日産東HD Research Memo(4):集約化、ベストプラクティス、「技術の日産」が強み
2. 日産東京販売ホールディングス<8291>の強み
同社の強みは、カーライフのワンストップサービスと、事業のバックボーンである「技術の日産」にある。カーライフのワンストップサービスは、同社の拠点であればどこでもその1拠点で、新車や中古車の販売、個人リース、車検・定期点検・整備・修理といったアフターサービス、カーナビゲーションシステムやドライブレコーダーなどオプション部用品の販売、保険や金融商品(クレジット・リース)ほか関連サービスなど、カーライフに関するすべての満足を顧客に与えることができる。また、同社にとっても、企業収益を安定化させるストックビジネスとなり、さらに、中古車の買取を通じて新車を買ってもらうことでバリューサイクルをつくることができる。こうしたワンストップサービスのサイクルが同社の強みであるのは確かだが、実はこのサイクル、どのディーラーもほぼ同様に行っている。したがって同社の真の強みは、サイクルそのものというよりサイクルをスムーズに回して収益を上げる仕組みにあり、その仕組みの背景にある「集約化」と「ベストプラクティス」なのである。
3販社が1つのグループとなった結果、まず他の会社でよくある同系列の異なるディーラーによる同一車種の値引き競争がなくなる。また、言ってみれば一気に3倍の規模になったのだからスケールメリットも生じる。もちろん、共通コストの集約や配送・整備の共同化などのメリットも生じる。さらに3販社は、グループ化した2011年以来情報活用の場として共有会議を続けており、それぞれが有するベストプラクティスを水平展開している。その結果、販促や営業のヒット率が上がり、上級グレードやオプションなどの提案力が向上し、1台当たり販売単価が上がった。東京という高コストのエリアに立地していながら、3%という自動車ディーラーとしては相対的に高い営業利益率を上げることができる理由でもある。また、ヒット率向上には、3販社の延べ30万台に上る膨大なビッグデータが欠かせない。それを解析できる東京日産コンピュータシステムの存在もまた欠かせない。このように、グループ化によって同社の自動車販売は非常に機能的・効率的になったとはいえ、分社していることによる限界はやはりある。したがって、今般の統合によってさらに強みを発揮することを狙っているのだ。
数年前は一時新型車の発売が散発的となるなど、日産系ディーラーは苦労する時期もあった。しかし、世界がカーボンニュートラルを目指しガソリン車全廃へ動き出すなど、先行していたEVが日増しにフォーカスされるようになり、日産自動車も低迷から脱するスピードが増しているようだ。背景にあるのが「CASE※」と呼ばれる新しい領域での技術革新で、これにより自動車の概念が大きく変わりつつある。日産自動車は「技術の日産」と言われ、元来技術力に定評があり、電動化や知能化、コネクテッド化などの技術を蓄積してきた。そうした技術を訴求したTVCMなど「やっちゃえNISSAN」のキャンペーンが奏功し、今やEVのパイオニアとしてのイメージが定着した。さらに、こうした技術力を背景に、ここ数年少なくなっていた新型車の投入を増やす計画を着実に進めている。東京でほぼ唯一、そうした「技術の日産」車を扱えるディーラーであることも、同社の強みと言える。
※CASE:Connected(つながる)、Autonomous(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)のこと。
日産自動車は先端的な新型車を次々発売する計画
3. NISSAN INTELLIGENT MOBILITY
日産自動車の技術と攻勢を示すキャンペーンコンセプトとして「NISSAN INTELLIGENT MOBILITY」というものがある。自動車が運転者をパートナーとして認識し、コミュニケーションを取り、学習し、予測し、充電する、そのような先進技術を表現している。運転者が安心してドライブするだけでなく、周囲の世界とつながる新たな体験ができる、まったく新しいドライビングを提供することを目指している。そして究極的には「ゼロ・エミッション(排出ガスゼロ)」、「ゼロ・フェイタリティ(交通事故死ゼロ)」の社会を実現することを目的としている。これに沿って、日産自動車は2023年度末までに、先端技術を搭載した新型車を国内で次々発売する計画である。特に強みとなるのが自動運転化と電動化の技術で、自動運転化の技術では、20の市場で20を超える商品にドライバーアシスタントシステムのプロパイロットを採用、プロパイロット搭載車の年間販売台数を150万台超にする計画である。電動化の技術に関しては、既に市場投入しているEVとe-POWERの強化を図り、8車種を超えるEVを投入するとともに、普及タイプの車種にまでe-POWERを搭載していく予定である。そして、電動化率を日本60%、中国23%、欧州50%へと向上、年間100万台以上の電動化技術搭載車の販売を目指している。
日産自動車は、こうした中期的目標に沿って、2021年3月期~2022年3月期上期の間に12の新型車を投入する計画である。2021年3月期には軽自動車「新型ルークス」、「新型キックスe-POWER」、「新型ノートe-POWER」など発売した。軽自動車「新型ルークス」は、軽自動車とはいえ、全方位の先進安全技術を搭載、プロパイロットやSOSコールなども備えており、自動車選びで最も優先される安全性の面で高い評価を得ている。「新型キックスe-POWER」はe-POWERのみの設定で、エクストレイルよりひと回り小さく、これまで日産になかったサイズであることから、激戦区のSUVカテゴリーで純増効果が期待される。「新型ノートe-POWER」は日産を代表する大ヒット車の最新型モデルで、同社としても売上利益への期待は自然と増す。これもe-POWERのみの設定である。2022年3月期は、「フェアレディZ」や「オーラ」など高級タイプの新型車投入が期待される。中でも新型クロスオーバーEV「アリア」は、新世代の電動化技術・自動運転化技術・新開発の4輪制御技術e-4ORCE、コネクテッド技術を搭載し、EVの課題といわれる走行距離でも最大610kmという長距離化を可能にした。未来的なスタイルに圧倒的なパワーを誇る、「NISSAN INTELLIGENT MOBILITY」を象徴する自動車になりそうだ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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