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七十二候「禾乃登(こくものすなわちみのる)」禾稲(かとう)が色づき実る季節です


九月。実りの秋の始まりです。9月2日より処暑の末候「禾乃登(こくものすなわちみのる)」となります。イネ科の多くの穀物、とりわけ私たち日本人の主食である稲が色づき、実り始める頃とされます。稲の別名は禾稲(かとう)。中国の宣明歴でも処暑末候は「「禾乃登(かすなわちみのる)」で、すでに一万年前の中国の長江流域では、稲の栽培がはじまっていたようです。当初は自然の湿地を利用したり陸稲(おかぼ)を育てる雑駁耕作でしたが、水耕栽培の技術がアジアモンスーン地域全域に広まり、独特の水田稲作文化が形成されました。


でもなぜ稲は水田で育てるの?

私たちの主食である米を実らせる稲。大きくアジアイネ(Oryza sativa)とアフリカイネ(Oryza glaberrima)に分けられ、世界的に栽培が盛んなのはアジアイネ。さらにアジアイネは、耐寒冷性の性質に優れたジャポニカ米(Oryza sativa subsp. japonica)と、熱帯・亜熱帯気候に適したインディカ米(Oryza sativa subsp. indica)に分けられます。日本で栽培されているのはほとんどがジャポニカ米。エスニックなどで使われる粒が細長いインディカ米も、最近はだいぶ親しまれるようになりましたが、輸入品です。

ところでどうしてお米は麦類や黍、大豆などのように畑ではなく、水を張った水田で、特殊な水耕栽培がされるのでしょうか。

稲の原種はもともと熱帯の沼地に生息していました。このため、性質的に水をはった田んぼの方が稲には適している、ということがあります。茎葉から根への通気組織がよく発達しており、大気中の酸素が植物体内を通して根へと送られやすいため、根が酸素欠乏になりにくい性質を持っているです。同じように水に浸された環境で育つ野菜にハスがありますが、ハスもまた葉茎から根茎へと空気を送り込む気道が発達していますよね。

また、稲は根から酸素を分泌することで水中の有害な二価鉄イオンを毒性の小さい酸化鉄に変換し、根の表面に被膜を作って毒性物質から根を守っています。稲の根を引き抜いてみると、赤褐色の酸化鉄(さびのような皮膜)がついていることが観察できます。そして、温度変化が緩やかな水は春先の夜間の冷えや、夏場の日中の暑さを和らげ、緩和することができます。

雑草が生えにくいのもメリットの一つ。水田で育てることで生えてくる雑草の種類も限られますので、除草の手間を省くことができます。

しかし、単に雑草が生えにくい程度なら、わざわざ水田にすることはありません。水耕栽培はきわめて手間がかかります。水が抜けないようにあらかじめ丹念に代掻きをし、近年田植え機ができたとはいえ、やわらかい泥に一つ一つ苗を植え付ける「田植え」は、長年きわめて重労働であり、農家の労苦でした。また梅雨から夏にかけてはこまめに水の管理をしなければなりません。水田には、それらの手間をかけるだけの大きな意味があったのです。


水田稲作のここがすごい!!

水田稲作には、実はとてつもなく大きなメリットが数多くあります。

1.収穫倍率(植えた種一粒からどれだけの収穫が上げられるかの数値)が極めて高い。

「農地」とは、太陽から降り注ぐエネルギーを、作物である植物の成長エネルギーに変換する装置、もしくは場であると定義できますが、水田はこのエネルギー変換が極めて優れています。日本のお米は1haあたり収穫量で5t採れます。小麦の収穫量は2.3t。小麦の収穫倍率は主要生産地の欧米で現在15~25倍。つまり種一粒から15~25粒ほどが収穫できます。雨水の少ないヨーロッパでは長く小麦の収穫倍率は2~4倍ほどでした(例外的に古代メソポタミアでは小麦の収穫倍率50~100倍あったとか。メソポタミアでは大河を利用した潅漑農業が行われたこと、肥沃な土壌であったためです)。ところが米は、既に奈良時代には収穫倍率が20倍以上、江戸期には50倍、現代では130倍以上になっています。

日本の農地の割合は人口に比して少ないのですが、ヨーロッパと比べて1/10の農地で一人を養えるほどの生産性の高さを維持しているのは、水田の収穫が優秀なためなのです。

