万人、費用は総額1億ドルということです。蟻田さんはこの闘いの中でこんなことばをかけてみんなを励ましたそうです。
「人生の価値はやる気で決まる。諦めることは無意味だ」
今こそ胸に置きたいことばです。昨年から新型コロナウイルスという感染力の強いウイルスに世界が恐怖に閉じ込められています。ワクチンの開発が驚異的な勢いで実行され、接種も始まっています。たとえ根絶まで長い時間がかかったとしても、世界の国々が協力し合うことで勝利の時を得られるのだと先人たちが教えてくれています。今は本当に苦しい時ですが、前を向き先を明るく見る目を持って、もう一踏ん張り進んでいきたいですね。
参考:
ジリアン・パウエル著、関原正裕解説『世界の人々を健康に[世界保健機関]』ほるぷ出版
齋藤孝著『齋藤孝の親子で読む偉人の話 4』ポプラ社
加藤茂孝「天然痘の根絶-人類初の勝利」モダンメディア、55巻11号2009年「人類と感染症の闘い」P283~P294

東大寺大仏尊像

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