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コラム【新潮流2.0】:宇宙旅行とWe are 99%(マネックス証券チーフ・ストラテジスト広木隆)


◆イーロン・マスク率いるSpaceXが打ち上げたCrew Dragonが3日間地球を周回した後、フロリダ州ケネディ宇宙センター沖に無事着水した。Inspiration4と名付けられたこの宇宙旅行は、民間人だけによる有人宇宙飛行としては世界初。スポンサーは起業家で大富豪のジャレド・アイザックマンだ。 これに先立ってアマゾン創業者のジェフ・ベゾス、ヴァージン・グループ創業者のリチャード・ブランソンらも宇宙旅行に成功している。新時代の幕開けとの声があがる一方で、結局、宇宙に行けるのは大金持ちだけ、という現実もある。

◆宇宙旅行から帰還したべゾスのコメントが批判を呼んだ。「Amazonのすべての従業員と、Amazonのすべての顧客にも感謝したい。なぜなら君たちがこのすべての代金を支払ったのだから」。 米ABCニュースは、かつては人類の卓越した技量とアメリカの創意工夫の頂点として敬愛されていた宇宙飛行が、「超大富豪の数ある遊び場のひとつに過ぎず、足元の地球で連綿と続く根強い不公正を思い出させる存在」に成り下がってしまった、と報じた。「億万長者は地球にも宇宙にも存在すべきでない。べゾスは地球に帰ってくるな」とのネガティブ・キャンペーン・サイトには約20万もの署名が集まった。

◆Inspiration4のミッションのひとつは、小児がん治療で有名なセント・ジュード小児研究病院への寄付金集めであり、アイザックマン自身、1億ドルの寄付を行っている。ジェフ・べゾスは日本円に換算して年間1兆円を超える額の寄付を行っている。それでも批判はやまない。 折しも、Crew Dragonが地球に戻った18日の前日、9月17日は「ウォール街を占拠せよ」の運動からちょうど10年の節目。2011年9月、ニューヨーク証券取引所からほど近いズコッティ公園に数百人のデモ隊が集結し格差是正などを求めて約2ヶ月間占拠した。 それから10年が経ったが、当時のスローガン「We are 99%」「99%vs1%」は現在でも格差社会を象徴する標語として使われている。格差は是正されていない。是正されるどころかさらに拡大しているのだ。一向に改善しない状況に多くのひとが失望し、特に若者の間で資本主義に対する懐疑的な見方が増えている。まさに資本主義の危機である。

◆資本主義とは「差異」を利潤に変えるシステムだ。大昔は地理的差異が利潤の源泉であり、遠隔地との貿易が富を生んだ。やがて「情報」の格差が利潤の源泉となる。ところがいまやグローバル化と通信網の発達で、この地球上で「差異」を生むものはなくなってしまった。残されているのはサイバー空間と宇宙だけだろう。 成功した起業家の大富豪、つまり資本主義の勝者たちが我先にと宇宙に向かうのは資本主義の当然の帰結だ。しかし、彼らと地上に残された者との距離はますます遠くなる。いつか再び格差是正の抗議運動が起きる時、そのスローガンは「99%vs1%」では足りず、天文学的数字が必要となるかもしれない。


マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆
(出所:9/21配信のマネックス証券「メールマガジン新潮流」より抜粋)


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