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欧州最後の「野生の川」 ダム計画めぐる攻防戦 アルバニア

  • 2021年06月07日 11:31:00

【AnevjoseAFP=時事】ギリシャとの国境にまたがるピンドス山脈に源を発し、アルバニアの岩山地帯と平野を抜けて、きらめくアドリア海に流れ込むビヨサ川。その手付かずの景観はアルバニアの宝とされるが、今や脅威が差し迫っている。(写真はアルバニアのテペレナを流れるビヨサ川に架かる橋)
 活動家らはビヨサ川を、都市開発やダムなどによって人の手が加えられていない欧州最後の主要な「野生の川」と呼んでいる。川を守るために残された時間は少ないと判断し、自分たちの運動に米俳優レオナルド・ディカプリオさんら著名な環境活動家を引き入れている。
 目下の問題は、トルコとアルバニアの合弁企業が高さ50メートルの水力発電ダムを建設する計画を進めていることだ。アルバニア側のビヨサ川は約200キロにわたるが、この事業によって初めて流れが変えられることになる。ダムができれば、希少な動植物が多い地域が水没し、農地は押し流され、漁師らの生活も破壊されて、数千人が立ち退かなければならなくなる。
 「ビヨサ川は、私にとってかけがえのないものです。自分の人生がここにある。子ども時代も青春も」と語る地元の料理店主アーイアン・ゼカイさん。ツェサラット村の道路脇にある店からは、起伏する草地が複雑に分岐する川へと続く絶景が見える。
 ダムができれば、全てが消える。店のテラスの近くまで水が打ち寄せるはずだ。
 「別の場所に住むしかなくなるだろう」とゼカイさん。「ここで生き残る方法が見つからない」
 ダムをめぐる法廷闘争は20年に及ぶ。ここ数年は、その闘いに活動家も加わっている。
 アルバニアの環境NGO「エコアルバニア」のベスイアナ・グーリ氏は、ビヨサ渓谷を国立公園に指定すべきだとAFPに述べた。「そうすれば、この土地特有の生態系を守れるだけではなく、安定した開発が可能になり、観光と地元のエコツーリズムを促進できる」
 エコアルバニアは、オーストリアを拠点とする「リバーウオッチ」などの複数の国際NGOと共に、まれな河川生態系を守る「欧州唯一の機会」として啓蒙(けいもう)運動を進めている。

■国立公園より規制が緩い保護区域に
 活動家らは、ビヨサ川流域では動植物1175種が確認されていると指摘している。うち119がアルバニアの法律で保護され、39が絶滅の危機にひんしているとされる種だ。
 さらに活動家らは、アルバニアにはこれ以上の水力発電は要らない、他の再生可能エネルギーに注力すべきだと主張している。
 アルバニア政府の関係者らも表向きはこの意見に賛同し、太陽光発電や液化天然ガス(LNG)を利用する計画が進行中だとしている。
 環境省は昨年、トルコとアルバニアの合弁企業によるダム工事の開始を許可しなかった。活動家にとっては大勝利だったが、同社はこの決定をめぐり、裁判を起こしている。
 一方で政府は、国立公園に指定することには難色を示し、規制がもっと緩い「保護区域」にすることを選んだ。
 「国立公園にするのは、いささかやり過ぎだ」とエディ・ラマ首相はAFPのインタビューで明言。国立公園に指定すれば、数万人の日常生活が制限され、農業やエコツーリズムにも支障が出ると主張した。
 活動家や地元住民は納得していない。
 国立公園に指定されると、川の流域での水力発電事業や空港建設などの開発事業を禁止にできるが、保護区域ではそこまでの措置を講じることはできない。
 エコツーリズムに関する首相の主張も疑問視されている。
 「複数のダムが建設され、ここが開発されてしまえば、アルバニアの自然を満喫したいと思っている外国人観光客は、ビヨサだけではなく、他の地域に対しても興味を失ってしまうでしょう」と、観光専門家のアルビオナ・ムチョイマイ氏は指摘する。
 同氏は、急流でのラフティングや自然が損なわれていない山々でのハイキングを例に挙げた。一方の政府が期待しているのは、団体ツアーによる大勢のインバウンドだ。
 政府は、複数の空港を新設し、アドリア海沿岸でマスツーリズム(観光旅行の大衆化)と経済の活性化をもくろんでいる。そのうちの1空港の建設予定地はビヨサの河口付近の湿地にあり、活動家らによれば、保護区域に位置している。

■人類が将来どうあるべきなのかという地球規模の問い
 ビヨサ川をめぐる攻防戦は、人類が将来どうあるべきなのかという地球規模の問いを端的に表している。いかなる犠牲を払ってでも開発は進めるべきなのか、それとも、何よりもまず環境保護を優先するべきなのか。同様の議論が、中国からチリまで世界中で起きている。
 ビヨサ問題は「欧州はもちろん、世界に前例をつくるまたとない機会だ」と、保護活動NGO「ユーロネイチュア」のアネット・スパンジェンバーグ氏は言う。自然のままのビヨサ水系を維持することで、「自然保護の可能性について新たな基準」を設定できると主張する。
 しかし、ダム建設に反対する闘いの中心には、村民の日々の暮らしの維持と向上がある。
 「ビヨサは私たち、そして私たちの土地や食料にとって不可欠だ。生活と切っても切れない」と地元住民のイダエット・ゾータイさん(60)は語る。
 メジン・ザイミ・ゾータイさん(86)の7人の子どもは皆、この地域を離れた。「ビヨサが国立公園になれば、子どもたちは全員ここに戻り、故郷で未来を築くはずだ」と、川べりで羊の群れの世話をしながら話した。【翻訳編集AFPBBNews】
〔AFP=時事〕(2021/06/07-11:31)
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