地下深くまで降りると、プラットホームにはデジタルサイネージ（電子看板）や巨大な路線図が設置されている。ここは地下鉄の駅というより、近未来的なオフィスのようだ――。ロシアの首都モスクワでは今年3月、地下鉄の環状線としては世界最長となる全長70キロの路線が開通した。4月下旬に催されたメディア向けツアーで試乗してみた。
モスクワの地下鉄網ではすでに二つの環状線が走っているが、市当局は渋滞改善を狙い、「大環状線」と名付けた新路線を完工させた。これまでは全長57・1キロの北京の地下鉄環状線が世界最長だったが、31駅で構成されるモスクワの新路線がトップに躍り出た。
ツアーでは、メディア向けに用意された列車に記者が搭乗。先頭車両に掲げられた路線図には、この路線が開通した3月1日の日付と共にプーチン大統領の直筆サインがあった。続いて、運転席近くでの取材が許可された。運転席の横に立ってカメラを構えると、地下鉄は音も無く動き出した。目の前にSF映画で見るような無機質な空間が広がっていく。
モスクワの地下鉄はソ連のスターリン時代に建設が始まり、壮麗な駅の数々で知られる。一方、十数年前まで真冬の地下鉄では、暖を取るために野犬が乗り込む姿も珍しくなかった。今では市内各地でインフラ整備が進められ、地下鉄でも近未来を思わせる施設が次々誕生している。ロシアはウクライナで続ける「特別軍事作戦」を収束できていないが、モスクワや近郊では「平穏な光景」が多く見られる。【モスクワ大前仁】
