2畳ほどの冷凍庫を改装した小さな工房。ここから、動物を題材にしたユーモアあふれる可愛い木工作品を生み出すのは、北海道遠軽町の「ハナノ工場」を営む三浦毅さん(54)だ。
作品は天然木の色味を生かして着色しない。動物の身長は3センチ前後で、ほとんどが手のひらに納まる。卯(う)年にちなんだ作品は、ウサギが餅つきしたり、和楽器を奏でたり。来年の辰(たつ)年に向けては、竜がトイレにしゃがむ「タツだけど座る」や、ウサギと竜が共演する作品などを用意した。
ダジャレや冗談も作品にし、見ていると思わず笑みがこぼれ、癒やされる。売れるかどうかより、思いついたものを形にする。そんな作品が今、人気を呼んでいる。
三浦さんは高校卒業後、運送屋や美容室など仕事を転々とした。25歳で地元・遠軽に戻り、電気屋勤務に。電気工事士として1人で現場で働くのが性に合い、38歳で独立した。
木工との出会いは約20年前。家具店で見たおしゃれなテーブルを「自分でも作れないかな」と思ったのがきっかけだった。父の趣味が木工で、機械がそろっていた。「下手くそなりにテーブルが作れたことで、木工の面白さを感じた」
そこから作品作りにのめり込む。「木工で見たことがないもの」「世の中でありそうでないもの」「くだらないもの」。思いついたものは何でも作った。
2012年ごろ、遠軽町で秋に咲き誇るコスモスの花を作品にし、地元で販売を始めた。屋号を考えるとき、祖母ハナノさんが「工房」を「工場」と呼んでいたことが思い出された。祖母の名前とコスモスの花を重ねた「ハナノ工場」としてスタートを切った。
電気工事士と木工作家の二足のわらじをはいていたが、21年6月にX(ツイッター)で餅つきをするウサギが人気となり、「あっという間に1年待ち」の代表作に。木工作家専業の道を歩み出した。
昨年末、東京・銀座三越の「えと」の作品展に出品すると、開始からわずか40分で完売した。今年も今月13日から同店ギャラリーで開かれる作品展に作品の数々を出品する。
なぜこんなに可愛い作品が生まれるのか。「手先も不器用で、自分でも分からない。強いて言うなら人を驚かせることは好きだった。あとは、根っからの飽き性だからこそ、新しいものを作るのが楽しい」と笑う。
自分が作りたいものに、なりふり構わず熱中してしまう。少年のような愛嬌が、三浦さんの作品に宿る。【貝塚太一】