【米国AFP=時事】宇宙飛行を経験する幸運に恵まれても、喜んでばかりいられない。筋力低下、放射線被ばく、閉塞(へいそく)状態が及ぼす心理的影響などの代償が待っている。(写真は欧州宇宙機関<ESA>の航空宇宙医師、アドリアノス・ゴレミス氏。米フロリダ州ケープカナベラルで)
 欧州宇宙機関(ESA)の航空宇宙医師、アドリアノス・ゴレミス氏は、米宇宙開発企業スペースX宇宙船「クルードラゴン」運用2号機のミッションに参加しているトマ・ペスケ飛行士の健康を管理している。このたび、宇宙医学に関する知見を提供してくれた。

Q:宇宙で健康を保つ上で最も大変なことは?
A:国際宇宙ステーション(ISS)がある地球低軌道について言えば、重力がほぼゼロなので骨や筋肉に悪影響がある。
 放射線も大きな問題だ。地上では、磁気圏や大気で守られているが、その外側に出れば、こうした保護がなくなる。
 最近分かってきたことで念頭に置いておくべき問題もある。健康な宇宙飛行士でも発症することがある眼疾患や静脈血栓などだ。

Q:最新の科学的な知見では、人体に対する放射線の許容量は?
A:ISSでの6か月間のミッションに2~3度参加しても、おそらく健康に重大な影響を及ぼす恐れはないだろう。
 私たちが目指しているのは、がんの発症リスクが、宇宙飛行の経験が全くない人と比較して3%を超えないようにすることだ。

Q:無重力状態が与える影響として他にはどんなことが?
A:私たちは(地球の重力加速度として)1Gの環境に適応している。
 無重力になっても、脚の静脈は1G環境下と同じように血液を頭に送り込もうとするため、より多くの血液が上半身に集まる。ミッションの最初の頃は、飛行士の顔がすごくむくんでいるのを目にすることがあると思う。
 循環器系はやがて適応し、より少ない血液量に体が慣れてくる。ISSからの帰還を控えた飛行士には、水分や塩分をたくさん摂取するよう指示している。

■新型コロナウイルスについて
Q:飛行士は新型コロナウイルスワクチンの接種を完了しているが、それでも検査は必要?
A:飛行士らは隔離状態に置かれているが、最終的なPCR検査を2度実施した。これは、体内にウイルスを保有していないことを100%確認するためだ。
 重力がない状態では、免疫システムの機能が低下する。通常は発症しない感染症にかかることもあれば、自分たちが普通に持っている細菌で発症することもある。

Q:乗組員は、1日2時間、運動器具を使って体調を維持しているが、こちらからも定期的に連絡を取っているのか?
A:週に一度、15分間、定例のビデオ通話を行っている。
 ミッションの開始時に主にチェックするのは、1GからゼロGへの移行による宇宙酔い。脳にも若干の混乱が生じ、内耳と目に見えるものとの間に感覚混乱が起き、そのせいで嘔吐(おうと)することもある。
 ミッションの後期には別の影響、特に心理状態や認知能力を調べる。ISSのような環境に滞在していると、非常に狭い場所にいるので、新しい刺激が得られない。そのために心理的な影響を受け、集中力が低下したり、情報を記憶するのが難しくなったりする。

Q:薬剤を十分に蓄えておく以外に、船内にはどんな医療機器が?
A:例えば、ヘマトクリット値(血液中に占める赤血球の割合)を分析することで、水分補給は十分か、循環器系でどんな変化が起きているかを知ることができる。
 数年前、(宇宙飛行士に)血栓症が数件認められた。健康な人に起きるとは誰も予想していなかったが、地球上での人体の働きについても新たな知識が得られた。
 現在は超音波の設備もあり、痛みなどの症状があれば、他の乗組員が超音波で調べ、血栓症の臨床例かどうかを判断できる。
 飛行士の命や健康が実際に危険にさらされている場合は、緊急帰還させる準備を進める。幸いなことに、ISSが運用されてきた21年間でそんな事態は一度も起きていない。

■航空宇宙医師にはどうやってなれる?
Q:航空宇宙医師になるための条件は?
A:私の場合、取っ掛かりは医学の学位だった。その後、(仏ストラスブールにある)国際宇宙大学で宇宙研究の修士課程を修了した。
 南極で医師として1年過ごし、航空宇宙医学と似た分野について理解を深めることができた。最終的に、トゥールーズのフランス宇宙医学・生理学研究所に進んだ。
 ちょうど今、ESAが宇宙飛行士を新規に募集中で、5月末まで応募できる。夢があるなら、いつでもトライするべきだ。【翻訳編集AFPBBNews】
〔AFP=時事〕(2021/04/30-14:15)

情報提供元:時事ドットコム ワールドアイ
記事名:「ISS乗組員の健康を保つには? 航空宇宙医師に聞く