アンジェス Research Memo(5):新たなシーズを求めて、海外のバイオベンチャーと共同開発契約及び資本提携締結
アンジェス<4563>は新たなシーズを求めて2018年7月にカナダのVasomuneと共同開発契約を締結したほか、イスラエルのマイバイオティクスと資本提携を締結したことを発表した。
1. Vasomuneとの共同開発契約を締結
Vasomuneはカナダのトロント大学傘下のサニーブルック研究所から2012年にスピンアウトした創薬バイオベンチャー企業で、血管不全(血管透過性制御機構の破たんにより血管から血漿成分や白血球が漏出する状態)に起因する炎症性の疾患に対して、血管透過性の亢進を抑制する働きを持つTie2受容体アゴニスト※の開発に取り組んでいる。血管漏出に起因する疾患としては、敗血症やARDS、喘息、アナフィラキシーショック、糖尿病網膜症、がんなどがある。
※アゴニスト…特定の受容体に特異的に結合して、受容体を活性化する物質(例:薬物、ホルモン、神経伝達物質)。
同社は対象化合物について全世界を対象とした開発を共同で進め、開発費用と将来の収益をそれぞれで折半していく共同開発契約を2018年7月に締結し、契約一時金と開発の進捗に応じたマイルストーンを支払うことで合意した。最初の適応疾患としてARDSを想定した非臨床開発を実施し、2年後の2020年頃を目処に臨床試験を開始することを目指していく。その後POCを獲得した段階で、製薬企業にライセンスアウトすることを想定している。同社はHGF遺伝子治療薬の開発を通じて蓄積してきた血管疾患に関する知見とノウハウを今後の共同開発で生かしていくことになる。
ARDSは外傷や肺炎、輸血など様々な原因で起こる重症の呼吸不全で、これら症状は主に肺の毛細血管から血液成分等が漏出し、肺胞によるガス交換を妨げることによって引き起こされるメカニズムとなっている。対象化合物を投与することで、血管漏出を抑制することで症状の改善が期待される。薬効に関しては、試験管レベルでTie2受容体に高い選択性と強い親和性のあることが確認されているほか、動物の疾患モデル※に対しても低用量で有効なデータが確認されている。
※ARDS、急性腎障害、アトピー性皮膚炎、糖尿病性潰瘍、脳卒中、脳浮腫、がん転移等。
今回、ARDSを最初の適応疾患として選択したのは、ARDSが血管透過性制御機能の破たんが発症の根本原因であること、また、根治療法がいまだなく、有効な治療薬の開発が望まれていることなどが理由となっている。ARDS治療薬が今まで開発できなかった理由としては、血管透過性亢進を直接抑制する薬剤がなかったことやARDS患者の病態が多様であったことなどが挙げられる。ARDS治療薬が開発できた場合の潜在的な事業機会は、世界で25億ドル以上あると見られており、今後の開発動向が注目される。
2. MyBiotics Pharmaと資本提携
同社はマイクロバイオーム事業の可能性を探索するため、2018年7月にイスラエルのバイオベンチャーであるマイバイオティクスと資本提携を締結したことを発表した。マイクロバイオーム(微生物叢(びせいぶつそう))の研究は2000年に入ってアカデミアを中心に活発化し、最近では大手製薬企業も開発を進めるなど次世代の医薬研究開発分野として世界的に注目が集まっている分野であり、同社も同領域での事業化の可能性を探るべく今回の資本提携を決定した。出資額の規模については非開示だが現時点では少額と見られ、今後具体的な協力の可能性を検討していくとしている。
マイバイオティクスは2014年に設立され、マイクロバイオーム業界のパイオニアとして、世界に先駆けて腸内細菌を含む常在菌の培養、並びに製剤化(経口薬)の技術を開発した企業として知られている。特に製剤化については、経口薬として目的の部位に届くまで菌の生存を維持する技術が難しいとされており、マイバイオティクスの強みとなっている。既に、開発パイプラインの中で胃腸疾患や婦人科系疾患についてスイスの大手製薬企業であるferringとライセンス契約を締結し、製品化(医薬品、サプリメント)を目指しているほか、感染症や抗生剤使用による下痢症等についての開発を進めている。
マイクロバイオームに関しては、胃腸疾患、感染症、炎症疾患、肥満、糖尿病、自己免疫疾患のみならず、自閉症などの精神疾患にも関係しているとの報告もあり、医薬品に限らず健康食品やサプリメントなど幅広い適用が可能な領域であることが特徴となっている。将来的には医薬品を使わずに自分自身で健康を維持、管理するセルフメディケーションの市場が拡大していく見通しで、マイクロバイオームはその中で主役となる可能性もあるだけに、今後の動向が注目される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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