ウォール街を知るハッチの独り言 世界の証券取引所を見てきた話(マネックス証券チーフ・外国株コンサルタント 岡元 兵八郎)
そのなかから今回は、同証券のチーフ・外国株コンサルタント、『ハッチ』こと岡元兵八郎氏のコラム「世界の証券取引所を見てきた話」の内容をご紹介いたします。
今年に入り久しぶりにニューヨーク証券取引所(NYSE)を訪問する機会を得ました。
証券取引所は、株式の価値を決める重要な機能を持つ資本市場の要です。
1792年に24人の株の取引業者がボタンウッドという木の下で集まって株の取引を行ったのがNYSEの起源として知られており、アメリカの金融業界における重要な歴史的な出来事とされています。
今や世界中の証券取引所の取引は電子化され、取引所のフロアでは人の姿を見ることができなくなっていますが、NYSEは未だ取引所のフロアにはスペシャリストという一部の株式の値決めを行う人たちがいる世界唯一のハイブリッド型の取引所です。
そんなNYSEでは毎日取引開始と終わりを告げる鐘が鳴り響き、その様子は特に株価が乱高下すると日本のテレビのニュース番組でも中継されることがありますから、皆さんもご覧になった方は少なくないでしょう。この朝夕のセレモニーは世界中の映像メディア経由でライブ配信されており、世界中で毎日少なくとも1億人の人たちが見ていると言われています。
20年以上前のことですが、私は一度この鐘を鳴らすセレモニーで取引所のポーディアムに登壇すると言う貴重な経験をしたことがありました。
私たちの年金が外国株で運用される時にベンチマークとして使われている株価指数「MSCIコクサイ」と呼ばれる、世界株から日本株を抜いた株価指数があります。その株価指数に連動するETFがNYSEに上場したのを記念し、取引開始のオープニングベルのセレモニーに日本の証券関係者が参加できることになり、私は日本にあるアメリカの証券会社の代表として招待されたのです。
まずはNYSEに到着すると、コーヒーやお菓子がたくさん用意された応接室に通され、セレモニーの行われ方が説明されます。その後時間が来ると、取引所のフアにあるポーディアムに私を含む20人くらいの米国株業務関係者が通され、この日はETFの運用会社の責任者が取引開始の鐘を鳴らすのです。周りの私たちの仕事はというと、鐘が鳴る前から握手をし、上場を祝福するのです。テレビで見ると、鐘が鳴っている音が聞こえますが、実際はというとポーディアムにあるボタンを押し続けると鐘が鳴る仕組みとなっています。
私はこれまで世界81カ国を訪問したのですが、仕事は一生を通して外国株だったこともあり、新しい国を訪問する場合、できるだけその国に株式市場があることを確認して証券取引所を訪問することにしています。仕事が趣味というか、趣味が仕事みたいなものなのです。そんなこともあり、世界中の証券取引所を訪れたのですが、今でも記憶に残っているのはアフリカの証券取引所です。
今や国の豊かさや貧しさは関係なく、ほとんどの国に株式市場があるか、ない場合は設立されつつあります。
アフリカ大陸南東部にあるジンバブエの首都ハラレにある証券取引所は設立が1896年と歴史ある証券取引所です。
この取引所は、政府系ビルの大きな会議室にあるのです。大型テーブルの周りに取引所会員証券会社を代表するトレーダーが囲み、証券会社の本社から注文が入ってくると口頭で取引をマッチさせるという昔ながらの方法で取引が行われていました。その後コンピューター化されると聞きましたので、今はすでに人を介さなくなっているのだと思います。
また、多分世界で一番時価総額が小さいであろう証券取引所は同じくアフリカ南部にある当時スワジランド(現在エスワティニ王国)でしょう。人口約120万人の国にあるこの取引所は、スワジランドの中央銀行の建物の中の1フロアの一角にある小さな部屋にありました。当時上場しているのは数銘柄しかなかったのですが、その取引はホワイトボードに株価と買い売りの株数が書かれており、取引所の担当者が商いを成立させると言う非常にマニュアルなオペレーションが行われていたのです。今どうなっているかは不明ですが、機会があればまた訪れたいと思います。
私は月に一回、東京証券取引所の中にある、金融情報チャンネルのスタジオで、米国株マーケットについてお話しするのですが、ここも完全に完全自動化されもはや人を見ることはありません。
世界最大の株式市場であるニューヨーク証券取引所ですが、株価が大きく下がるとトレーダーが悲しそうな顔を、株価が上がると嬉しそうな顔が見られる喜怒哀楽のある世界最大の取引所、ぜひ今後もこのような形で取引を行ってもらいたいと思います。
マネックス証券 チーフ・外国株コンサルタント 岡元 兵八郎
(出所:3/4配信のマネックス証券「メールマガジン新潮流」より、抜粋)
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