starthome-logo 無料ゲーム
starthome-logo

コロナ5類移行、医療機関数が増えても…高齢者施設が不安覚えた変化


 感染症法上の位置付けが引き下げられてから、新型コロナウイルスの感染者がじわじわと増えている。5月の5類移行で保健所による入院調整がなくなり、高齢者福祉の現場からは「また感染者が急増したら、入院や受診が断られやしないか」と不安の声も。「コロナ後」の日常が進む中、家族を亡くした悔しさを改めてかみ締める人もいる。【長屋美乃里】

 6月下旬から7月にかけて沖縄県での感染拡大が顕著になっている新型コロナ。茨城でも5類移行直前は1医療機関当たり1・69人だった感染者数が7月中旬には同10・33人と膨れ、クラスター(感染者集団)を体験した沢村享雄さん(49)は警戒感を強める。

 沢村さんが事務長を務める茨城町の介護老人保健施設「桜の郷敬愛の杜」(100床)では2022年1~2月に職員と入居者計49人が感染した。感染者が出る度に保健所に報告し、保健所から受診が必要と判断された人は病院で医師の診断を受け入院の要否が決まった。

 中には病院で「肺炎がないので施設に帰ってください」と言われたものの熱が下がらず、その後肺炎になったり基礎疾患が悪化したりした入居者も。だが保健所に救急搬送を要請しても、受け入れ先が決まらず救急車が来ない。たまりかねた職員が保健所に電話しても「まだ調整がつかない」と言われるばかりで4~5時間待った。「でも(保健所ではなく病院に)直接電話していたら、(それ以上に)決まらなかったと思う」と振り返る。

 5類移行で保健所による入院調整は原則なくなった。そして6月末、沢村さんが不安を覚える出来事があった。

 施設のデイケアサービスを利用する男性が新型コロナに感染。男性は人工透析のため週3回、病院の送迎車で通院するが、7月11日まで「送迎できない」と病院側に告げられた。男性の妻も高齢のため、職員が介護タクシーを調べて手配した。5類移行に伴い国の療養期間の目安は「発症翌日から7日間」から「5日間と症状軽快後1日程度」と短縮されたが、ウイルスそのものや医療現場の対応力は変わらないと身に染みた。

 「送迎手段を(患者が)自分で探せというのはむちゃくちゃ」と病院側に苦言を呈する半面、理解もできるという。「(国の制限が)緩和されても(ウイルスへの)対応が難しいのは一緒。沖縄の(医療提供体制の)ひっぱくもあり病院も怖いのかもしれない」

 水戸市の特別養護老人ホーム「あいおんの里水戸」でも22年8~9月、入居者と職員約60人が感染した。当時の施設長の武藤均さん(65)は保健所に、「症状がなく施設で療養した人の状態を確認し、熱が上がれば『発熱外来で診てもらいましょう』とか『ここの外来なら今受け入れてもらえる』と教えてもらった」と感謝する。約30キロ離れた日立市の病院に入居者が搬送されたこともあったが、それも保健所の調整で見つかった受け入れ先だった。

 県医師会は、5類移行前の約1・4倍に当たる約1200カ所の医療機関が新型コロナに対応することになったと発表した。また厚生労働省は医療機関同士の入院調整を助けるとして全国の医療機関の稼働状況などを共有するシステムを整備している。だが武藤さんは「誰が権限を持って調整するのか疑問で、現実的には難しい気がする」と懸念する。協力してもらえそうな病院などを「確保」はしているが、「そこがいっぱいになって『無理です』ということもあるだろう」と顔を曇らせる。

施設で夫亡くした女性、個室管理の徹底訴え

 感染が拡大し、高齢者施設で感染者の隔離が難しくなったら――。施設で夫を亡くしたひたちなか市の武藤きよ子さん(79)は、個室管理が行き届かない施設の在り方にやりきれない思いを吐露する。

 きよ子さんの夫功さん(当時85歳)は2022年3月、自宅の庭先で転倒し左の太ももを骨折。手術後の5月、リハビリができる市内の介護老人保健施設に入所した。希望する個室はなかったが、リハビリのできる施設が他に見つからず、4人部屋で生活した。

 「歩けるようになって、一緒にリハビリしている人に拍手喝采された」。きよ子さんの手元には、順調に進んだリハビリ中に功さんから届いた手紙が残る。11月には個室のある新しい施設に移ることが決まった。

 ところが移転を目前に控えた11月25日。功さんの同室者が新型コロナに感染したと判明した。2日後には功さんも発熱し、29日には肺炎で病院に救急搬送された。

 12月2日、病院から「今日明日が山場」と伝えられ、家族でリモートで声を掛けた。「じいちゃん頑張って」。それに応えるように功さんが酸素マスクの下で舌を動かしているのが見えた。しかし翌日、息を引き取った。

 きよ子さんら家族は憤った。「どうして感染者が出た時点で別の部屋に隔離をしなかったのか」。だが高齢者施設では、県の手引きや国の通知で「他の利用者との間に2メートル以上の間隔をあけ、ベッド周囲のカーテンを閉めるなど飛沫(ひまつ)感染予防を徹底する」ことが認められている。個室が足りないと、相部屋で療養せざるを得ないこともあるからだ。功さんの施設でも、その通りの措置がされていた。

 今もきよ子さんは「感染者や濃厚接触者は必ず個室管理にしてほしい」と願う。だが「コロナ後」の日常で、そうした声はかき消されている。

    Loading...
    アクセスランキング
    game_banner
    Starthome

    StartHomeカテゴリー

    Copyright 2024
    ©KINGSOFT JAPAN INC. ALL RIGHTS RESERVED.