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拝啓、ビール職人になりました。



2021年1月、ぼくはブルワー(ビール職人)になった。

今までビール会社に勤めていたわけでも、発酵を専門に勉強してきたわけでもない。クラフトビールが特別すき、というわけでさえない。大手ビールメーカーがつくるビールを家族や友達と楽しくおいしく飲む時間が大大大好きなだけだった。

今日の記事は、そんなどこにでもいるビール好きをブルワーの世界に導き、受け入れてくださった、先輩方のお話。

新米ブルワーが連載をはじめます


はじめまして。髙羽 開(たかば かい)といいます。

岡山県倉敷市生まれの28歳。現在は自身のブルワリー(醸造所)とブランドの立ち上げを目標に、高知県仁淀川町の『Mukai Craft Brewing』で醸造の修行をしています。

そんな新米ブルワーのぼくが、この度この『ビール女子』で週に1回コラムを書くことになりました。

コラムのテーマは決まっていません。実はぼく、ことクラフトビールに関してはつくり手としてだけでなく、飲み手としても初心者です。ビールというものの魅力や可能性を作り手・飲み手どちらからも勉強している毎日です。そんな日々を切り取っていろんな角度から、今日や明日、今週末のビールがちょっと楽しみになるようなコラムを書いていければと思っています。

記念すべき第1回は、冒頭にも書いた先輩ブルワーのみなさんについてです。

Google!日本一のブルワーを教えて!


「クラフトビールをつくりたい」

そう思い立ってまず行ったのは、日本一のブルワーを調べること。いち早く成長するためには、(自分がたくさん努力することが前提で)やっぱり環境が大事なので、とりあえず「日本一 ブルワー」でググってみた。

わかりやすく日本一と称されている方はいなかったが、検索結果のページをポチポチと進めていくと、あるひとつの記事がヒットした。

世界で最も有名な日本人ビール醸造家がグアムにいる理由

むむむと思ってページを開いてみると、紹介されているのは「石井敏之(としゆき)」さんという方。そしてそこには、憧れざるをえない石井さんのキャリアパスが紹介されていた。

・今やアメリカで10本の指に入る『Stone Brewing』の創業直後にジョインし醸造の経験を積む

・帰国後は『ヤッホーブルーイング』でCOOや醸造責任者を務め、『よなよなエール』や『東京ブラック』の開発・醸造をリード

・その後グアムに渡りブルワリーを立ち上げ、日本人としては初めてアメリカでオーナーブルワーとなる


「この人だ!」

グアムに移住する心の準備を5分で済ませ、ビールへの思いと自分のスキルを書いた「弟子にしていただけませんか」という旨のメールをお送りした。


結果は、だめだった。

新型コロナウイルスの影響でグアムの観光客が激減し、自主廃業という選択をせざるをえなくなった、というお返事をいただいた。

お断りの連絡に続けて、石井さんはたくさんのアドバイスを添えたメールを送ってくださった。

ブルワーになるのは、今の日本ならそれほど難しくはないでしょう。
どこかお好きな銘柄のビールを創るブルワリーの門を叩くとか。
近所のブルワリーに入り浸って馴染の客になって、いずれ中に入るとか。

海外の醸造学校へ入って勉強するという手もあるでしょうかね。

日本には英米豪加等々日本で起業したオーナーブルワーがいますので、そこから海外への紹介もあると聞きます。

なぜそうやるのか?なぜそうなるのか?「今までそうしてきたから、前任者がそうしていたから」ではダメです。

重要なのは「違い」を知るという事です。他流を知らないと、王道とか正道とか判別できないと思います。

そして、メールの最後はこう締めくくられていた。


「何てかっこいい方なんや...」

衝撃だった。石井さんはコロナ禍でご自身の活動が大変であろう中、会ったこともなく自分のビールを飲んだこともない若造に、具体的な道をいくつも示してくださった。

これはもう、愚直に従うしかない。「ブルワリーの門を叩くとか」という石井さんのアドバイスどおり、ブルワリーの門を叩きに行くことを決めた。

ブルワーという職業人の共通項(超個人的見解)


そして僕は、2020年8月勤めていた会社を退職した。

コロナのこともあり、あまり遠くのブルワリーに行くのもなぁと思い、中四国のブルワーさんたちに「ブルワーを目指しています。お話を伺わせてもらえませんか」という旨のメールを送りまくった。

お送りしたメールへの返信率は100%だった。ほぼすべてのブルワーさんが快くOKしてくださった。コロナ感染の可能性もあり、直接会うのは難しいという方もいたけれど、その方々もZoomやメールでお話ししてくださった。

そして9月、3週間のブルワリー巡りをおこなった。お話をしてくださるお相手へのお礼はビールを買うことしかできなかったので、夜は車中泊をして宿泊費はすべてビール代にまわした。

