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「だから今日も飲む」 言い訳重ね依存症 「私」投影、小説に


 飲酒は楽しみ。仕事はできているし、体も大丈夫。だから今日も飲むし、明日もきっと……。そんな「言い訳」を重ねてとめどなく飲み続けた自らのアルコール依存症体験と、自助グループ「断酒会」の取材をもとに執筆した小説「12階段狂詩曲(ラプソディ)」(南の風社)を2023年7月に出版した。

 高知市の臼井志乃さん(47)。幼いころから酒豪の父が飲酒する姿を見て、「大人は酒を飲むもの」と思い込んで育った。成人してからは文字通り「毎日飲酒」。大学卒業後、薬剤師として働くようになってからも「疲れを癒やすには必要」と晩酌を欠かさなかった。日々の仕事に支障はなく、「日本酒なら4合程度。アルコール量で言えば86グラムくらい。飲み会に行くと一升くらいはいけた」と振り返る。

 しかし、意識をなくすほど飲み続ける姿を見かねた娘から「お酒を飲んだお母さんは嫌やき」と言われ続けてきたことが心のどこかに引っかかっていた。「飲酒の量を減らしたい」と思い立ち、21年1月、高知市で週2回開かれている断酒会に足を運んだ。全国各地にある断酒会は、アルコール依存症者がそれぞれの経験を共有し、依存からの回復を目指す集まりだ。

 参加して衝撃を受けた。「アルコール依存症の人と聞くと、見た目も体もボロボロというイメージがあったのに、みんなごく普通の人たちでした」。しかし話を聞くと、どの人生も壮絶だった。失職、借金、家族崩壊…。ギャンブル依存と複合していたケースもあった。断酒に成功した当事者と接して「アルコール依存症からは回復できない」という思い込みも消えた。「曇っていたガラスがさっと明るくなったような気がしました」

 通い始めて3カ月が過ぎたころ、ある思いがわき上がってきた。「私も依存症ではないか」。断酒会メンバーの話を聞き、自身にも当てはまる部分があった。依存症は否認する症状と言われる。それまでは「量を少し減らして楽しく飲めれば問題ない」と思い、自分が依存症だとは疑いもしなかった。だが専門医の診察を受けると、アルコール依存症と診断された。すぐに断酒を決意。ついつい飲んでしまったことも数回あったが、翌日には断つことができた。今は一滴も飲まない生活を送る。

 「この体験と断酒会で得た知識を広く伝えたい」と、22年秋ごろから小説を書き始めた。自らを投影した女性を主人公とし、当事者として参加しながら取材した断酒会の内容をもとに登場人物の悲喜こもごもを描いた。専門医にも取材し、飲酒時に脳内で起きている神経の詳しい仕組みのほか、ギャンブルや性などアルコール以外の多様な依存症についてもまとめたのが特徴だ。タイトルには、断酒会で掲げられる指針「回復のための12ステップ」と「処刑台の13階段の一歩手前」という意味をかけた。

 依存症は身近な問題だ。ささいなきっかけで誰もが陥る可能性がある。だからこそ多くの人に読んでもらい、実態を知ってほしいと願う。次作は市販薬の過剰摂取(オーバードーズ)をテーマに書きたいと考えている。【小林理】

臼井志乃(うすい・しの)さん

 高知県室戸市生まれ。現在は高知市在住。薬剤師として病院に勤務している。「12階段狂詩曲」(税込み1980円)は東楚乃(あずまその)のペンネームで執筆した。2020年には発達障害の青年の手記をまとめた「ギザギザハートのアスペルガー」(リーブル出版)を出版。23年11月に同書をもとにした演劇が東京で上演された。

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