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奈良の維新知事「凄いよ」吉村氏が称賛 その影で「不誠実」の声


 日本維新の会公認で初当選した山下真・奈良県知事(55)が、就任から半年を迎えた。維新公認の知事は、大阪府に次いで2例目。前知事時代に計画された大型公共事業に待ったをかけ、捻出した財源で高校教育無償化に道筋をつけるなど、旗印の「改革」を印象付ける手腕を見せている。一方、政策決定を巡る議論や情報公開のあり方には「不透明だ」との声も上がる。

 「『ハコモノ中止』で生まれた財源で実現のめどが立った」。山下知事は10月18日の記者会見で胸を張った。この日、県内私立高校の授業料の公費負担額を来年度から大幅に増額すると発表。世帯年収380万円未満の家庭に生徒1人あたり最大57万円としていた条件を、世帯年収910万円未満に最大63万円まで拡大するのが主な内容。1億1600万円だった年間の関連予算は、10倍超の13億円を確保した。

 公約に掲げた所得制限のない完全無償化は道半ばだが、2026年度に完全無償化が実現する見通しの大阪府や、世帯年収590万円までの家庭に年65万円を負担している京都府を例に「近隣府県の条件に近づいた」と強調。会見後、維新共同代表の吉村洋文・大阪府知事は自身のX(ツイッター)で「公約を実現すべく前進する山下知事、凄(すご)いよ。奈良行政を前へ。」と持ち上げた。

大型事業を見直し、廃止・縮小

 戦後、公選制となっても官僚や県職員出身者による知事が続いた奈良県。弁護士でもある山下知事は初の民間出身だ。東京大卒業後、新聞記者を経て00年に弁護士登録。06~15年には同県生駒市長も務めた。4月の統一地方選で初当選し就任は5月3日。初登庁した同月8日、早速「これまでの政策や慣例を大きく変える」と宣言した。続いて幹部らに指示したのが、前知事が進めた大型公共事業中心の予算編成の大幅な見直しだった。

 720億円以上を投じて2000メートル級滑走路を備える計画の防災拠点整備▽県中部での新大学設置構想や球技専用スタジアムなどの建設▽31年開催見込みの国民スポーツ大会に向けた新陸上競技場など各種施設の建設。数々の大型プロジェクトについて、山下知事は「なぜ実施が決まったのか経緯が不明確。費用対効果も検証されていない」と批判した。就任1カ月余りで20を超す主要事業を廃止・縮小すると決めた。

 「徹底した行財政改革」を選挙期間中に訴え、早々に実行してみせた形だ。一方で県議会(定数43)は、三つに分かれていた自民系会派が合流。過半数の最大会派を結成し、「維新県政」に対抗する構えをとった。

 事業の見直しに伴い、前知事時代に編成された23年度当初予算のうち関連経費74億円が浮くことになった。知事はこの経費を予算から減額せず、支出を見送る「執行停止」という手段をとった。減額は予算の補正手続きで議会の議決を得る必要があるが、執行停止なら知事の裁量で可能だ。「税金が無駄に使われないよう急いで止める必要があった」と主張する知事に対し、自民会派は「補正議案を出して議会で議論されるのを避けるのが狙い。不誠実だ」と憤る。

 事業を中止した一方で、代替となる地域活性化などの具体策がなかなかまとまらず、事業の計画地だった自治体からも不満が漏れる。国体に合わせた陸上競技場などの建設が白紙化した橿原市では、10月の市長選で自民県連が推薦する現職が維新公認の元職を破って再選された。維新候補の応援に入っていた知事を「議論のテーブルにさえ着こうとしない」と批判した。

 「民間の経営感覚を持ち込む」とうたい、スピード感を強調する半面、情報公開への姿勢には疑問符が付く。

議事録を作成しないよう指示

 事業見直しを巡る庁内の議論について6月、議事録を作成したり録音をしたりしないよう、知事自らが指示していたことが明らかになった。「前任知事の政策を否定することになるので、記録を残すと職員が意見を言いにくくなる。自由闊達(かったつ)な議論のためだった」と主張する知事。これに対して自民会派は、公文書の作成・管理方法を定めた県の規則に抵触すると問題視する。

 県の行政文書管理規則は、経緯も含めた意思決定に至る過程が後々検証できるよう、軽微なものを除いて文書の作成を義務付けている。県議会の再三の追及で県側はこれまでにA4判用紙計19枚の記録があることを明らかにしたが、いずれも事業の担当職員や部署が控えた簡素な内容で、知事の発言要旨などが記されているのみ。

 「議事録を残さない方が適切な場面もある」とし、山下知事は問題がないとの立場だ。しかし、それぞれの事業を廃止・縮小することで生じる地元への影響など、検討経過の詳細は分からないままだ。

 「選挙で示された県民の判断だ」と語り、自身の政策判断は「民意」を受けたものだとする山下知事。一方で県議らも同じく、有権者の民意を受け当選した立場。県議会で知事の情報公開の姿勢について再三質問している自民の疋田進一県議は「事業が見直されることになった意思決定の過程を県民が知ることができないのは問題だ。職員の自由な議論のためという理屈は通じないのでは」と語る。

 情報公開制度に詳しいNPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は「記録は意思決定が妥当であることを行政機関が証明するためのものだ。『自由な議論のため』というのは、残さない理由にならない。今後も同じようなことが続けば、権力の乱用にもつながりかねない」と指摘する。【吉川雄飛】

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