作っているビールの種類、醸造設備、生産量、ターゲット、販売形態、ブルワーになった経緯。当たり前のことだけど、1つとして同じブルワリーはなく、1人として同じブルワーさんはいなかった。ただ、みなさんに共通していたことがあった。

ひとり残らずオープンで、ウェルカムで、とても素直にアドバイスをくださったことだ。

自分でつくるのが1番早い

ひとりで始めると雑務に忙殺されるかも

これからの時代ビールを作ってるだけじゃダメ

ブルワリーの増加にマーケットの成長がついてきていない

まずはある程度規模があるところで基礎を学ぶべき

独立したいなら、もう少し待ってからの方がいいかも

海外出身でホームブルーイング(自家醸造)をしていた人の下で働くといい

決して甘い世界ではないということを、どのブルワーさんも節々で伝えてくれながらも、多くの方が「それでもビールの仕込みは楽しくてしょうがない」とおっしゃっていた。「作りたいビールがありすぎて、一生じゃ足りない」という方もいた。

話を伺った帰り際には、みなさんが「わからないことがあれば、いつでも連絡くださいね」とおっしゃってくれた。

「何てかっこいい方なんや...」

中四国のブルワリー巡りの帰り道、ブルワーになる決意を新たにした。

先輩ブルワーを思い出したある日のある出来事


2020年12月、ぼくは高知に移住し、今年のはじめから『Mukai Craft Brewing』で働きはじめた。自分でも醸造所の立ち上げの準備を進めている中で、これまでに出会った先輩ブルワーのみなさんに共通して覚えたあの「オープンさ」や「ウェルカムさ」が形作られた背景がなんとなくわかった気がする。

日本では他の多くの国と違って、酒造免許がなければ法律上(アルコール度数1%以上の)液体をつくることができない。その酒造免許の取得のためには、醸造技術・経験の習得、高額な醸造設備購入のための資金調達、商品完成の前に求められる販路の獲得、税務署や保健所へのさまざまな申請など、決して低くないハードルがたくさん存在する。

「醸造技術・経験の習得」に関しては申請する際にどこの誰から習ったかを証明する必要がある。これだけ情報やノウハウが民主化された現代で、クラフトビールをつくるブルワリーを始めたくても、絶対にひとりの力ではできないようになっている。

「(自身のブルワリーでの)クラフトビールづくり」を夢見た人は、多くの先輩方の協力があって、その夢を実現することができる。


先日、『Mukai Craft Brewing』の醸造所に、近い将来長野県でブルワリーをつくりたいというご夫婦がいらっしゃった。「今日は開がご案内する?」という醸造長のKenさんからの提案で、働き始めてからはじめて、僕が製造工程や、醸造設備、ブルワリー立ち上げ時の注意事項などをご説明した。

その後、立ち上げ予定のブルワリーや創りたいビールのイメージなどのお話を伺った。そして、ご夫婦が出発されるとき、Kenさんがおふたりに一言。

「応援しますので、わからないことがあればいつでも連絡ください。」

ご夫婦の顔が、安堵と喜びでいっぱいになった。

聞き覚えのある言葉と身に覚えのある表情だった。数ヶ月前、先輩ブルワーのみなさんがぼくにかけてくださった言葉と、その言葉がありがたくて仕方なかったぼく自身の表情だった。

これまでお会いした先輩ブルワーのみなさんの顔が頭に浮かんで、目の前の景色から意識が離れた。

「ぼくでよければ、ぼくにも...いつでも!」

一瞬で意識を戻し、慌てて自分も付け加えた。

数ヶ月前の自分と反対の立場に自分が立っていることに気づき「ブルワーになったんだ」と改めて、いや、はじめて感じた。とても不思議な感覚だった。同時に、堂々と言えなかった自分に「まだまだやんけ!」と喝を入れた。


ビールづくりは面白い。その面白さを求めてビールづくりを生業にする人が今急増している。自分もそのうちのひとり。

先輩ブルワーの方々が懸念していた「ブルワリーの増加にマーケットの成長がついてきていない」問題はたしかにあるけれど、僕と同じくビールが大好きでビールを通じて人の幸せに寄与したいという人がいらっしゃったときは、先輩ブルワーのみなさんがこれまでも現在進行系でもたくさん僕にご指導・ご協力くださっているように、僕も全力で力になりたいと思う。

他の業界のことは知らないけれど、そんな人ばっかりが集まった業界なかなかないと思うし、そんな業界だからこそ社会に提供できる価値は、おいしいビール以上にあるような気がする。


ビールを楽しむことに、難しい知識は全然必要ではありません。ですが、「今日、明日、今週末みなさんが飲むビールの裏側には、こんな人たちがたくさんいます!」ということを少しでもお伝えできればと思い、連載初回はブルワーの先輩方について書いてみました。

この業界に導いてくださった石井さんに敬意を込めて(丸パクリして)、記事の最後はこの言葉で締めさせていただきます。




Cheers(乾杯)!
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