starthome-logo 無料ゲーム
starthome-logo

不足する本ワサビ 新たな産地は“裏山” 農家巻き込む大手の着眼


 日本原産の「本ワサビ」に異変が起きている。日本食ブームで海外需要が高まる一方、農家の高齢化や地球温暖化の影響で生産量が激減。チューブ入りなど加工ワサビの製造で不足する原料は中国などの海外産でまかなわれており、国産はメーカーによる争奪戦の様相だ。根強い国産人気に応えるため、業界大手の金印(きんじるし)(名古屋市)が目をつけたのは東北の“裏山”だった。

国内生産量は15年間で5~6割減

 本ワサビは、長野県安曇野市や静岡県伊豆地方の山間部で清流にさらしながら栽培する「ワサビ田」が知られている。栽培に適した気温は8~18度で、極端な暑さや寒さに弱い。そのため、温度変化の少ない伏流水が重要な役目を果たすというわけだ。

 実は、本ワサビは土の畑でも栽培できる。直射日光に弱く、湿気を好むため、山林に生い茂る木々の隙間(すきま)が適地とされる。国産の約6割が伏流水で育てる「沢ワサビ」、残る約4割が「畑ワサビ」だ。

 沢ワサビも畑ワサビも品種は同じ。加工用には主に茎をすりおろして使う。多くの人が思い浮かべる緑色の太い根っこのような塊は「根茎」と呼ばれ、茎の下部が育ったものだ。沢ワサビは特に太く育ち、高級品だが独特のえぐみがある。そのため「畑ワサビを好む人も少なくない」(業界関係者)という。

 そんな本ワサビは国内生産量が激減している。2006~21年の15年間で、沢ワサビは3161トンから1216トンに6割強も減り、畑ワサビも1424トンから668トンに5割強減った。

 農家の高齢化に加えて、かつて畑ワサビの主要産地だった島根県や山口県などの西日本で、温暖化の影響により栽培が難しくなっていることが主因だ。

 その一方で、本ワサビの需要は底堅く、特に海外で伸びている。

 業界大手の金印では、22年の国内売上高はコロナ禍で外食が減った影響により19年比で1割減ったものの、海外売上高は7割増えた。

 欧米などで日本食ブームが続いているほか、物流が不安定になる中で在庫を確保する動きが強まった影響という。担当者は「国産の需要に対して原料生産が追いつかない状況が続いており、輸入原料の使用を増やさざるを得ない」と頭を抱える。

農家の新たな収入源に

 新たな産地はないものか――。金印が目をつけたのが、東北の“裏山”だ。

 「農家の皆さんは裏山に山林を持て余していると思う。今まで使い道のなかった土地で本ワサビを栽培すれば、新たな収入源になる」。7月上旬、宮城県と金印が開いた説明会で、本ワサビの栽培に詳しい業界関係者が、参加した13人の農家に呼びかけた。

 東北は夏でも比較的涼しく、山深い西日本に比べて開けた土地の近くに山林が多いことから、畑ワサビの栽培に適しているという。

 関係者によると、金印は約20年前、東北でも比較的交通の便が良い岩手県の岩泉町で畑ワサビの栽培を始め、10年ほど前には遠野市にも手を広げた。それでも原料不足が続くことから、宮城県でも新たな産地の開拓をもくろんでいるのだ。

 一方、農家にとっても本ワサビ栽培はメリットが多そうだ。

 まず、ワサビ特有の辛みゆえ獣害がめったにない。また、重量がさほどないため農作業の負担も軽め。11月に苗を植えて翌々年の6月に収穫するサイクルは他の農作物と重なりにくく、既存の農家も新たに参入しやすい。

 加えて、収穫した本ワサビは金印が全量を買い取るというのだ。価格は非公表だが、県によると「他の農作物と比べてかなりの高値」で、市況に左右されず安定した収入が見込めるという。

 宮城県加美町の稲作農家、氏家賢司さん(75)は、「休耕田を活用したい」と町に相談したところ、提案されたのが裏山を活用した本ワサビの試験栽培だった。

 国の減反政策で、この10年ほどで作付面積を15%減らしたという氏家さん。昨年11月から裏山と休耕田の計3カ所(計約6アール)に本ワサビ約4000本を植え、日当たりの違いなどが生育にどう影響するかを試している。「うまくいったら植え付け時期をずらした畑を複数作って、毎年収穫できるようにしたい」と期待を込める。

 農家の本ワサビ栽培を支援する宮城県北部地方振興事務所の伊藤吉晴・技術次長は「宮城に適した栽培方法を模索し、いろいろな知見が得られている。農家にはぜひ挑戦してほしい」と話す。【小川祐希】

    Loading...
    アクセスランキング
    game_banner
    Starthome

    StartHomeカテゴリー

    Copyright 2024
    ©KINGSOFT JAPAN INC. ALL RIGHTS RESERVED.