【ハノイAFP=時事】ベトナムの首都ハノイにある小さなアパートで、タトゥーアーティストのゴックさん(28)は、自分より年上の女性たちにタトゥーを施す。ここには、離婚や病気で人生が変わった女性たちが、ベトナムではいまだタブー視されることが多いタトゥーに癒やしを求めて集まって来る。(写真はベトナムの首都ハノイのスタジオで、女性客に施術するタトゥーアーティストのゴックさん)
 保守的な共産主義国のベトナムでは、少しずつ認識が変わりつつあるものの、タトゥーはギャングや売春、地下組織のものだと思われている。
 ゴックさんは来店する女性たちについて、「社会の偏見という恐怖を克服した。そして、自分を変えたいと個人的に思っている。(中略)人生の新たな章を開くために」と話す。
 10年近く前、高い教育を受けビジネスにも精通したゴックさんがタトゥーアーティストになった時、人々は嘲笑したが、今では固定客を獲得している。その大半は女性だ。
 ベトナムの市場調査会社「Q&Me」が2015年に実施した小規模調査に基づく直近データによると、タトゥーを入れている国民はわずか4%にすぎない。また、タトゥーをした人を見たら「怖いと感じる」と回答した人が25%に上った。
 ゴックさんは、特に肉体的・精神的に傷ついた女性にタトゥーを入れることにしている。需要は伸び続けており、先の予約はすべて埋まっているという。
 ハノイの平均月収は500ドル(約5万5000円)に満たないが、顧客の中にはその倍以上の額を出すことをいとわない人もいる。
 そのうちの一人、会社員のフォンさん(仮名、33)は、14年前に受けた虫垂炎の手術痕が縦に「醜く」残っており、自分の体を恥ずかしく思ってきた。
 「傷痕を消すため、病院に行くことを考えた」とフォンさん。「でも、こう考え直した。タトゥーで傷を隠したらどうだろうか」
 フォンさんは不安から目をぎゅっと閉じ、針が腹部で動き始めるのを待った。
 タトゥーを入れることは美しくなることだけを意味しないとゴックさんは話す。「ここでの美しさとは、女性が本当の自分になる機会を提供することを意味する」
 数時間後、フォンさんは腹部に咲いたピンク色の花を鏡で確認しながら、満面の笑みを浮かべた。
 「家族にこの大きなタトゥーを見られたら、パーティー好きの女だと思われるのではないかと不安だった」とフォンさんは打ち明けた。
 「でも、一番大事なことは、私が自分自身のために生きているということだ。自分の傷を恥ずかしいと思うことがなくなれば、人生はもっと面白くなる」【翻訳編集AFPBBNews】
〔AFP=時事〕(2021/04/26-12:13)

情報提供元:時事ドットコム ワールドアイ
記事名:「「傷痕に咲いた花」 女性たちを癒やすタトゥー ベトナム