2.連作障害(嫌地)が起こらず、永久に連作が可能。

日本では、田んぼは常に田んぼです。毎年当たり前のように稲が作られますが、実はこれはすごいこと。ヨーロッパでは、毎年同じ土地に同じ作物を育てることは出来ず、ライ麦、小麦、大麦などを農地を三分割してサイクルさせる、牧草地として休耕させるなどの方法をとらなければ、収穫が見込めなくなってしまいます。一方、稲では水を張ることで田の土壌は酸素不足になり、連作障害を引き起こす特定の病害虫、微生物、雑菌類が繁殖できず、また施肥や防虫のためのさまざまな物質も、水と共に洗い流され、蓄積しません。日本では弥生時代から同じ土地で、毎年お米を作り続けています。

3.きれいな地下水を常に維持・供給している。

田んぼの底面になり水をたたえる粘土層は水のろ過装置。しかも粘土は水によりイオン化され、リンや硝酸・窒素など、土壌や地下水を汚染する有害物質を吸着し、水を浄化して地下に送り込みます。吸着された物質は、微生物が消費します。田んぼが地下水に供給する水の量は年間500億t。日本の地下水が今も飲み水として利用できるのは、田んぼのおかげです。ともすると「山の伏流水」をありがたがる私たちですが、それは、畑の地下水が汚染されている欧米の風習で、日本では本来そこらの飲み水も飲めるのが普通で、日本の水道水の品質が高いのも、田んぼがあるおかげなのです。

4.気候調節・洪水の緩衝となる

日本の水田は、約60億tの水を溜めることができます。川やダムが渇水したときには、田んぼから染み出た地下水が湧き出てカバーします。大雨の際にも、水田が水を吸収して緩和し、緩衝となります。また田んぼは水面からの蒸散で暑い時期に周囲を冷却します。温かい地方でも、田舎では真夏でも熱帯夜が少なく夜間涼しいのは、田んぼの蒸散作用のおかげです。


水田は日本の国土とそこに生きるものたちを支えてきた

日本の国土は、よく狭い、小さいといわれます。でも実際には国土面積は世界の62位で、むしろやや大きい部類になります。しかし、幅の狭い国土の大半を急峻な山岳が占め、平地が少なく、耕地面積は世界の98位で、平均を下回っています。そこに一億人以上の人口がひしめいているわけですから、平坦な大地の多い大陸の諸外国と比べると人間の生活圏・活動圏はいかんせん「狭い」のが事実。急勾配のとんがり屋根の幅の狭い家か、滑り台のような姿が日本列島です。

その急勾配の土地に、モンスーン気候地帯に属し、世界平均の二倍以上の雨が降り注ぎます。雨水は高い山から濁流となって低地に流れ込み、平地や低地を水浸しにしながら短時間で海に流れ下ってゆきます。ですから、日本のわずかな平地は無数の暴れ川を抱えた大洪水地域だったのです。人々はこの川を根気強く流れを分けて勢いを緩め、堰を作り、水路を引き、灌漑農地・つまり水田を作っていきました。

こうして雨水が作り出す濁流は恵みをもたらす水源へと徐々に姿を変え、日本全土に水田を形成し、緩やかに海へと帰っていくことになりました。

山から流れ出る養分豊かな水を水田の潅漑に使うことで豊富な栄養がたえず供給され、イネは養分不足となることが少なく、元気に育ちます。そして田んぼは蛍やカエル、ヘビ、さまざまな昆虫類などの生き物たちの大切なすみかも提供しています。生き物たちなんかどうでもいい、なんてことはありません。その豊富な生き物たちをえさとして求め、南方から毎年多くのウスバキトンボが日本列島に飛来し、そこで命を落として田の貴重な栄養となるのです。

つまり、水田があることにより、私たち日本人は営々と日本列島で暮すことが可能だった、と言っても過言ではありません。

ところが、戦後、日本人の食生活は大きく欧米化し、米の消費は1962年をピークにして、年々減少し続けています。既に現在ではピーク時の一人あたりの平均118kgから54kgへと、半分以下になっています。こうしたことから、日本では1970年代から再三減反政策による生産調整が行われ、米農家の高齢化もあいまって田んぼは減り続けています。

米の消費について、自宅でお米をといで炊く量が減っているが、加工した米食品(コンビニのおにぎりや弁当、外食のご飯など)はさほど下がっていない、という説もあります。が、近年話題になっているすし屋でのお米はがしやシャリ無し寿司の登場など、パンやパスタ、ラーメンの人気と比べてお米を敬遠する傾向が見られるのも確か。粒食であるお米は粉食の小麦と比べて消化に時間がかかり、血糖値の上昇も緩やかでヘルシーであるといわれます。

私たちがお米を食べなくなるとき、この国も消滅してしまうのかもしれません。

今年の作況も、豊作または大豊作の予測が出ています。美味しい新米を、ありがたくいただきましょう。

農林水産省 米をめぐる状況について

米に関する資料

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