ジェイ・エス・ビー Research Memo(8):中期経営計画「GT01」は目標数値を大幅に超過達成して着地(2)
2. 成長戦略
(1) 不動産賃貸管理事業
不動産賃貸管理事業の戦略目標では、業務改革と組織改革を最重要課題とする。そして、人間性とテクノロジーの融合、環境配慮型学生マンションの展開、リノベーション事業の確立、海外市場調査、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の組成を推進する。学生マンション事業におけるジェイ・エス・ビー<3480>の強みである「企画・開発・提案力」「募集力」「サービス・管理力」の「三位一体」による一気通貫サポート体制を生かし、企画開発・賃貸・メンテナンス及び食事をはじめとする入居中サービスのそれぞれにおいて顧客基盤の拡大やサービス拡充を図る。そして入居者やオーナーをはじめとした社外各方面との関係性強化を通じ、持続的成長の実現を目指す。
戦略目標の実現に向けて、企画・賃貸・メンテナンス/ファシリティの一連の業務のなかで、次のように計画する。まず、企画開発部門では、大学とのネットワークを活用した物件開発を強化する。直近の事例では、山口大学の吉田キャンパス内で自社所有物件の運営を開始している。毎年、入居のキャンセル待ちが発生するなど好評を博しており、2024年春には2棟目となる別館が完成予定だ。長崎大学では日本人学生と外国留学生がともに暮らす大学寮を建設中、同年春に完成予定である。各大学の協力を得ながら、大学生協とも協働で学生マンション運営を行う。また、M&Aも推進する計画で、地域に根差した不動産企業と同社グループが一体となることで、物件開発の成長を加速させる。さらに、新築物件の省エネ設計の推進や、既存物件の改修による環境配慮型マンションの標準化を進める。最近では、福井県での自社開発物件が省エネ性能を評価する「BELS」認定の最高ランクの5つ星を取得している。
賃貸部門では、情報収集から契約までの手続きにオンラインサービスや書類電子化を取り入れ、これらの流れを一元化するとともに、顧客の満足度だけでなく業務効率の向上、コスト削減を目指す。また、入居者募集においては不動産テックを利用した手法を検討していく。ESGへの取り組みとして、同社所有のマンションにおいてエネルギー消費量の計測を行い定量データを整えることで、省エネ化を推進する。
メンテナンス部門とファシリティ部門では、物件管理戸数の増加に伴いマンションメンテナンスの業務量も増えてくる。そのため利便性の高い入居者アプリの導入や、軽作業を近隣住民にスポットで依頼できる外部サービスを導入する方針だ。また、環境に配慮した設備も積極的に提案する考えで、太陽光発電設備や断熱性の高いガラスなどをマンションオーナーに提案する。さらに、食事付き学生マンションでは、食事の廃棄を抑えるために喫食需要予測や生ごみをバイオ処理できる設備を導入することにより、フードロスを減らすともにスタッフの業務負担軽減にも取り組んでいく。
不動産賃貸管理事業では、入居者である学生の育成サイクル実現を目指している。「UniLife」のコンテンツを生かしながら学生生活での成長を実現し、社会へ巣立って成果を創出し、その評価が学校や次世代の学生に伝わることで、学校からの推奨や学生間の口コミによって新たな入居者が次なる成長を実現する。こうした「UniLife」にしかできない学生育成サイクルを構築し、それを持続的なものにすることで、今後の同事業の成長や新中期経営計画の目標達成につながると考えられる。
(2) 新規事業
新規事業の戦略目標としては、若者成長支援サービス事業モデルの確立、全国へのHR(人材)サービスの提供開始、新ブランド創出によるビジネスサイクルの補完(現在の幼児教室だけでなく、対象を小・中学生から大学卒業後まで拡大する)などを掲げる。
具体的には、日本社会の重要インフラとしての「新価値創造 学生マンション」を目指して、UniLifeのブランド認知度拡大及びブランドイメージ向上を目指す。幼少期から大学生まで、本人や親に向けた事業展開によって、基幹ブランドのUniLifeをより早く、より近くに感じられる施策を展開する。また、UniLifeでしか提供できない顧客体験価値(CX)の提供を図る。多くの体験や学びの場など、他とは一線を画す独自ソフトの提供を目指す。このほかにも社会的価値が高い人材の育成を図る。社会を一変させるような出来事にに相対しても、新しい社会において活躍できる本質的人間力を持った人材、高度IT化社会においても第一線で活躍できる人材の育成を目指す。こうした新規事業分野における各取り組みと、主力の学生マンションや入居者とのつながりによって、同社グループ全体としてのシナジーを追求する計画だ。
3. ESGへの取り組み
同社では、「豊かな生活空間の創造」を経営理念として掲げており、ESGにも積極的に取り組んでいる。社会(Social)では、学生支援への取り組みとして、「学生下宿年鑑2024 表紙デザインコンペ」を実施したほか、“学びのマンション”プロジェクトとして、学生マンションの入居者を対象とした野菜収穫イベントを開催し、いずれも学生が成長し知見を広げるための一助となっている。環境(Environment)では、低炭素型社会実現へ向けて、京都市を中心に取り組む「Release⇔Catchプロジェクト」に参画し、古着の回収を行っている。ガバナンス(Governance)では、新たにTCFD(国際的な金融システム安定を目指す金融安定理事会(FSB)により設置された、気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に沿った情報開示として、長期ビジョン「Grow Together 2030」の最終年である2030年において、気温上昇を2℃未満に抑えるシナリオ、気候政策を導入しないシナリオを前提としてリスクと機会を特定した。今後さらに分析を進め、それに応じた戦略の検討を行う計画だ。このように、同社グループは業績拡大を目指すだけでなく、ESGにも積極的に取り組んでいると評価できる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)
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