「R-1 EPS」がインフルエンザウイルス感染による病原体の侵入を防ぐ肺上皮バリア機能の損傷を抑制
株式会社 明治(代表取締役社長:松田 克也)と昭和大学 医学部微生物学免疫学講座(教授:伊與田 雅之)は、乳酸菌Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R-1(以下、OLL1073R-1株)が産生する多糖体※1(以下、R-1 EPS)が、ヒト肺上皮由来培養細胞において、インフルエンザウイルス感染による肺上皮バリア※2機能の損傷を抑制することを確認しました。本研究成果を、国際科学誌Letters in Applied Microbiology(https://doi.org/10.1093/lambio/ovae029)にて論文発表いたしました。
【研究成果の概要】
ヒト肺上皮由来培養細胞において、R-1 EPSがインフルエンザウイルス感染を抑制しました。
さらに、R-1 EPSはインフルエンザウイルス感染による炎症反応の促進(炎症性サイトカイン※3の誘導)を抑制するとともに、病原体の侵入を防ぐ肺上皮バリア機能の損傷(ZO-1※4遺伝子発現量の低下)を抑制しました。
【研究成果の活用】
インフルエンザウイルスは呼吸器に感染して高熱、咽頭痛などの症状を引き起こします。また、それだけではなく、本感染をきっかけに細菌による二次感染※5が生じ、重度の肺炎になる危険性が指摘されています。本研究成果により、R-1 EPSがインフルエンザウイルスの感染を抑制し、本感染による肺上皮バリア機能の損傷を抑制することで、その後の細菌性肺炎を予防できる可能性が示唆されました。
R-1 EPSのウイルス感染抑制効果は、インフルエンザウイルスだけでなく新型コロナウイルス、ヒトコロナウイルス229Eについても細胞実験で示されており※6、その他さまざまなウイルスについても同様の効果が期待できます。当社は今後もヒト試験および細胞実験での検証を通じて、食品素材の免疫調節作用などを明らかにし、人々の免疫を高めたいというニーズに応えるべく、健康維持増進に貢献してまいります。
【研究の目的】
2022年の論文※7で、R-1 EPSが肺上皮細胞へのインフルエンザウイルス感染を抑制し、その後の黄色ブドウ球菌の肺上皮細胞への接着を抑制する傾向が示されました。一方、細菌の二次感染が生じる要因の1つとして、ウイルス感染による肺上皮バリア機能の損傷が報告されています※8, 9。そこで、細菌の二次感染に対するR-1 EPSの効果をより詳細に解明することを目的に、本研究に取り組みました。
※1 多糖体:糖が鎖のようにつながったものです。菌が作り出す多糖体は菌体外多糖(Exopolysaccharides, EPS)といいます。OLL1073R-1株が産生するEPS(R-1 EPS)は、これまでに免疫機能の指標であるナチュラル・キラー細胞の活性を高める作用、インフルエンザウイルス感染を抑制する作用など、さまざまな免疫調節作用が確認されています。
※2 上皮バリア:上皮細胞は病原体の侵入を防ぐ物理的なバリア機能をもち、そのバリア機能には細胞間接着を担うタイトジャンクション(tight junction, TJ)が重要です。
※3 炎症性サイトカイン:サイトカインは細胞間の情報伝達を担うタンパク質で、その中で炎症を促進する方向に働くのが炎症性サイトカインです。
※4 ZO-1(Zonula occludens-1):TJ関連タンパク質の1つで、上皮バリア機能に重要な役割を担います。
※5 細菌の二次感染:インフルエンザウイルスなどのウイルス感染後に細菌(黄色ブドウ球菌や肺炎球菌など)に感染することです。
※6 第76回日本栄養・食糧学会大会、第18回日本食品免疫学会学術大会で発表しました。
※7 出典:Ishikawa H, et al. Lett Appl Microbiol, 2022, 74(5): 632-639.
※8 出典:Linfield DT, et al. Tissue Barriers, 2021, 9(2): 1883965.
※9 出典:Short KR, et al. Eur Respir J, 2016, 47(3): 954-966.
論文内容
【タイトル】
In vitroにおけるインフルエンザウイルス感染によるタイトジャンクション損傷に対するLactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R-1由来の菌体外多糖の影響
(In vitro investigation of the effects of Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R-1 exopolysaccharides on tight junction damage caused by influenza virus infection)
【方法】
ヒト肺上皮由来培養細胞(A549)にR-1 EPS存在下、または非存在下でインフルエンザウイルスA/PR8 (H1N1)を感染させました。感染後の細胞を12時間培養し、細胞内のウイルス量を測定しました(図1)。また、細胞の炎症性サイトカインおよびTJ関連タンパク質の遺伝子発現量の測定、上皮透過性※10の評価を行いました(図2)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202404179609-O5-iuoo1950】
図1 感染実験の模式図 図2 上皮透過性評価の模式図
【結果】
R-1 EPS存在下でインフルエンザウイルス感染させた場合は非存在下と比べて、
①細胞内ウイルス量が有意に低値でした(図3)。
②TJ関連タンパク質であるZO-1の遺伝子発現量が有意に高値でした(図4A)。
③上皮透過性が低値傾向でした(図4B)。
④炎症性サイトカインであるIL-1β, IL-6, TNF-αの遺伝子発現量が有意に低値でした(図5)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202404179609-O9-4t0VzIPD】
図3 細胞内インフルエンザウイルス量 図4 肺上皮バリア機能
N.D.:Not Detected, 不検出。 (A) ZO-1遺伝子発現量、(B)上皮透過性
-:添加なし、+:添加あり。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202404179609-O10-s9y0Zvu2】 図5 炎症性サイトカインの遺伝子発現量
【考察】
R-1 EPSはヒト肺上皮細胞へのインフルエンザウイルス感染を抑制し、感染による炎症性サイトカイン産生および肺上皮バリア機能の損傷を抑制することで、細菌の二次感染を予防できる可能性が示唆されました。
※10 上皮透過性:細菌由来の毒素などの異物がどの程度肺上皮細胞を透過するかの指標です。上皮バリア機能の損傷が進むほど上皮透過性は高くなります。
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