アジア系へのヘイトに立ち向かう米市民 コロナ禍で憎悪犯罪急増
友人がひき逃げでけがをしたとき、リムさんはヘイトによる襲撃だと確信し、行動を起こす決意をした。「びくびくしながら暮らすのではなく、先を見越して自分から何か始めようと思いました」とAFPに語った。
リムさんは母親に催涙スプレーを買って渡し、父親から柔道を習い、さらに「How to Report a Hate Crime(ヘイトクライムを通報する方法)」と題したパンフレットも作った。警察との対応の仕方や、通りすがりの人に助けを求める英語のフレーズをまとめたものだ。
すでに6か国語(中国語、日本語、韓国語、スペイン語、タイ語、ベトナム語)で印刷を始め、友人やロサンゼルスのアジア系コミュニティーセンターに配布するという。タガログ語やクメール語などの版も予定している。
リムさんは、こうした活動はこれまで以上に重要だと実感している。
米国ではここ数か月、アジア系住民、特に高齢者に対する攻撃が急増。アジア系オーナーの店舗が略奪されたり、住宅や車に差別的な落書きをされたり、路上で襲撃されたアジア系米国人が死に至った事件などが報告されている。標的にされているのはフィリピン、タイ、日本、ラオス、韓国や中国系の人々だ。
その一因として人権団体が挙げるのが、ドナルド・トランプ前大統領らが用いた「中国ウイルス」という呼称だ。
今月11日の国民向け演説でジョー・バイデン大統領は、中国で始まった新型ウイルスのパンデミック(世界的な大流行)をめぐり、「責任を負わされ、スケープゴートにされているアジア系米国人に対する悪質なヘイトクライム」を強く非難し、こう述べた。「間違っているし、米国らしくない。やめなければならない」
■高齢のアジア系市民の外出に付き添うボランティアも
カリフォルニア州立大学サンバーナーディーノ校の「憎悪・過激主義研究センター」は、地元警察のデータを基に、全米16都市で、犯罪性があり、民族・人種的な偏見の証拠がある事例を取り上げた。その調査結果によると、アジア系が標的のヘイトクライムは、おととし49件だったのに対し、昨年は122件と、3倍近くに増えている。ヘイトクライムの総数が7%減少したこととは対照的だ。
バイデン大統領は就任直後の1月26日、コロナ禍でのアジア・太平洋諸国系の米国人(AAPI)に対する人種差別を糾弾する大統領令に署名した。
米国の各州も後に続いた。カリフォルニア州とニューヨーク州はアジア系への差別に立ち向かう措置の予算を拡充し、ニューヨークでは関連法案が提出された。
しかし、リムさんは「すぐにどうにかなることはないと思う」と言う。
そこで、リムさんをはじめ、地域の一人ひとりが問題に取り組み始めた。オンラインでのキャンペーン、「ストップAAPIヘイト(AAPIへのヘイトを止めよう)」などの団体向けの資金集め、「#NotYourModelMinority(模範的マイノリティーじゃない)」などのハッシュタグを通じた啓蒙(けいもう)活動などだ。
カリフォルニア州全域では、高齢のアジア系市民の外出に付き添うボランティアグループの活動が始まっている。
ジミー・ボウンフェンスィさんも、そうしたボランティアグループを設立。暴行や強奪が続いたカリフォルニア州オークランドのチャイナタウンかいわいをパトロールしている。
「一人でも助けられたら、うれしい」と、ボウンフェンスィさんはパトロール中にAFPに語った。「私や仲間の存在によって、私たちが何としてでも地元を守り、みんなに何事もなく家に帰ってもらおうと思っていることを(住民たちに)知ってもらいたい」
■「条件付き」で米国に受け入れられてきたアジア人
ヘイトクライムの絶対数は比較的少ないままだが、表沙汰にならないケースは多いはず、と語るのは中国系米国人の人権団体「中国人権益促進会(CAA)」の代表の一人、シンシア・チョイ氏。CAAは他の団体と共に「ストップAAPIヘイト」を創設した。
「ストップAAPIヘイト」によると、アジア系米国人を標的にした人種差別の事例についてオンラインで報告を受けた件数は、昨年の3月から12月にかけて全米で2800件以上に上った。
「これほど増えたのは、新型コロナウイルスが流行したのは中国のせいだと非難する傾向と関連している」とチョイ氏はAFPに指摘し、「トランプ氏や一部の議員らによる人種差別的な発言も追い打ちをかけた」と続けた。
ヘイトクライムの急増によって、人々は米国に根強く残る反アジア人感情について思いを致すようになっていると指摘するのは、偏見や人種差別と闘う教育者で、文筆家のリズ・クラインロック氏だ。過去の事例としては、1800年代後半の中国人労働者に対する集団リンチ、中国人排斥法、第2次世界大戦中の日系人の強制収容などがある。
一方で、アジア・太平洋諸国系の米国人に押し付けられた固定観念の一つに、「模範的なマイノリティー」神話がある。多種多様なアジア系移民を画一的に捉え、「白人に近い存在」としてくくるこの考え方により、変化に富んだ歴史が消し去られ、アジア系社会は人種差別とは無縁という幻想を抱かせると活動家らは指摘する。その結果、アジア系市民が人種問題で考慮の対象から外れることも多くなる。
アジア人は「条件付き」で米国に受け入れられてきた、と韓国系米国人のクラインロック氏は言う。「アジア人が尊敬され、重宝されるのは、目立たずおとなしくしている時」と「(米国人の主流派に)同調している時」だけだと指摘し、こう続けた。「でも、そういう時代は終わった」【翻訳編集AFPBBNews】
〔AFP=時事〕(2021/03/18-10:35)
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