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リニア中央新幹線計画 大動脈輸送で災害に備え JR東海・金子会長


 JR東海の金子慎会長が7月10日、大阪市内で開かれた毎日新聞大阪本社主催の異業種交流組織「毎日21世紀フォーラム」で「高速鉄道の発展と超電導リニアによる中央新幹線計画について」と題して講演した。金子会長は、東海道新幹線に始まる高速鉄道の歴史、リニア中央新幹線のメリットや建設に至る経緯、進捗(しんちょく)状況などについて語り、約200人が聴き入った。【まとめ・山本直】

 鉄道はイギリスで1825年に開通し、10年余りでヨーロッパからロシア、そしてアメリカ、カナダへと広がりました。日本では明治政府が開国するや鉄道の建設を決定しました。国の発展に欠かせないという認識があったからです。便利さだけでなく、人と人が交流して経済・文化の発展を実現するという役割は現在も鉄道事業者の使命です。

 戦後経済が復興する中、東海道線の輸送力が逼迫(ひっぱく)しました。解決策は①東海道線の線路を増やす②狭軌(1067ミリ)の別線を敷く③広軌(1435ミリ)鉄道の新設――の三つ。狭軌、広軌とはレール間の広さで、イギリスをはじめ世界の標準は広軌、日本は狭軌です。日本は急いで国中に鉄道を広げるため、建設費が安い狭軌にしたと言われています。ただ、広軌のほうが安定するし、スピードも出せます。結局、広軌での新幹線建設が決まり、1959年に着工、64年に東京―新大阪間が開業し、東京―大阪間の到達時間6時間半が約半分に短縮されました。

 決定的なポイントは広軌の専用線で新幹線を建設したこと。他と乗り入れできない代わりに、それまで採用できなかった最新の技術を一気に総動員して技術革新を成し遂げることができたのです。JR東海が新幹線のスピードアップを図り、輸送量を増強していく上でも大きな力となりました。専用軌道でなければ1時間に最大17本もの運転は実現できませんでした。

東海道新幹線、モデルチェンジ重ねて

 国鉄時代は財政難で新幹線も大きな発展が見られませんでしたが、JR東海は使命である東海道新幹線の発展に経営資源を投入しました。代表的なのが5回にわたる車両のモデルチェンジです。国鉄時代は0系でスタートし、末期に100系車両ができましたが、東海はこれまでの36年間で共同開発を含め300系、700系、N700系、N700A、N700Sと積極的に車両を更新しました。

 更新の度にスピードアップし、現在は東京―新大阪間を最速2時間21分で結んでいます。乗り心地を良くし、エネルギー効率も改善しました。編成数は発足時、全体で99編成でしたが、利用増に伴い2022年度末時点で134編成となっています。

 03年、のぞみ中心にダイヤを組むようになりました。東京での折り返し時間を短縮するなどして現在1時間に最大のぞみ12本、ひかり2本、こだま3本を走らせています。会社発足当初は1日231本でしたが、19年度は378本と64%増加しました。

 チケットレス乗車の推進にも力を入れました。「エクスプレス予約」を拡大し、今では「スマートEX」と合わせて約50%がネット予約です。切符購入で並ぶ必要がなく、直前まで変更できます。03年以降ののぞみ増発も含め、サービス向上が利用増に結びつき、02年の利用者を100とすると、18年は142。実質GDPの114を大きく上回る伸びを見せています。

 鉄道の持つ力は品川駅開業でも成果を上げました。新幹線の駅ができたことで海側にもビルが建ち、大きく発展しました。東京か新横浜へ出ていた方が品川駅を利用できるようになり、開業時に品川駅と東京駅合わせて20万8000人だった利用者は5年後には23万7000人に増えました。便利さが利用を誘発したといえるでしょう。

リニア、まず品川―名古屋間で

 中央新幹線は現在、品川―名古屋間の工事が始まっています。駅は間に四つ。名古屋―大阪間はルートや駅が決まっておらず、名古屋開業後、以西の着工をする予定です。品川―名古屋間は東海道新幹線で約360キロありますが、中央新幹線は内陸ルートで直線的ですので2割短い286キロ。86%がトンネルです。時速500キロの超電導リニアで走ると品川―名古屋間は40分、大阪まで67分ぐらいで結びます。建設費は品川―名古屋間で7・04兆円の見通し。JR東海の負担です。民間企業ですので健全経営、安定配当を堅持しながら進めています。

 リニアの技術開発は1962年に国鉄で始まり、宮崎県に実験線がありました。JR東海になってから、超電導リニアでの実用化の検討を進め、将来営業線に転用することを見込んで97年、山梨県に実験線を建設。国土交通省の超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会で2005年、実用化の基盤技術が確立したと認められました。

