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「世界有数の銀行強盗」 北朝鮮ハッカー集団の脅威

  • 2021年06月10日 11:40:00

【ソウルAFP=時事】北朝鮮はサイバー戦争の最前線に進出して多額の資金を略奪し、今や核兵器開発よりも明確で現実的な脅威になっていると専門家らが警鐘を鳴らしている。(写真は資料写真)
 北朝鮮は、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記の下で核ミサイル開発を急速に進め、さまざまな経済制裁を科されている。国際社会は北朝鮮の核開発計画に目を光らせてきたが、その陰で同国はひそかにサイバー攻撃能力を増強してきた。専門家によると、特別な訓練を受けた数千人のハッカー部隊が存在し、核武装に劣らず危険だという。
 「北朝鮮の核・軍事計画は長期的な脅威だが、サイバー攻撃は差し迫った現実的な脅威だ」と韓国国家安保戦略研究所のオ・イルソク研究員は指摘する。
 北朝鮮のサイバー攻撃能力が世界で初めて注目されたのは2014年。金総書記を風刺した米映画『ザ・インタビュー』を制作したソニー・ピクチャーズエンタテインメントに同国が報復としてサイバー攻撃を仕掛けたとされた。
 これ以後、北朝鮮は世界の注目を集めたサイバー攻撃に関与してきたとされる。
 関わりが疑われる件には、2016年に起きたバングラデシュの中央銀行からの8100万ドル(現在の為替レートで約89億円)の窃盗や、翌年のランサムウエア(身代金要求型ウイルス)「ワナクライ」による150か国、約30万台のコンピューターへの被害などがある。
 北朝鮮外務省は一切の関与を否定してきた。ワナクライ攻撃を仕掛けたのは北朝鮮だとする米国の主張は「ばかげている」と一蹴した。
 しかし米司法省は今年2月、「一連の破壊的なサイバー攻撃を行う広範な共同謀議に加わった」として北朝鮮人の3人を起訴した。
 米国家情報長官室(ODNI)の「年次脅威評価報告書」2021年版は、北朝鮮には全米のいくつかの重要なインフラ網を一時的に混乱させる専門的技術があると思われ、同国のサイバー計画が及ぼす脅威は「諜報(ちょうほう)、窃盗、攻撃面で増大」していると指摘。金融機関や暗号資産取引所から数億ドル(数百億円)を盗んでいるのは「おそらく、核・ミサイル開発といった政府の優先事項の資金を調達するため」との見方を示している。

■「敵のOS攻撃は最大の防御」
 北朝鮮のサイバー計画は少なくとも1990年代半ばまでさかのぼる。当時の最高指導者、金正日(キム・ジョンイル)総書記は、「これからは、すべての戦争がコンピューター戦争になる」と述べたとされる。
 2020年7月に米軍が発表した報告書によると、北朝鮮は現在6000人のサイバー戦争部隊、通称「121局」を擁し、ベラルーシ、中国、インド、マレーシア、ロシアなど数か国に拠点を置いている。
 2007年に脱北した元訓練生、張世烈(チャン・セヨル)さんによれば、121局に入ると、美林大学などの機関でさまざまなプログラミング言語と基本ソフト(OS)について学ぶ。
 美林大学は、今は自動化大学として知られ、最優秀の成績を収めた自国の学生の中から毎年100人をよりすぐって養成している。
 米国のサイバー戦争能力に対処しなければならないと教えられたと張さんはAFPに明かした。「独自のハッキングプログラムを開発するよう教わった。敵のOSを攻撃するのは最大の防御だからだ」
 米シンクタンク、スティムソン・センターの研究員、マーティン・ウイリアムス氏は、「航空機や戦車などの現代兵器の装備で劣っている」北朝鮮のように小さな貧困国にとって、サイバー戦争は魅力的だと言う。「ハッキングは、コンピューターとネットの接続環境があればできる」

■暗号資産の分散型ネットワークは北朝鮮に好都合
 ほとんどの国家が支援するハッカー集団の目的は主に諜報活動だが、北朝鮮が特異なのは、サイバー能力を金銭的な利益を得るためにも応用しているところだと専門家は指摘する。
 北朝鮮は、新型コロナウイルス対策で国境を封鎖し、経済的に逼迫(ひっぱく)している。
 長年、さまざまな方法で外貨獲得に努めてきた。
 「盗みはビジネスよりも数段早く、おそらくもっともうかる」とウイリアムス氏は言う。「特に、腕の立つハッカーがいる場合は」
 2月に米国に起訴された北朝鮮人の3人は、金融機関や企業へのサイバー攻撃で計13億ドル(約1400億円)を盗んだとされる。
 起訴する際にジョン・デマーズ司法次官補は、北朝鮮の工作員を「世界有数の銀行強盗」と評した。「銃ではなくキーボードを使い、現金袋の代わりに暗号通貨のデジタルウォレットを盗む」
 ビットコインなどの暗号通貨の台頭は、世界中のハッカーに、うまみのあるターゲットをもたらした。
 さらに、暗号資産の分散型ネットワークは、北朝鮮が金融制裁をかいくぐるには好都合だとサイバーセキュリティー会社クラウドストライクのスコット・ジャーカフ氏は指摘する。
 「(暗号資産のネットワークなら)北朝鮮は、世界の銀行システムの管理を受けず、簡単に資金洗浄して本国に送金できる」とジャーカフ氏は続けた。「暗号通貨が魅力的なのは、管理されず、国境も関係なく、比較的匿名性が高いからだ」【翻訳編集AFPBBNews】
〔AFP=時事〕(2021/06/10-11:40)
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