 中央新幹線は全国新幹線鉄道整備法で造る計画でしたが、国の財政事情が大変厳しく、他の整備新幹線のように国や地方自治体の費用負担をあてにしていてはいつできるか分からないので自己負担に決定しました。行政の手続き、環境アセスメントも済ませて14年10月に国交相の工事実施計画の認可を受けました。建設費が巨額ですので、名古屋開業後、経営体力を回復させてから大阪までを完成させる計画です。

 リニアは従来と走行方式が異なります。鉄軌道での時速500キロ走行は車輪が空転する可能性があるため困難ですし、架線とパンタグラフの摩擦が大きくなるので集電も難しい。それに大きな出力を得るには大きなモーターと変圧器が必要ですが、重くなりすぎます。

 それを解決したのが超電導浮上走行です。磁石の制御、そして500キロ走行での地上との通信技術だけでは実現しません。▽車両の軽量化▽いざという時のブレーキ▽高速での良好な乗り心地▽騒音対策――などに新幹線の技術を総動員し、大きな技術革新を達成したのです。

地域間交流進み、巨大経済圏誕生へ

 リニア中央新幹線の役割は大きく三つあります。

 東海道新幹線のバイパスをつくる直接の目的は大規模災害への備えにあります。東海道新幹線は南海トラフ大地震の想定震度が高いところを通過していますが、中央新幹線は内陸を通るのでリスクが少ないですし、そもそもリニアは地震に強いのです。U字形のガイドウエーに囲われているので脱線しない構造となっており、強い磁気ばねによって車両がガイドウエーの中心に制御される性質があります。また、地下深くは地表面より揺れが小さいとされています。

 次にスピードアップで地域間の交流が深まります。完成すれば首都圏、中京圏、近畿圏を合わせた巨大経済圏「スーパー・メガリージョン」が誕生し、ほぼ1時間で行き来できるようになります。人口でいうと6615万人。日本の人口の半数を超える巨大都市圏が成立するのです。交流の密度が濃くなり、経済取引が活発化。知識の集積を生み、科学文化発展の契機、力になります。

 東海道新幹線の利便性も向上します。リニアが開業すれば、のぞみ利用者の一部がシフトすることが見込まれます。のぞみを減らしてひかり、こだまを充実させる余地が生まれ、沿線都市と三大都市相互間の移動時間、フリークエンシー(往来の頻度)が大幅に改善されます。

27年開業難しく

 14年に着工し、22年度まで1兆5000億円を超える投資をしましたが、静岡県の理解が得られておらず、25キロある南アルプストンネルのうち8・9キロの静岡工区は着工できていません。問題は大きく二つあって、大井川の水利用と南アルプスの環境です。当初予定の名古屋までの27年開業が困難になっています。

 静岡県とは議論しており、国においても水・環境の問題それぞれについて有識者会議で検討してもらっています。水問題は21年12月に中間報告が出され、環境の問題も相当議論が進んでいる段階。当社としては地域とのコミュニケーションを取りながら真摯(しんし)に対応し、解決を目指して取り組んでいます。

 鉄道は人と人の交流を盛んにし、その交流とその中で醸成される創造力が経済、社会、文化、科学の発展をけん引する。こういう思いで新幹線のサービスを磨き、リニアと一元的に経営して日本の大動脈輸送を支え、在来線と関連事業の発展を通じて社会の発展に貢献したいと考えています。

   ◇

かねこ・しん

 1955年富山県生まれ。78年東京大法学部卒業、旧国鉄入社。87年の国鉄分割民営化に伴い、JR東海へ。主に人事畑を歩んだ後、新幹線鉄道事業本部管理部長。専務、副社長、社長を経て2023年4月から現職。副社長時代に中央新幹線推進本部担当を務めた。

収益面で新幹線の依存度高く

 JR東海は1987年の国鉄分割民営化に伴い、東京から新大阪までの東海道新幹線及び名古屋周辺と静岡地域の12の在来線を引き継いで発足した。沿線の人口でいえば日本の6割強、国内総生産(GDP)の65%を占める日本経済の中心を営業エリアとしている。

 営業エリアの経済力が圧倒的に強く恵まれていたため、国鉄分割民営化に当たっては重い負債を背負うこととなった。収益力のある東海道新幹線を運営する一方で、最大5・5兆円の債務があった。

 国鉄時代の終盤は新幹線の利用が伸び悩み、初年度(87年度)の単体決算は売上高に相当する営業収益が8746億円、最終(当期)利益は165億円。100億円台の利益で5兆円を超える債務を返していくという厳しい経営状態でスタートした。

 ただ、国鉄時代は新幹線で上げた利益をローカル線など他の部門で発生する赤字に補塡(ほてん)していたため、新幹線への投資は十分ではなかったが、JR発足後は積極的な投資が可能になった。サービスを磨き上げて利用や収益の増加につなげた。

 経営理念は「日本の大動脈と社会基盤の発展に貢献する」。2022年度の連結決算では営業収益の8割が鉄道事業で、大手の鉄道事業者としては圧倒的に高い。その中でも収益の92%を上げているのは屋台骨の東海道新幹線だ。

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